第48話 孤高の剣士

数日後、ギヨウの精鋭部隊が、敵の本陣を襲撃し、オウエン軍は国境から退いた。


「ギヨウ様がお戻りになられた。着替えをさせろ」

部屋の外から、指示が飛んで来る。


ハクインは、湯気が立ちのぼる風呂桶から、大きな赤子を取り出した。


今回の戦いでは、相当の犠牲が出たと聞いている。


戦地に居ながら何をしているのだか。いつまでこの俺に、子守りをさせるつもりだ?


ハクインは、シユの体を拭き、手際よく服を着せていく。


「それは、あいつにしてもらえ」

シユの陽根は、ずっと上向いたままだった。


しかし、戦場から帰還したご主人様は、予想に反して、その夜は現れなかった。


翌朝、ハクインは、男が隣室へ入って行くのに気づいた。


物音がして、慌てて部屋へと向かう。鈍い金属音だ。


部屋の中を見ると、驚くべき光景が広がっていた。


体を刺し貫かれて、膝を付いているのは、テイカだ。


ドサリと床の上に倒れ込む。もはや絶命しているのは明らかだった。


変わり果てた姿をしている。何があったのだろう。


それにしても。いつか、こうして剣を向けることは分かっていた。


それなのに、この男は、そばに置いていたのだ。


ギヨウは、何事もなかったかのように、寝台の方へと歩み寄る。


開け放たれた窓から、火矢が飛んで来た。内部の情報が、敵に漏れているようだ。


敵?

いや、この矢は。


ギヨウは、シユを肩に担ぎ上げると、ハクインに命じた。

「私について来い」


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