自殺クラウドファンディング最後の出資者

ちびまるフォイ

自殺もできない人へ

「よし、これで登録できた。あとは出資されるのを待つだけね」


自殺クラウドファンディングの存在を知ったのはつい最近。

いろんな人が私が自殺するための費用を出資してくれる。


「お、もう集まってる……! これならすぐに死ねそう」


自殺といっても費用がかかる。


自分が死んだ後の後片付けの費用はもちろん、

死ぬために必要な薬の購入費用などさまざま。


自殺したいが苦しみたくはない。

苦しまないためにはどうしてもお金がかかる。


自殺クラファンを初めて3ヶ月後。

目標金額の8割までお金はたまっていた。


「みんな私の自殺を応援してくれてる……! うれしい!」


サイトの数字を見るたびに嬉しくなる。

そんなとき、メッセージが1通届いた。



>はじめまして、私は反自殺団体のものです。


>自殺クラウドファンディングで自殺費用を集めているようですが、

>あなたはまだ若く、この先にもっと幸福が待っているでしょう。


>どうか思いとどまってください。



メッセージを見ると、イラッとした。


「私のこと何も知らないくせに……!

 自殺するのに年齢なんて関係ない。

 人生の幸福でマウント取らないでよ!!」


メッセージには「ほっといて」だけ返信した。

それからしばらくはメッセージが届くことはなかった。


けれど、順調だったはずの自殺クラウドファンディングは

目標金額の90%までたまったところで急にスピードが落ちてしまった。


「なんで……なんでこんな急に止まるのよ!

 みんな私の自殺をあんなに応援してくれてたじゃない!」


急に出資スピードが鈍化するや、

今度はこれまでお金を出してくれてた人も

波が引くように出資を次々に取り下げ始めた。


「ちょっと待ってよ! 私は自殺するんだって!

 せっかくここまで貯まったのに逃げないでよ!」


一度でもその"流れ"になると、もう戻らない。

出資者は次々に出資を取り下げていく。


自殺クラウドファンディングで自殺に成功すると、

自殺した保険金は出資者に分配されていく。


出資者にとっては、そのお金のバックがあるので安心してお金を出せる。


けれど90%のところから進行しなくなるのを見れば、

自殺はされなくなって、お金の返金も期待できない。


だからみんな逃げていってしまうのだった。


「これじゃ……これじゃ、私死ねないじゃない……!」


みるみる切り崩されていく出資金額に絶望する。

そこにまたメッセージが届いた。



>反自殺団体です。


>出資者のみなさんに自殺のおろかしさと

>出資による自殺ほう助についてお話しました。


>もうお金なんて集まりません。


>これを機に人生を辞める方向にではなく、

>人生を変える方向で生きてみませんか。



「こいつのせいで……っ!! 余計なことを!!」


どれだけ腹を立てても事態はなにも変わらない。

目標金額はみるみる遠ざかっていく。


目標金額まで 80%


目標金額まで 70%


目標金額まで 60%



目標金額まで 50%





目標金額まで 110%


< 目標金額に到達しました! >




「……え?」


右肩さがりだった目標金額がなぜか急にジャンプアップした。

理由はひとりの出資者が多額のお金を放り込んだらしい。


「や、やった! 私死ねるんだ! ありがとう! 神様!!」


反自殺団体が余計なことをしても、

私の自殺を強く応援してくれる1人により救われた。


生きていて今が一番幸福だと思った。


すると、最後に60%ぶんも出資したひとりからメッセージが届いた。


>ちょっと会ってお話しできませんか?



数日後、待ち合わせの場所へいくと

いかにも普通そうな人が待っていた。


「どうも……出資してくれた〇〇さんですか?」


「はい。実はお話があるんです」


「まさか……あなたも反自殺団体じゃないですよね!?」


「ちがいますよ。僕はあなたの自殺を応援する人です」


「よかった……」


この期に及んで「死んではいけない」とか

「みんなが悲しむ」とか説き始めたらどうしようかと思った。


「話というのは、あなたを殺させてほしいんです」


「は……?」


「あなたは自殺したいんですよね? 僕は殺したいんです」


「いやいやいや、なんでですか。あなた殺人鬼ですか」


「いいえ、死ぬ勇気もない、よわよわ人間ですよ」


「もし断ったら……?」


「僕は出資金を回収するつもりです」


「げっ」


もしもこの人がお金を回収してしまったら、

自殺までの目標金額は50%にまた戻ってしまう。


ふたたび人生のピリオドからは遠ざかる。



「……条件があります。ひとつ、私が苦しまないこと」


「もちろんです。苦しませるつもりはないです」


「ふたつめ、私の死後に遺体に触れないこと」


「当然です。どうせさわれません」


「みっつめ、私が認める方法で死なせること」


「かまいません。僕は殺すことに快楽を感じるタイプではないです」


「……条件を守るなら、いいですよ」


こうして私は自殺といいつつも殺される方向で進んだ。


事前に死んでもできるだけ周りに迷惑かけない日取りと場所を選び、

相手からどういう風に自分を殺すのかを聞いてうちあわせをした。


「じゃあ、この方法で殺してください。一番楽そうなので」


「はい、わかりました。では明日にはじめましょう」


遺書をしたため、明日にそなえた。

次の日は晴れていて死ぬにはいい日だった。


「それじゃはじめます」


「……その前に、ひとつだけ教えてください」


「なんですか?」


「どうしてわざわざお金を出してまで、私を殺したいんですか。

 見たところ、女性を殺したいという性癖の人でもなさそうですし」


「僕も……昔は自殺クラウドファンディングしてたんですよ。

 でも男性は女性よりも応援されにくくて、目標金額に届かなかった」


「……?」


「どうにか死ぬ方法を探してたんですが……。

 やっぱり自殺を自分で実行するのって難しいですから、今にいたったんです」


「よく……わからないけど、まあ……いいです。始めてください」


「はい、さようなら。本当に僕に協力してくれてありがとう……」


事前に用意した神経毒を注射してもらい、

動けなくなる前に眠り薬を吸入してストンと眠りに落ちた。


やがて心臓は毒で動かなくなり、眠りながらあの世へと旅立った。




目標人数まで 3/3人


< 目標人数に到達しました! >



男のもとへ、他殺クラウドファンディングのメッセージが届いた。


「ああ、やった……ついに達成できた……」


男はうれしそうに涙を流した。


全財産を自殺クラウドファンディングに出資したのは賭けだったが、

こうして他殺人数に達することができたのが幸いだった。



まもなく男は逮捕され、3人も殺した人間として死刑にされた。

死刑台の上で男は嬉しそうに話したという。


「自殺する勇気のない僕でも、死ぬことができました!」

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