この小説に名前はいらない。

夕日ゆうや

砂浜の男

 冬の砂浜、蝉の声がけたたましく鳴り響く。

 ん。冬に蝉の声とは? と思ったそこのあなた、ここは南半球なのです。季節が逆転しているのです。

 だからおかしくない。

 俺は砂浜を歩きながら、思う。

 こんな物語もあっていいんじゃないか。

 ただ主人公が砂浜を歩く。

 別に何かを抱えている訳でもない。特段幸せな訳でもない。

 何もない普通の男による、普通の観光。

 それがこの俺を中心とした物語だ。

 俺は主人公になって、何かを成し遂げたい訳でもない。

 ただひたすらに歩くだけ。


 ただ歩くだけ。

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