いし

第1重 遭難した迷子

「いやあぁあああああああああああああああ！！！！」

絶望（ぜつぼう）、焦（あせ）り、衝撃（しょうげき）、混乱（こんらん）、不安（ふあん）、

まるで取（と）り返（かえ）しの付（つ）かない歴史的（れきしてき）な遺産（いさん）に傷（きず）をつけたかのような悲鳴（ひめい）

自分（じぶん）一人（ひとり）ではどうあがいても解決（かいけつ）できない責任（せきにん）に遭遇（そうぐう）したかのような声（こえ）

生（い）きている間（あいだ）に絶対（ぜったい）に会（あ）いたくない出来事（できごと）に遭遇（そうぐう）したかのような絶望（ぜつぼう）

「ま」

「ま」

ま

ま

ま

「迷子（まいご）になってしまったーーーー！！！！」

悲鳴（ひめい）と発言（はつげん）から

最悪（さいあく）の状況（じょうきょう）であると再（ふたた）び確認した。

今（いま）自分（じぶん）は地理（ちり）の状況（じょうきょう）もわからぬ未知（みち）の山道（さんどう）

山（やま）の中（なか）で一人（ひとり）で遭難（そうなん）してしまっていることに

どうしようもない状況（じょうきょう）であることは悲鳴（ひめい）と発言（はつげん）からは

頭（あたま）が痛（いた）くなるほど把握（はあく）できてしまう

いや山（やま）の中（なか）で迷子（まいご）になったから遭難（そうなん）になるのか？

遭難（そうなん）は生命（せいめい）に関（かか）わるような危険（きけん）な目（め）に遭（あ）うこと

特（とく）に海（うみ）での海水浴（かいすいよく）、山（やま）での登山（とざん）などだ

今（いま）　辛辛（つらつら）と独（ひと）り言（ごと）を吐（は）いているのは

大学（だいがく）の仲間（なかま）たちとはぐれてしまった遭難者（そうなんしゃ）

私（わたし）　名（な）を丸焚（まるたき）　明（あかり）と申（もう）します

いや本当（ほんとう）に遭難（そうなん）とかはしてないんですよ？

大学（だいがく）の登山（とざん）同好会（どうこうかい）の仲間（なかま）たちとはぐれてしまっただけで

そう今（いま）のところ野生（やせい）動物（どうぶつ）にも大（おお）きな怪我（けが）も低体温（ていたいおん）もなく

むしろ体（からだ）はとても軽（かる）いぐらいに調子（ちょうし）が良（い）い！！

気温（きおん）も熱（あつ）さも寒（さむ）さも感（かん）じないぐらいだ！

よし何（なに）も問題（もんだい）はない！私（わたし）は危険（きけん）な状況（じょうきょう）にはいなく

遭難（そうなん）はしていないと己（おのれ）に言（い）い聞（き）かせる何事（なにごと）も思（おも）い込（こ）みが大事（だいじ）だ

悲観（ひかん）していてはこの状況（じょうきょう）は打破（だは）できない

そう！私（わたし）は遭難（そうなん）していない！ただ逸（はぐ）れてしまっただけだ

私（わたし）含（ふく）めて７人（にん）で山（やま）に登山（とざん）に来（き）てその下山（げざん）中（ちゅう）に６人（にん）と逸（はぐ）れただけ！！

そう！私（わたし）は現在（いま）独（ひと）りぼっちで

６人（にん）と遭遇するのが難しいだけだ！！

「私（わたし）って・・・もしかして遭難（そうなん）してる？」

山（やま）の中（なか）で独（ひと）りきり　広（ひろ）い山（やま）を探（さが）すのは不可能（ふかのう）

うん

・・・・私（わたし）ってば遭難（そうなん）してる！！山（やま）の中（なか）で団体（だんたい）からはぐれて

独（ひと）りで遭難（そうなん）してる！！！！　

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう

もうどうにもならないこの状況（じょうきょう）に頭（あたま）が痛（いた）くなってきた

取（と）りあえず困（こま）ったときのスマホを見（み）よう！現代（げんだい）の文明利器（ぶんめいりき）！スマホ

私（し）生活（せいかつ）のほとんどがスマホ頼（だよ）りと言（い）われれば何（なに）も返（かえ）す言葉（ことば）がありません

しかし　便利（べんり）なものがあれば使（つか）ってしまう　使（つか）わずにいられないのが人間（にんげん）です！

何（なに）もできないんじゃないんです！！

スマホから行動（こうどう）が始動（しどう）の時代（じだい）なんです今（いま）は

これのおかげで登山（とざん）同好会（どうこうかい）とのみんなとも出（で）会（あ）えたんです

Wi-Fi設備（せつび）も山（やま）小屋（ごや）も何（なに）もないこの山（やま）だけど電波（でんぱ）が繋（つな）がるかもしれない

繋（つな）がれば逸（はぐ）れた同好会（どうこうかい）メンバーとも連絡（れんらく）が取（と）れる

取（と）れなければ警察（けいさつ）に通報（つうほう）するしかないよな

先輩（せんぱい）が登山（とざん）する際（さい）に必要（ひつよう）な登山（とざん）計画書（けいかくしょ）　

登山届（とざんとどけ）を警察（けいさつ）に提出（ていしゅつ）してくれている筈（はず）だから

絶対（ぜったい）に提出（ていしゅつ）する必要（ひつよう）があるってわけじゃないけど

提出（ていしゅつ）を義務（ぎむ）化（か）している山岳地域（さんがくちいき）もある

提出（ていしゅつ）していないと山岳（さんがく）遭難（そうなん）で費用（ひよう）がかかる場合（ばあい）があるし

何（なに）より提出（ていしゅつ）していないと罰金（ばっきん）も取（と）られる場合（ばあい）もある

自分（じぶん）の身（み）の安全（あんぜん）を考（かんが）えた場合（ばあい）提出（ていしゅつ）しておいて損（そん）はないのである

そうと決（き）まれば善（ぜん）は急（いそ）げだ

背中（せなか）に背負（せお）ってある登山用（とざんよう）のリュックサックからスマホを探（さが）す

リュックの中（なか）に手（て）を入れて、手探（てさぐ）りでスマホを探（さが）す

リュックサックの中（なか）で腕（うで）を左右（さゆう）上下（じょうげ）に動（うご）かした

四角（しか）く冷（つめ）たくスマホケースの凹凸（おうとつ）が特徴的（とくちょうてき）なので手触（てざわ）りでわかるはずなんだが

「あれ?スマホがない」

昨日（きのう）寝（ね）る前（まえ）に確（たし）かにリュックサックにスマホを入（い）れたはず

登山（とざん）中（ちゅう）は必要（ひつよう）ないし、突然（とつぜん）の天候（てんこう）不良（ふりょう）で濡（ぬ）れたり

上着（うわぎ）のポケットから落（お）ちて画面（がめん）が割（わ）れては困（こま）るからと

リュックサックの中（なか）にタオルを緩衝（かんしょう）材（ざい）代（が）わりに巻（ま）いておいたはずだ

なのにそれを巻（ま）いておいたタオルもない

・・・となると最悪（さいあく）の可能性（かのうせい）が頭（あたま）に過（よぎ）った

自身（じしん）の上着（うわぎ）のポケットをまさぐる

四角（しか）く硬（かた）い何（なに）かがあった

「あった！！」

目的（もくてき）のものがあった安心（あんしん）感（かん）で一気（いっき）に頭痛（ずつう）も収（おさ）まった気（き）がする

探（さが）してたものがすぐに見（み）つかった時（とき）の安心（あんしん）感（かん）は何（なに）にも代（か）えられない

喜（よろこ）んでいたいが今（いま）は時間（じかん）が惜（お）しい

所在（しょざい）を確認（かくにん）したスマホをポケットから取（と）り出（だ）す

喜（よろこ）びは崖（がけ）から転落（てんらく）するほど急（きゅう）降下（こうか）した

スマホを持（も）つ手（て）から頭（あたま）が冷（ひ）えていくのを感（かん）じる

取（と）り出（だ）したスマホは液晶（えきしょう）画面（がめん）がバキバキに壊（こわ）れていた

窓（まど）ガラスにひびがはいったように綺麗（きれい）に線（せん）が入（はい）っている

液晶（えきしょう）画面（がめん）は真（ま）っ暗（くら）で触（さわ）ろうが電源（でんげん）ボタンを押（お）そうが

何（なに）も反応（はんのう）しない　まるでただの板（いた）のようだ

頼（たの）みの綱（つな）のスマホは物（もの）言（い）えぬ物（もの）になってしまった

私（わたし）の頭（あたま）も心（こころ）も同時（どうじ）に物（もの）言（い）えぬものになってしまった

スマホの本体（ほんたい）料金（りょうきん）あと１２回（かい）ぐらい分割（ぶんかつ）支払（しはら）い残（のこ）ってたのに……

バックアップまだとってなかったのに……

私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない

私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない

私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない

私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない

私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない

私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない

私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない私（わたし）は悪（わる）くない

わたしの　せいじゃない

圏外（けんがい）も時間（じかん）も曜日（ようび）も何（なに）も確認（かくにん）できない

画面（がめん）は暗（くら）いまま何（なに）も写（うつ）してくれやしない

あんまりな現実（げんじつ）に冷（さ）めた頭痛（ずつう）も戻（もど）ってきたようだ

せっかく頭（あたま）が冷（ひ）えていたくなくなっていたのに

そんな中（なか）でふとある疑問（ぎもん）が浮（う）かんだ

なぜ私（わたし）は山（やま）で遭難（そうなん）中（ちゅう）なのか

なぜ私（わたし）は仲間（なかま）たちから逸（はぐ）れてしまったのか

どうして私（わたし）はここに独（ひと）りでいるんであろうか

そもそもなんで私（わたし）は仲間（なかま）達（たち）から離（はな）れたんだっけ？？