第49話 醒めない夢[最終話]
朝靄の中、小舟は、ゆっくりと湖面を進んでゆく。
振り返ると、野営地やその周辺からは、黒煙が立ち昇っている。
寝泊まりしていた楼閣も、燃え盛る炎に包まれ、崩れ落ちかけていた。
敵も味方も、昔から知っている者たちばかりだ。
利用価値よりも、脅威が増せば、兄は弟を生かしはしない。
ギヨウは、シユに目隠しをさせた。この地獄絵を見せたくないのだ。
「神でも、どうにもならないことがあるんだな」
ハクインは、眠っているシユを抱え上げ、舟を降りた。
兄弟の対決が決着したのは、一年後のことだった。
ギヨウは、国中を探させたが、二人は捕まらなかった。
「金が底をつけば、そのうち戻って来る」
そう呟く声には、力がこもっていなかった。
もはや、過去を振り返ることはないと、決めているようでもあった。
ギヨウの治世はその後、二十年ほど続き、国は栄え、泰平の世となった。
今日は、元宵節だ。
中央の玉座に、まだ若い男が座っている。あの時の子供が、今や一国のあるじだ。
「不義理をお許し下さい」
シユは、その場で跪いた。
記憶は取り戻していたが、自分の意思で、帰らなかった。
「謝罪は要りません。父上は、貴方が生きているだけで、十分だったのです」
低音の声が、心地良かった。ひと回り以上、年下のはずだが、そんな感じはしない。
じっと見入っていると、男の方が、少し笑って、立ち上がった。
「廟へ案内します。それから丘に登って、天灯を飛ばしましょう」
[2 完]
【BL】黄花竜牙2 @F_Y
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