お気に入りの空は夕焼け色
たから聖
第1話 ニートの俺とおばあちゃん
『ばあちゃーん。この絵本読んで〜!』
『おやまぁ、またかい?ホントに
『だって僕の好きな空の絵本なんだもん。』
『どぅら…じゃあ、読むとするかね?』
毎日のように俺は、小さな頃……
おばあちゃんに
【お気に入りの空】という絵本を読んでもらうのが日課だった。
おばあちゃんは、そんな俺にいつも話すんだ。
『おばあちゃんの好きな空は、夕焼け色かねぇ?』
『なんで……?』
『ふふふ。お疲れさんの色だからだよ。』
『僕は夜遅い
『まぁ、
『うん!僕もう1人でも泣かないよ!』
『ホントに、、、お母さんもお父さんも、もう少し
ふぅとため息をつくおばあちゃんは、いつも俺の頭を撫でてくれていた。
その温かいおばあちゃんの手のひらは、水仕事を長年してるので、
ささくれていた。
『おばあちゃんの手、ザラザラするね?』
『お疲れさん色だからだよ。』
笑顔のおばあちゃんは、俺を見つめる眼差しが遠い目をしていた。
◇◇◇◇◇◇
『
『うるせぇ!!俺の勝手だろ!』
『はぁ、全く、ニートだからって怠けてんじゃない!』
『うるせぇって!』
成人式にも出席せずに俺はひたすらペンを走らせる。
母親とはいつもこの調子だ。
昔からそうだ。
俺の面倒は全ておばあちゃんが見てきた。
だからこそ俺は絵描きになるんだ。
ある日の事、婆ちゃんは、持病が悪化して入院する羽目になった。
苦労に苦労を重ねて婆ちゃんは倒れたのだ。
それなのに……父親も母親も、
形ばかりの見舞いで済ませていた。
婆ちゃんの多額な遺産を目当てに病院でも芝居をしていた。
俺には見え見えだったが。
そんなに遺産欲しいのかよ?ひでぇな!!と俺が言うと、
母親は
『アンタには1文もやるもんか!』これだもんな。
ホントやんなるぜ。
フと思い出す。空の絵本を毎日毎日読んでくれてたな?
俺は婆ちゃんに
夕焼け色の空の絵をプレゼントするべく描きあげていた。
今では意味が分かる。
『お疲れさん色って……こんな事なんだな?』
婆ちゃんの優しさが身に染みる。
描き上がった絵を誰よりも先に、婆ちゃんに見せに病院へ俺は向かった。
【コンコンっ!】
『おばあちゃん?入るよ…』
そっと戸を開くと……
婆ちゃんは寝息を立てながらも安らかな寝顔を見せていた。
椅子に座りながら、おばあちゃんの手を握った。
俺はそっと婆ちゃんに語りかけた
『婆ちゃん。頑張ったね?俺も頑張るから。』
その時婆ちゃんは目を開けた
『あ、ぁぁ
『婆ちゃん。遅くなってごめん。絵を描いてたんだ。』
『……』
何も言わずにおばあちゃんは、そっと微笑む。
おばあちゃんにお疲れさん色の空の絵を見せると……。
婆ちゃんは
『そうかいそうかい。覚えててくれたかい。』
頼りないおばあちゃんの声に……
俺は涙腺が緩んだ。
『婆ちゃん頑張って生きてくれよ、オレ婆ちゃんが居ないと寂しいよ……』
婆ちゃんは涙を流しつつ微笑んだ。絵を良く見せておくれ、と
頼んできた。
俺は近寄りながらも夕焼け色の絵を見せると……
『あぁ、あぁ素晴らしいねぇ』
婆ちゃんは少し苦しそうに……
そしてこう話したのだった。
『
ドキィッッ!!
オレは焦った。そうだよな?!
初月給を貰えたら、おばあちゃんにもっと良いプレゼント出来るしな?
夕焼け色の絵は病室に置いてきて俺は自宅へと急いで帰った。
その日に面接予定日までこぎつけたのは言うまでもない。
母親と父親は、ニート生活から脱したオレを喜んでくれたが、
『あいにくアンタらのおかげじゃねぇ。』
俺は突っぱねた。仕事も受かり、忙しく働いてる時、
母親から連絡が入った。
『婆ちゃんが危篤なの!帰って来て!』
仕事先に迷惑かけて悪いと思う前に会社の主任に事情を説明していたので、二つ返事で病院へと
タクシーで向かった。
その道中、花屋が目に入った。
オレは夕焼け色のマーガレットを花束にしてもらった。
『間に合え!!頼むから!!せっかく給料もらったのに!!』
病室に着く頃には、
婆ちゃんは集中治療室へと移動していた。
部屋の前で息を整えて入ろうとしたが……
すすり泣く声が聞こえた。
まさか?婆ちゃん!!!
『婆ちゃん!!!』
婆ちゃんは、皆に見守られながら静かに息を引き取っていた。
その部屋の目立つ所に、俺の描いた夕焼け色の空の絵が飾ってあった。
婆ちゃんは最後までその絵を見ててくれたんだ。
悔しさが込み上げてくる。
なぜもっと早く、気が付いてあげられなかったんだろう。
そっと夕焼け色のマーガレットをおばあちゃんの枕元に置いた。
婆ちゃんが息を引き取った頃……
空を見上げると、、、そこには、
夕日が大きく大きく浮かんでいて
まるで、婆ちゃんに
お疲れさんと言っている様だった。
[完]
お気に入りの空は夕焼け色 たから聖 @08061012
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