空狩りの少年
藍条森也
終わりなき旅
その少年はそう呼ばれていた。
本名も経歴も誰も知らない。
ただ、ひとつ所にとどまることなく旅をつづけ、人の世の
そう言われていた。
この日もある長者に乞われ、その家を訪れていた。
「この部屋には『
「
「はい。
「そ、それでは、どうすれば……」
「ご心配なく」
少年は着物の胸をはだけた。それを見た長者が目を見開いた。
「そ、それは……!」
そこには何もなかった。
少年の胸にはポッカリと穴が空いていた。
「人の身に
何があったのか正確なところが長者にわかるわけもない。しかし、理屈を越えた本能として悟っていた。部屋に生じていた
「これでもう、この家の運気がさがることはありません」
少年は着物の胸を直しながらそう告げた。
長者は平身低頭して少年を拝んだ。
その少年はそう呼ばれていた。
本名も経歴も誰も知らない。
ただ、ひとつ所にとどまることなく旅をつづけ、人の世の患いを癒やしていく。
決して、インチキ霊媒師の類いではない。少年に依頼した人は口をそろえて言う。
「あの少年に頼んでよかった」と。
人のいない、この荒れ果てた寺で一夜を過ごすつもりだった。
大きな握り飯を食っていた。
食いながら思っていた。
――あれでもなかった。
あの
自分が求めている
いつになったら出会えるのか。自分が追い求める、あの
「それが、いつのことになろうとも……」
「……必ず、見つけ出す」
少年は水を飲むために井戸にやってきた。
ヒュン!
風の切れる音がして光が走り、少年の首をはね飛ばした。
鮮血をほとばしらせながら少年の首は吹き飛び、地面に落ちて転がった。
ノッソリと、井戸のなかから青白い光に包まれた、人の姿の
ペロリ、と、その奇怪な山椒魚は少年の体を食べてしまった。
「ふん。
「……いひかか」
首だけになった少年が呟いた。
青白く光る人型の山椒魚、この
「ほう。首だけになってもまだしゃべれるか。さすがに少しはしぶといようだな。しかし、首だけになっては文字通り手も足も出まい。どれ、その首も食らってやろうか」
「お前はまちがえた」
「なに?」
「お前は僕の首をはねるのではなく、縦に真っ二つにすべきだった。そうすれば僕を殺せた。それなのに、そうしなかった。だから、お前が死ぬことになる」
「なにを馬鹿な……」
いひかの余裕はその場で凍り付いた。
それを見たからだ。
首だけになった少年、その眉間に穴が開き、そこに
「人の身に
音もなく――。
少年の首はそのまま転がっていた。
やがてジワジワと斬り口から肉が伸び、形を変え、胴となり、手となり、足となった。
少年の体は完全に再生していた。
これが、死と再生を司る
それが『一番のお気に入り』という、その理由。
いつか必ず求める
そのために。
「……この
覚えている。
一瞬たりとも忘れたことはない。
突如として巨大な
なんとしてもあの
あの
自らの才に
少年は立ちあがった。
歩きだした。
故郷を取り戻すための終わりなき旅に向かって。
完
空狩りの少年 藍条森也 @1316826612
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