最終話 ハプニングももちろんあるわけで。でもそれこそが冒険の醍醐味だ。
「マスター! 特別階層に未知の魔物が!」
ダンジョンのあらゆる情報を収集している「捜索師」プリメーラが、コーヒーを飲んでくつろいでいた俺のところに飛び込んできた。
いや、「捜索師」の力はすごいんだよ。彼女がいなければこのダンジョンは成り立たないといっても過言ではない。魔力を使って第何層にどのパーティがいるとか、魔物の状態はどうとか、完璧ではないけどある程度把握できるんだ。俺も少しだけ心得はあるんだけど、彼女の持つ力とは比べ物にならない。プリメーラとの出会いも……またの機会ってことで。
「未知の魔物って?」
俺が尋ねると、プリメーラが魔法を使って空中に第8層のホログラム映像を映し出す。そこには、俺たちがテイムして働いてもらっている魔物たちが、訳のわからん悪魔のような者にやられている姿があった。
「どうやら、第8層のさらに地下から現れたようです」
「もっと地下があったのか……知らなかったな。えっと、現在ここを探索中の冒険者は?」
「……1組です。S級冒険者四人のパーティですが、彼らでも果たして太刀打ちできるかどうか」
「その魔物の強さはわかるか?」
「お待ちください……現在スキャンしてみます……」
プリメーラが目を閉じて集中する。おそらく今、彼女は魔力を使って第8層にいる未知の魔物のステータスを確認している。うん、やっぱり「捜索師」の力はすごい。
「マスター、非常に危険です。ステータスを確認しようとしたところ、相手の魔力で弾かれました。私もみたことのない能力です」
「……そりゃやばいな。ちょっと俺がいって追い返してくるよ」
俺は倉庫に眠っている昔の装備を取り出すと、第8層への魔法陣の前へと進んだ。
「マスター、お気をつけて……」
プリメーラが心配そうな顔で俺の方を見る。ったく、確かに冒険者業は引退したけど腕は鈍っていないつもりだぜ?
「心配するな、すぐに帰ってくるから。それよりも第7層より上にいる冒険者たちの安全確認を頼む。必要なら全員緊急退避させても構わない」
「わかりました」
「じゃ、行ってくる」
俺は第8層、通称「特別階層」へとテレポートした。
運がいいのか悪いのか、転送先はちょうど未知の魔物の目の前。そして俺の後ろにS級パーティ四人。二組の間に割って入るようにしてテレポートしたってわけだ。魔物の後ろには大きな穴が開いている。なるほど、その穴から出てきたってことか。
「誰ダ貴様ハ?」
「誰だ、じゃねぇよ。勝手に人ん
「人ん家……だと? 我はこの洞窟の地下に封印されし……」
「うるせぇ、来るならメンテナンスのときにきやがれ! いくらでも相手してやるから!」
俺が全力グーパンチで魔物の顔面を殴り、こいつが出てきたと思われる穴の中へ落とす。そして魔法を使って穴を完全に塞いだ。これで当分出て来られないはずだ。
「すまない、あいつはここからさらに地下、奥深くに封印されていた魔物だったようだ」
何事もなかったかのように、俺は振り返って冒険者たちに説明する。幸い彼らも魔物に遭遇した直後だったようで、被害は何もなかった。
「あなたはこのダンジョンのマスターの……」
「カイン・バークレーだ。戻ったらちゃんとお詫びするよ」
「カ、カイン・バークレーって、あの突然引退宣言して身を引いた……SSS級の冒険者?」
おいおい、S級冒険者ともあろうものが俺ごときに驚くんじゃありません。今では君たちの方が立派な冒険者だよ。
「そう呼ばれていたこともあったけど、昔の話さ」
☆☆☆
「いやぁ、今回のダンジョンは手応え十分だったよ。あんなにスリリングなのは久しぶりだった!」
「まさかこんなレア武器が手に入るだなんて! また腕を磨いて挑戦します!」
「次こそは攻略してやる! くそっ!」
いろんな感想を言いながら冒険者たちは「深淵の迷宮」を後にする。その感想がどんなものだろうと俺は、いや俺たちはいつも笑顔で見送る。
冒険者たちが傷を負いながらも、満足した顔でダンジョンから出てくる姿を見ると、なんだか昔の自分を見ているようで嬉しくなる。まだまだ君たちは成長できる。そんなふうにエールを送りたくなるんだ。
冒険者である以上、命の危険は常に付きまとう。だからこそ、死を恐れ、逃げる勇気を持たなければならない。その中でギリギリのところを生き抜いていかなければいけないのだ。こればかりは自分で体験しなければ得ることはできず、教えられて身につくことではない。
そうやってたくましく成長した冒険者の姿に憧れをもち、また新たな冒険者が生まれるのだ。さあ、今日も「深淵の迷宮」にまた冒険者たちが腕試しにやってくる。
まだ見ぬ冒険者たちに、そして日々がんばっている魔物たちに、そして一生懸命働いてくれている仲間たちに、祝福あれ!
< 完 >
※ もしよかったらハートや星で応援してくださると嬉しいです。
ダンジョン経営ってとっても大変だけどやりがいのある仕事です。 まめいえ @mameie_clock
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます