おしらべさまに捧げよう
行為を終えてもなお、世界は美しいままであった。
俺は島民に担がれ、鈴香と共に山車に乗った。
山車は2人が座れる構造になっており、鈴香が中央、俺が外側に座った。
「気持ちよかったです」
「俺もだ。こんな気持ちのいいのは生まれて初めてだ」
山車は山を登る。
夜の山は鳥の声や虫の声がすごくよく聞こえて、音色がすごく美しい。
「さきみ、こんなに美味しいものなら量産して、全国で販売したいな」
「それはちょっとまずいかもですね……
さきみは日本政府に知られたら確実に麻薬扱いですよ」
「たしかにそうだ。ここまでの快楽を知ってしまったら普通に幸せを追い求める生活が馬鹿馬鹿しくなる」
「だからこそ、さきみは梅子ちゃんの家が厳格に管理していて、祭りの時以外食べてはいけないことになっているんです」
「へえ」
「あっ、着きましたね!」
前を見ると、小さな煙がモクモクと上がっていた。
「ここが聖地、白部山火口です。」
「火山の火口って初めて来たかもしれない。
観光案内ありがとうな」
「いいんですよ!最後の思い出ですからね」
「最後って……」
その瞬間、俺は鈴香に背中を押された。
山車から落ち、火口へ真っ逆さまだ。
「おしらべさまは命を必要としています。しかしこのことは日本政府には一生理解されないと思います。だから、隠すしかないのです。
でも安心してくださいね。あなたの血は、私の子となって未来永劫白部島に受け継がれていきますから……」
お腹をさすりながら、鈴香は火口から沸き立つ煙を眺める。
俺は落ちていく中で、人生を振り返った。
しかし、さきみの効果か、この島以外でのことが霞んで見える……
ああ。これから俺はおしらべさまの中に……
……
「今年も無事終わりましたね!祭り!」
「カンパーイ!!イエーイ!」
因習島特産フルーツ「さきみ」 なも @senketuno
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