ココロちょこっと

九十九語 矢一

怪しいものは拾うなかれ

『今日は今年1番の寒波がやってくるでしょう。』


ニュースキャスターもそう語るように寒さが色ついてきた冬のある日の出来事だ。


今年1番と言ったのは今年何回目だろうか。寒波が来る度に今年1番を更新されてはたまったものではない。


『続いては来週に差し迫ったバレンタインですが、街中では例年以上の盛り上がりを見しています。』


ニュースは次第に季節のニュースへと移り変わる。バレンタインなんて私からは程遠いものだ。別に好きな人がいない訳では無い。ただその相手が学校のアイドル的先輩である佐々木先輩であるというだけの話だからだ。


佐々木先輩は容姿端麗で頭脳明晰、オマケに生徒会長で写真部では全国大会に出場するほどのいわゆる天才と言える人だ。


それに比べて私は地味で普通、成績も赤点ギリギリだしニキビとかもすぐできちゃうから溜まったものじゃない。


よって私はバレンタインなんてもの無くなればいいと思っている否定派なわけなのです。そもそもそんなイベントがなければ無駄な怪我をしなくてすみますからね。


私は今日も気だるげな気持ちとともに玄関を出る。重たい足は今日も私の気分をさらに下げる無限ループを発生させる。


ポトッ


目の前に何やらラッピングされた箱が落ちてきた。慌てて周りを見渡すが誰もいない。一体どこから落ちてきたと言うんだ。


私はその箱に恐る恐る近づくと箱を拾い上げる。箱とラッピング のリボンの間に何やら手紙のようなものが挟まっていた。


私はそれを開いて読んでみることにした。


『佐々木先輩へ

いつもあなたを見ていると胸がドキドキとして目で追いかけたくなってしまいます。輝いている先輩に私なんかが話しかけていいものかといつも考えてしまいます。だけど、私は1歩踏み出します。どうかこのチョコを食べたら感想を聞きたいので連絡先を教えて貰えませんか?』


私の箱を握る手には凄まじい力がこもっていた。


「あ、いけないいけない。」


危ない、危うく怒れる類人猿(バーサークゴリラ)になってしまうところだった。


こんなものは見なかったことにすればいい。チョコを作らない私にとっては関係の無い話だ。


「ほんとに君は、チョコを渡さないのかい?」


背後から声をかけられふと振り返るとそこには1人の少年がいた。


「な、なんでそんなこと。ていうかあなたは誰?」


私は思わず聞き返す。乙女ゲーの執事みたいなスーツ着てる見た目中学2年生の美少年とか怪しさの塊でしかない。


「僕かい?僕はヴァレンタイン。バレンタインの精霊さ。僕からの招待状を君は拾っただろ?」


さっきのチョコが!?クソ、ハメられた。1体私はこいつをどうすればいいんだよー!

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