第18話
「うぅっ、さむ……」
洸太郎が思わず呟いてしまうほど夜の校舎はとにかく冷え込んでいた。
トイレに行く為とは言え、誰もいない夜の校舎を出歩くと言うのはかなり不気味な空気が出ていたが、それ以上に窓の外に広がる光景の方がもっと異常だった。
夜空に浮かぶ月は二つ浮かんでいて昼間に飛んでいたドラゴンは眠っているのか、その代わりに見た事のないような大きな鳥が煌びやかな翼を広げ飛び交っていた。
「(あれも上級幻想種ってやつなんだろうなぁ)」
余りにも典型的な
そして、ふと思ってしまうのだ。
百鬼洸太郎は本当に異世界に来てしまったのだ、と。
しかも自分だけでなく、白鐘蒼樹も紅月輝夜も自分とは違う世界からの召喚者だ。
もう悪ふざけが過ぎる展開にどうすればいいのか途方に暮れていた。
記憶がない為、何をどうすればいいのかも分からない状態なのでそこまで酷い混乱は見受けられなかった。
そして、洸太郎にはもう一つの疑問が残った。
それは――――――――――フェスが言っていた力のある者という発言だ。
彼ら上級幻想種と呼ばれる者達は崩壊する世界から〝力のある者〟を優先的に救いこの世界へ連れてきたと言っていた。
それは、裏を返せば何のメリットも無い人間を召喚はしないと暗に言っているようなものだった。
いくら他世界への干渉が出来ない『制約』があるとは言え、かなり横暴ではないか? と洸太郎は思っていたのだ。
「(何か裏があるのか? それとも俺が考え過ぎなのか…………)」
そんな事を考えていると洸太郎は思わずその足を止める。
彼の耳に僅かに届いたのは小さな誰かの話し声。
「―――――」
洸太郎は息を呑んだ。
ここが幻想的な世界とは言え、ついこの間にはここで大量の死人も出ている。
何かしらの
そっと覗いてみると、そこにはジャージ姿の蒼樹と輝夜の二人がそこにいたのだ。
「何か大変な事になっちゃったねぇ」
蒼樹の声は昼間よりも少し元気があった。
時間が経てば色々と気持ちの整理も付き始めたのだろう。
「蒼樹は強いわね…………私は最初そこまで状況の把握も出来てなければ理解も出来なかったわよ?」
輝夜が少し呆れ気味に、だがそれでも優しく言っていた。
「まぁわたしの場合は記憶がまだ戻ってないから深く考えてないだけだよ。輝夜ちゃんはある程度は戻ってるんでしょ? やっぱりまだ怖い?」
その言葉に輝夜は少し難しい顔をしていた。
どういう風に言えばいいのか迷っているようだった。
「そうね…………私の場合は戻った、と言ってもまだ断片的にだし、怖いか怖くないかで言えばすっごい怖いわよ」
遠い目をした輝夜が窓の外を眺めた。
外は七色のオーロラが神秘的に輝いており思わず息を漏らすほどに綺麗だった。
「私ね、貴方達と会うまでは一人だったし不安の方が大きかったの。記憶も無ければ知り合いもいない。ずっと一人ぼっち―――――まぁフェスが色々教えてくれたから助かったんだけどね」
近くにいた蒼樹だけでなく、遠くにいたはずの洸太郎の目にも彼女の姿が一瞬寂しく見えた。
記憶は無く、混沌とした世界に一人でいるというのはどれほどの孤独なのだろう?
唯一の話し相手がドラゴンと言うのはかなりレアな経験だが、それでも四六時中ずっといるわけではない。
すると蒼樹が輝夜の手を取った。
「輝夜ちゃん! 今はわたしがいるよ!!」
大きい声に驚いたのか、それとも突然何を言い出すのかと驚いたのか? 恐らくはその両方なのだろうが気にせず蒼樹は続けた。
「今はわたしも、洸太郎もいるっ。頼りないかもしれないし足手まといかもしれないけど―――――それでも一緒に頑張ろうよ! 絶対に記憶を取り戻して、元の世界を救って、で帰る!! それが今わたし達に出来る事なんだよ!」
真っ直ぐな彼女の言葉に輝夜は黙っていたが、ただ一言だけ「そうね」と答えていた。
「一人じゃない、か―――――本当、貴女は強いわね」
輝夜の声は何処までも優しい。
何か吹っ切れた様に軽く伸びをするともう一度だけ視線を蒼樹に、そしてちらりと洸太郎の方に向けられたような気がした。
「蒼樹、もう遅いから寝ましょう―――――また、明日にでも話し合って考えればいいと思うわ。コタローくんとも話をしなきゃいけないと思うし」
そう言って二人は教室へと戻り、暫くしてから電気が消えるのを確認した洸太郎はその場に座り込んだ。
「―――――――――――絶対に気付かれてた、よな」
洸太郎の呟きは虚空に吸い込まれるように消え入るような声だった。
そして、ある決意を抱く。その為には――――――――――、
「さっさと寝るか、もうそろそろだろうしな」
そんな事を呟きながら洸太郎も自分が就寝する教室へと戻る事にした。
彼らの決断する時は近い。
エターナルファンタジー《Eternal Fantasy》~世界樹と消滅する世界~ がじろー @you0812
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