三兄弟集結の会
紫陽花の季節
ここらは七月の半ばになっても梅雨が明けない。ツイッターで観測する限り、田圃でザリガニが茹で上がっていたり、「
湿度はあれど気温は上がらず、「
世界一可愛い私の姪が六か月を迎えるのに合わせ、妹夫婦の親族を集めて顔合わせの会をやろうと言われたのはいつだったか。ともあれずいぶん前から予定を押さえておいた海の日を巻き込む三連休の日、私たちは車で県をまたいで遠出をすることになっていた。
姉夫婦としての御呼ばれのために、配偶者を伴っての出陣である――私には大きな懸念事項があった。私にも、そして配偶者にも「平服」を用意する必要があったのである。
我が家のファッションモンスターと名高い私の夫は、とにかく着られればなんでもよいタイプであった。大学時代も灰色のパーカーを三着とジーンズを二本着まわしていて「毎日同じ服を着ている疑惑」があったくらいである。のび太君か。それくらい無頓着だ。
私が勝手に数着見繕った服も「どうしてそんな色の組み合わせで着ようと思ったの」と問いただしたくなるような着合わせをする。しかし本人は何が悪いのか分かっていないようだし、興味もないようなのだ。興味のない人に一生懸命教えてもどうにもならない、「本人がいいならもういいか」と私服については諦めの境地に達していた。
しかし御呼ばれ。家族の付き合いの御呼ばれだ。仮に「普段着で良い」と言われても、普段着(よれたシャツとよれたハーフパンツ、しわつき)なんて絶対に許容できない。しかもファッションモンスターは「平服」という概念に不満を抱いているようだ。
「じゃ、最初から普段着なんて言わないでさ。スーツで良くない??」
……義両親と嫁の三人がかりで「平服」概念を解説し、説得した。かなり時間がかかった。
そんなわけでムッとしている夫を引っ張って、私はユニクロに向かう。しかし私も男性の平服に精通しているわけではない。どうしよう。
と、店内を見たら、ほどよい恰好のマネキンがあった。ので、それをまねることにした。紺の夏用ジャケット、伸縮素材の動きやすいパンツ、中に着るのは真っ白な半袖のワイシャツ。いいじゃん。
ファッションモンスターも格好を整えればそれなりに見えるので、服ってやっぱり重要だったのだなと実感する。本人にその実感はないようだったが。
私は普段使いも考えたロングワンピースと、サマーニットの長袖カーディガンをセレクトする。ユニクロでも平服のコーデができる時代である。
さすがユニクロ。
長いコロナ自粛のためにオシャレの機会もなく、もちろん大学時代のオシャレ着は(年齢を考えて)捨てたし、それ以後オシャレ着を更新することも無かったので、ちょっとおしゃれな私服が増えるのは久しぶりのことであった。ましてオシャレ着を着てお出かけなんかn年ぶりである。わくわくするね。
雨のそぼ降る中で買った服を抱えて車まで二人で走る。梅雨はまだ明けないし、明ける気も無いようだった。
――そしてこの後秋田に、記録的豪雨が迫るのである。
つれづれエッセイ 紫陽_凛 @syw_rin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。つれづれエッセイの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます