19:THE FIRST TIME

 玄関のドアを開けて、靴を履いたまま電気をつける。

 シューズボックスの上の置き物たちが私を出迎えてくれる。他にもバイト先のみんなで撮った写真を入れた写真立てや、ペン立てにハンコと鍵を置くお皿、昨日切り花を生けたガラスの花瓶がある。

 みんなには物を置きすぎだと言われるが、玄関が賑やかなのが好きなのだ。


 今日は客入りも良く、ずっとバタバタだった。ご飯を作るよりも先にお風呂の準備をする。


 湯船にゆっくりと浸かっていると、眠気が襲ってくる。湯船で寝るのは危ないらしい。私は顔をこすって鏡を見た。くまがひどい。


 また、明日も頑張らなくては。


   ***


 玄関とドアを開ける前に、何もなくなったシューズボックスの上を見つめた。ここにあったものは、もう新居に届いている。

 春からは新しい環境でいちから生活が始まるのだ。


 まだ肌寒い外に出ると、太陽の日差しが眩しい。


 駅の方に向かう。心なしか、街ゆく人たちの顔もどことなく希望を携えているように見える。


 人混みの中を流れに逆らうようにこちらに向かって来る男の人がいる。

 夢見がちな、トロンとしたような目。


 ぶつからないように身体を捻って、そのまますれ違った。



──End.

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ビリオンステップ・タイムループエスケープ 山野エル @shunt13

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