第17話

 フェスの話を聞き終えた洸太郎と蒼樹は愕然とした。

 つまり記憶を取り戻した時、自分達もゆくゆくは小燐のようになってしまうかもしれない。

 そう思った時、あの鬼のような形相をした姿を思い出したのだ。

 「すまんの…………脅かすつもりはなかった。しかしこの精神汚染による凶暴化は儂らにも想定外の事だったんじゃ―――――それほどあの『大禍刻』とは厄介極まりないものじゃ」

 フェスの声はこちらを心配しているように聞こえる。

 直接声が聞こえるのではなく、頭の中に響くように聞こえるのは少し慣れないのだが。

 そう思っていると、フェスをフォローするように輝夜が話を続けた。

 「全員が全員そうなるわけじゃないわ。現に私は何も起きていない―――――記憶が完全に戻ったわけじゃないからハッキリとは言えないけど」

 困ったような表情で輝夜は言った。

 確かに今一番不安なのは彼女なのかもしれない。

 不完全ではあるが、徐々に記憶を取り戻しているのだ。

 自分がそうならないという確信がない以上その不安は誰にも取り除けない。

 「あの…………聞いてもいいかな?」

 蒼樹がゆっくりと手を挙げる。

 視線が彼女に集まり注目される。

 「結局わたし達はどうすればいいのかな? さっきフェスはって言ってたけど」

 確かに、と洸太郎は思った。

 まだ絶望するには早い、活路はあるかもしれないのだから―――――。

 「そうじゃったな。先も言ったように上級幻想種と呼ばれる儂らにはこの『世界樹の園』以外に他の世界に干渉する事は力ある者を救う以外に『制約』がある為に許されぬ。そこで主ら召喚者が『大禍刻』によって

 「崩壊する前? それって過去に行くって事か?」

 理解が早くて助かると言わんばかりにフェスは頷く。

 「そうじゃ。恐らくだが、『大禍刻』の原因を突き止めれば世界の崩壊は止める事が出来て崩壊した世界は元通りになる。それが儂らの出した結論じゃ。もちろん都合がいい事ばかりしか言ってはおらんし危険はある。儂らを―――――世界を救う為に協力をしてくれんかの」

 フェスはその長い首を下げる。

 人生で人の言葉を理解するドラゴンに頭を下げられる経験なんてこの先一生無いだろうな、とそんな事を思っていた洸太郎だった。

 そして考えていた。

 今の言葉を全て鵜呑みにするのならば、、と。

 「結論はすぐに出さんでいい。あくまでもお主らの意思を尊重する―――――儂らにはそれを止める資格すらないからの……」

 その言葉はどこまでも優しく、どこまでも残酷に感じた。

 気が付くと辺りは薄暗くなってきており夜が近付いてきていた。

 「今日はもう遅い。明日に備えもう休むといい」

 フェスがそう言うと巨大な翼を羽ばたかせ空へと飛び立った。

 後に残された三人が誰も口を開く事はなかった。

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