恋する歯車
@meruton3126
第1話 病の始まり
最初は何も感じなかった。潮田にとって、転職した仕事はやはり塾の先生だった。何も感じない。灰色の世界をただ単に過ごす。しかし、灰色の世界を少し色づけてくれるのが、仕事だった。
大学生のときだった。友人に「塾の何が面白いの?」と聞かれた。そのとき、潮田は迷いなく答えられるほどであった。答えた内容はもう覚えていない。あのときは鮮明な色が世界を覆っていた。
研修が始まる前、潮田は用意していた。何を?もちろん、研修を受ける用意である。これ以外ない。メモを取る準備、笑顔のマインドセット、スマホのマナーモード。全てが当たり前のようにできる。当たり前すぎて何も感じない。深い、深い、深海にあるように何も感じない。色もない。なんなら早く配属を発表してほしい、早く現場で授業をしたいと赤色の世界がほんの少し見えるだけだった。
研修は何事もなく終わった。大学生の初めての就職のような話ばかりで面白にもなかった。何が「笑顔で挨拶しましょう、自分から挨拶しましょう。」だ。そんなの俺にとっちゃ当然だ。社会人なら色を感じないで、仕事に全うするして当然だ。とまで思い、潮田の赤色の世界は広がっていた。
早く帰ろうと、潮田は席を立った。そのときだった。隣の席から黄色の声が聞こえた。
「あの、この間、研修同じ時間帯で受けてませんでしたか?」と、聞こえた。は?何を言ってるんだ、こいつは。そんなの当たり前だろ。と思って振り返った。しかし、これが後悔すら始まりだった。このときは模範回答は無視だった。聞こえないふりをするだった。そうすれば、色のない世界は保たれ、仕事に全うできたのに。
黄色の声に対して振り返り、あ、そうですね。お疲れ様です。と、笑顔で返してしまった。ああ、だめだ、色のない世界が壊れていく。色を感じ始める。地獄の始まりだ。この先、多くの試練が待ち受けるだろう。
恋する歯車 @meruton3126
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。恋する歯車の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます