01-02. 草原の実験
意外な印象だったが、森の外はなだらかな草原になっていた。
目覚めた場所が森の中(木の根っこ)だったので、森を抜けた先が見晴らし良すぎ、何度も見比べてしまった。森の周辺は
その後はずっと草。
性能のいい望遠鏡で覗けば森から壁街まで一直線に見えそうで、なおさら冒険者達が何に迷ったのか疑問に思う。魔物は出たが森に比べれば小物の類で(ギルド登録の折に数匹を換金したらイイ稼ぎにはなったが)、小物でも数が多いので野営などでは面倒、というのがラースの意見。
目印になる立木も林もないからか、とも思うが、地域的に雨が少ないか土地が痩せているのか、壁街が岩丘だから土壌層が薄いのか、川もないから水源が少ないのか、森が異常なのか。
つい調査したくなるのは悪癖。
壁街の井戸はかなり深く、マジウム値も高いので僕は処置なしでは飲めない。街に子供が少ないのもコレが原因かもしれない。魔素耐性が低いと衰弱してしまう。ただ不思議なのは、住人達が特に対策をしていない様子。気にしていないのか、知らないのか。もしくは対策が高価になるので、無視しているのか。
僕等の場合は方陣と魔石で対処できるが、壁街の場合は草原の薬草を乾燥させて水に沈めておけば同等の効果がある。
草原は何故か薬草が豊富に自生しており、其々の薬草から作られる薬液は概ね2種類。
と、ギルド2階の本棚に広告宣伝のように張ってあった。
まぁ要するに、壁外の草原程度の魔物に抵抗しながら採取依頼をこなせないようでは、この街で冒険者やっている価値はない、ということか。
本棚の情報はなかなか貴重だった。とりあえず周辺の薬草や危険な動植物の情報を仕入れて(もっと読みたかったのにラースに断念させられた)、今現在、ギルドのお薦め通りにラースと薬草採取に来ている。
ちなみにルースは単独で魔物討伐へ出ている。
通常は
めんどい。
そんなコトを考えていると、ラースが唐突に振り返り、小走りで近付いてきて、いきなり踏みニジッた。
小兄ぃの足裏には、胴体は変に太く頭が平べったい蛇。なんて魔物だっけ、と考えていると頭上から。
「少しは周囲に注意しろ」
文字通りの上から目線。ええ十は年上ですからね、偉そうですよね。
ラースは小刀で蛇の頭を貫き、動きが止まるのを待ってから持ち上げ、喉元から腹まで割いて、おもむろに指先で探る。探し出したのは小さな魔石。小さすぎて、対価もつかないクズ魔石だが、僕はこれも探していた。
「あと幾つ要るんだ?」
「5個か6個くらい」
合計10数個。ラースの半眼は「多い(面倒)」と語っていたが、実験なんだから仕方ない。綺麗に血を拭って渡してくれた魔石を受け取り、幾つかの方陣を書き込んだ用紙を取り出す。
何回か試して分かったのだが、魔獣から取り出したままの未処理な魔石では、柔軟な使用が難しかった。魔獣の生態に合わせた魔石、というか魔素の貯め方をしており、魔素の貯蔵や放出方法にも属性があり、使い勝手が悪い。
ので、いちど全魔素の放出をして、魔素の均等化をしなければならない。
しかし、森の魔獣の魔石でコレをやろうとしたら、メチャクチャ時間がかかる。つーかマダやってる。大きく純度の高い魔石ほど魔素の容量は高いが、フォーマットにも時間がかかってしまうよう。
だから小さなクズ魔石で実験の方向性が正しいかの確認。そしてもう1つの実験も。
魔石の初期化中に、周辺の薬草を探す。幾つかは見つけているが、今現在一番欲しいと思っているルンペをまだ入手していない。実験で幾つかは消滅するかもだから大目に見つけたいんだけど、と思っていたのに、ラースがもう多くを見つけてくれていた。
……うーん、ただの足手まとい5歳児か?
