第22話 盗聴器と失態

 『何をするんですかッ!?』

 

 シャリスの魔法石から、聞き覚えのある声と結構な物音が響いてきた。


 『きゃあッ……私の貞操がぁッ……純潔がぁッ!?』

 『黙れこの駄ウサギ!!』


 バシィィィン!!


 『ぴゃいっ!!』


 一度帰還して実家のベッドの上でシャリスと二人、魔法石に耳を傾けていた。

 というのも、兎人族の族長らの行動を不審に思った俺たちはノエルに、去り際に小さなブレスレットを渡していたのだ。

 ブレスレットの側は全ての音を拾うマイク付きであり、シャリスの持つ魔法石がスピーカーの役割を果たしていた。 

 分かりやすく言えば二つでセットの盗聴器だった。 


 「ねぇカナタ」


 シャリスが真面目くさった顔で見つめてきたので、


 「なんだよ」


 そう応じるとシャリスは、


 「あれでいてノエルって処女なのね」

 「うん、真面目な話かと思ったら結構どうでもいいことだったな」


 まぁたしかに驚きではあるけれども。

 つい先日(日本の時間軸では「さっき」)には発情期のノエルに痴女られたばかりだし。


 「そんなことより、ノエルの危機を心配した方がいいんじゃないか?」

 「あのドスケベ駄ウサギに心配なんて不要よ……というわけにもいかないわね」


 ドスケベって……俺の知らないところで随分とその魔法石は仕事してたってことか?

 なにそれ……めちゃくちゃ気になる。


 「おそらく族長の手の者か、或いはヴァルデックと人狼族を動かした連中だと思うけれど?」


 どうかしら?とシャリスは俺の目を見つめた。

 現状考えられる可能性として、おおかたシャリスの推測で間違いないだろう。

 他の可能性があるとすれば……兎人族の情報に踊らされたと考える人狼族の復讐だ。

 だが、不必要な行動は控えるように代表としてきた少女に伝えて――――――ってあれ……?


 「なぁシャリス、人狼族の代表って今どうしてるっけ?」

 「宿に置いてきたわね」

 

 なにそれ全然ダメじゃん……。


 「帰って来たばっかだが戻ろう」

 「今から『水戸の副将軍』を観たいのだけれど?」

 「却下だ」


 話の展開がある程度決まっている時代劇とミットガルトの命運に関わる一大事とじゃ重さが違いすぎる。

 

 「ヤダって言ったら?」

 「背負ってでも連れて行く」


 そう言うとシャリスは俺の背後に回ると、背中に身体を預けてきた。

 そして耳元で囁いた。


 「嫌だ♡」


 仕方なく能力の身体強化を用いて、シャリスを背負う。

 以前、怪我したシャリスを背負ったことがあったのだが、身体強化を使わなかったので素直に「重い」と言ったら半殺しになったのでその教訓だった。


 「行くぞ」


 玄関から昼下がりの街並みへと飛び出して、異世界間通路を目指すのだった。

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異世界還りの勇者を追いかけてきたのは、ちょっぴり愛が重たいエルフでした〜影で始める新・英雄譚〜 ふぃるめる @aterie3

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