ポポポポポ、プププププ
三屋城衣智子
プププププ、ポポポポポ
寒い。二月も末なのに寒の戻りなのか夕方五時現在、雪がちらちらと視界を掠める。
俺――
※ ※ ※
画面を見ると、見た事のない番号である。誰だ?
「もしもし?」
「あー、繋がった、よかったぁ。わしわし、わしよぉ〜、お・ば・あ・ちゃ・ん!」
「なんだ、ばあちゃんか、どした?」
「どしたじゃないよ、あんた、元気しとる?」
電話は、ばあちゃんだった。俺は靴を脱ぎ玄関先に買った物を置きながら対応する。
「うん、何とか。ばあちゃんは?」
ばあちゃんは元気だろうか。地元は雪深かった、もうずっと帰っていない故郷は、今もまだ真っ白なのかもしれない。つらつらと考えながらばあちゃんの返事を待つ間に、部屋に電気をつける。2DKの俺の城は、乱雑に生活に必要なものこそあれど、シンプルだ。
「元気元気! わし百歳越すまで生きて記念品受け取る気だけん、毎日自転車漕いで頑張っとう」
「なら良かった」
「ほんであんた元気で良かったけど、お母さん心配しとったよ、顔見せよるんね?」
「え、お袋? なんかあった?」
「何かじゃないよ、あんた、この間オレオレ詐欺に引っかかってもうてから。ってあんた連絡いっとらんに?」
「初耳だけど」
「だいぶぅ取られて、ちょっと生活苦しいってこぼしちょっと。知られたくないんだろうけど、見てられんくてね」
スマホ越しに、心配そうな声が聞こえる。ばあちゃんは自分の娘のことが大層心配らしい。ため息にその気持ちが詰まっていた。
「それで?」
「ああ、んでね。わしが援助しちゃろういうたんじゃ、けどがんとして受け取らんくてねぇ。あんたからちょっと都合できんかね? 後で補填はするっち」
「いくら」
「確か二百言いよっち。けんど半分でええよ、後はわしが何とかしちゃるけん」
「ばあちゃんは年金暮らしだろ。後半分なんてどこで工面すんだよ」
「優しい子じゃねぇ。そんなもん、シルバーでコツコツやりゃなんとかなるけん。ばばあの本気、舐めたらいけんよ」
「ははっ、ばあちゃんらしいや。けどシルバーってそんなにもうかんの?」
俺は懐から今日の仕事道具を引っ張り出すと、ダイニングの机へと投げながらばあちゃんに聞く。パサリと落ちたゼロの並ぶそれは、適当なところが開いて止まった。
「んー、頑張って時給八百円くらいかねぇ。まぁ頑張りゃええんよ」
「ねぇばあちゃん、その仕事さ。金額倍になるのがあるって言われたら、どうする?」
「え?」
※ ※ ※
寒い。三月も頭なのに寒の戻りなのか早朝五時現在、雪がちらちらと視界を掠める。
俺は仕事帰りにコンビニで調達した缶コーヒーと季節最後だろう肉まんの入った袋を片手に、帰宅の途についていた。天涯孤独だが不自由はしていない、誰も待っていなくとも住むところはある。段々と暖かくはなってきているのか、手は
「あ、もしもしばーちゃん? 俺」
ポポポポポ、プププププ 三屋城衣智子 @katsuji-ichiko
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