見つけた薬草は4種類。初回(かつコブ付き)としては充分な量かも。
「まだ探すか?」
「いや、薬草はいいよ」
「わかった」
言うと、ラースは彫像のように僕の脇に立つ。目を瞑り周囲の気配を探っているようだが、なんか威圧のオーラがすごい。弱い魔物も小動物も逃げ出しそうで、魔石集めにはならないが、これはこれでザコ除けの方陣構築してみたくなる。
ともかく、実験。
パキンと軽い音がして、魔石の1つが割れた。
魔素が無制限に放出され続ける設定にした奴で、ふむ、と考える。
これ、けっこうヤバイ現象なのかも。人間に例えるなら、つまり魔力切れが「死」に直結するか、魔石が割れるなら「魔法」が二度と使えなくなるのか。ギルドの本棚をもっと漁ればわかるのかな。
割れた魔石は白く濁り、指でつまむとサラサラ崩れる。細かなヒビが内部にまで広がっているのなら、どの程度魔素を抜けばいいのか、どの割合で魔石にダメージが入るのか、それとも放出割合を調整すれば崩壊は防げるのか、ヒビが入った段階で魔素を吸収させれば修復されるのか、そも魔石に含まれる魔素量をどう計測するか、含有量も限界以上に魔素を吸わせたらどうなるか、調べるコトは色々。
クズ魔石10個で足りるか?、と考えていると、唐突にラースが走り出して、蹴飛ばす。何かが、たぶん小物の魔物が空を飛ぶ。最初は盾を魔物に突き立てていて、魔物は風船のように爆ぜた。謎現象だが、ラースの盾には魔素を吸う設定にしてある森の魔物の魔石を仕込んであるから、草原の魔物には耐えられなかったのだろう。で、蹴鞠ゲーム化してしまった。内臓はグチャでも、ギルドへ素材として売る分には、そしてクズ魔石集め的には支障ない。
本当は探知レーダー的なモノを作りたかった。周囲の魔物とか、特定物質(薬草とか)が分かるようになるヤツ。しかし魔石の特性を知らなければ今後の使用方針が不安だし、対処ができない。
なんかもう魔石の属性に沿った使用方法を模索した方が早い気もしてきたが、僕たち姉弟は、少なくとも僕は、常に周辺のマジウムを魔石へ吸収させていなければ個体が持たない。つまり、次の対処策が見つからない限り、魔石を使わなければ死んでしまう。その使い方は変則的で、やはり魔石の特性を知る必要がある。
地道な実験あるのみ。
つまり、めんどい。
僕は深い深い、じつにオッサン臭いため息をついた。
蛇足だが、ラースの初仕事はギルドで微妙な評価を受けた。
まず薬草集めとはいえ弟(僕、5歳児)を同行させたことに叱責があり、集めた薬草は初心者にしては多かったこと、よりも蹴り回していた魔物の数が多すぎるわりに状態も悪すぎ、素材として売りたいならもっと綺麗に集めろ、と新人冒険者へ難易度の高い要求をされた。
同じ指摘は新人冒険者が単独討伐、なんて無茶をして、無茶な討伐数を稼いできたルースにもお達しがあり、明日は姉兄そろって冒険者心得の座学を受けるそう。
僕の方は周囲のプレッシャーからさっさと逃げて、宿の井戸水で実験していた。
井戸水に薬草(ルンペ)を浸して、本当に魔素が分解されるのか、というヤツ。しかし帰ってきた姉兄に背後からマウントを取られ、夕食までみっちり説教があった。
まぁ実験結果がすぐに出るわけもなく、翌朝になってもマジウム値の変化がなかった水にがっかりするのは予想範囲。しかも薬草から成分が出て変色した水はかなり苦い。
文献が間違っているのか、方法が正しく記載されていないのか。次は薬草を乾燥させるか、灰にしてから浸してみよう、と模索中。
千年の子供 千早丸 @nazo-c01
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