転生阿呆剣士withぼくのかんがえたさいきょうのけんじゅつ

為すこと無く、意味も無し

第1話

ーーおい!賢人、木刀だってよ!あれ土産にしよーぜ!

ーー木刀なんて役に立たんだろ。………俺、剣を極めるわ。


ふと、初めて剣を知ったときのことを思い出した。


木刀を振る。汗が顔を伝う。

どうにも夏は苦手だ、鍛錬に身が入らない。


「…飽きずによくやりますなぁ、ケンちゃんさんよ。」


そう呟いた彼女は何故か俺の隣にピクニックシートを広げ、ズズズとお茶を啜っている。


「…見ててもつまらないだろうし、アイツらのところに行ってきたらどうだ?」


俺の幼なじみのアイツら、昼休みに木刀を振っても受け入れてくれる彼らは今頃クラスで昼食をとっているはずだ。


「いやいや、いつも見ている光景でもじっくりと観察すればなかなか味があって…ふむふむ、普段と足さばきが違うね?」


「いや、同じだが…。」


なにやら訳知り顔で話しているが全然違う。昨日は改善案を思いつかなかったのでいつも通りの型の練習をしている。


「ありゃりゃ、節穴でしたかー。あいにく雨音さんには剣道などわからないのて…てへっ。」


妙に大袈裟なジェスチャーをする彼女を尻目に、新たな型の練習をしようとしたとき、ガチャりとドアが開いた。


「おいーっす、いつものやってるか?…まぁやってるか。」


「やってんねぇ!雨音っちも2日ぶり?屋上の許可取っといたよー。」


「せいはろーぐっないてぃらーす。スヤァ」


「「「寝た!?」」」


やってきたのは先程話題に出していた幼なじみたち。

上から順に照山 真実トゥルー、霧崎 真由美、八上 テトラである。ちなみに真実と真由美は付き合っている。


「弁当食いに屋上来て寝るなんて…。」


真実が若干呆れながら雨音の膝上で寝息をたて始めたテトラを見る。


「まぁまぁ、テトちゃんの奇行は今に始まったばかりじゃないし、それなら賢人の方が…いや、どっこいどっこい?」


「そうだな。」


真由美の声に賛同する真実。おい、俺は剣が好きなこと以外は普通だぞ。

む、木刀を振り始めてから30分か。そろそろ切り上げてメシでも食うか。


「聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするが…おいテトラ、昼メシは食っとけ。」


「………んみゃ。あーん。」


「…自分で食え。……………弁当だせ。」


「いゃーい…、どぞ。」


途端、カバンの中の弁当を俺に渡し再度雨音の膝に寝転がる。ほんと自由人だなこいつ。

まぁそれもテトラか、と子猫に餌をやるような気持ちで口元へおかずを運んでいく。


「こ、これが、脳破壊…。いや相手はテトちゃん、おそらく他意はない他意はない……」

「賢人ってなんだかんだ甘いよな…」

「ちょっと犯罪的な絵面な気が…」


周りが何かと言っているが聞こえてないことにする。

ちなみにここで容姿について言及しておくと、真実は身長170ちょいのイケメンで髪を暗めの金色に染めている。真由美とオソロカラーらしい、仲が大変よろしいことで。

真由美は身長160ちょい、真実のちょうど10cm下らしい。ヘアカラーは先程言った暗めの金で肩にかかるくらいまで伸ばしている。ギャルというには清楚感が強く、髪を染めたときもクラス中の驚きを誘った。

テトラは日本とどこかの国のハーフだ。4女らしい。透き通るような銀髪は地毛で腰くらいまである。長い髪をまとめるためかカチューシャをしており、たまに猫耳がつく。身長は…150cmくらいらしく普段の言動も相まって不思議系マスコットとしての立ち位置を確立している。

雨音は身長160くらい、真由美より少し高いかな?といったくらいで黒髪のくせっ毛ショートである。本人のチャームポイントは前髪にふたつ付けた髪留めらしく、しきりにアピールしてくる。他のメンツは小学校からの付き合いだが、雨音だけは高校からの友達である。しかし特に確執もなく5人仲良く過ごしている。


…さて、急にメンバー紹介をした訳だが全員美男美女揃い、対して俺は剣キチ肉達磨。たしかに今の絵面は少々ショッキングになっているかもしれない。1度それを理由に距離を取ろうとしたことがあるが真実に殴られ、他には泣かれた。それ以降周りからの視線など気にしないことにしたのだ。


「そういえばカラオケの話どうなった?テスト終わりに行くって話してたけどなんだかんだ流れちゃたし、今日5限で終わりだろ?行こうぜ。」


「今日は5限終わり…?ああ面談か。」


もうすぐで夏休みである。テスト終わり夏休み前という微妙な時期は進路を固めるにうってつけということだろう。


「誰か面談入ってるひとー!……よし、行きましょー!」


真由美が誰も手をあげないのを見て早速カラオケの予約を始める。テトラは寝ているが、こいつはこいつで寝ながらでも話は聞いているらしいので大丈夫だろう。

…俺は放課後素振りでもーー


「まさかケンちゃん放課後素振りして過ごそうなーんて思ってないよね?そんなことしたら末代までうらんじゃいますよー?」


目ざとく俺の企みを看破した雨音が釘を刺してくる。

どうにも俺は逃げられないらしいが、友人たちと過ごす時間もまたいいと思い今日の鍛錬は諦めることにした。






「いやーごめんね?ちょっと遠いとこしか空いてなかったわ。その分クーポンを使ってしんぜよう。」


ちょっとおちゃらけたように笑う真由美。遠いと言っても徒歩20分くらいであるため苦ではない。


「まぁ急だったししょうがない。」「しゃーなしゃー。」


横を歩く真実と背中に乗るテトラが同時に声を上げる。


「あっちょっとコンビニ寄っていいかな?」

「」そう言って雨音が道すがら見えてきた緑色のマークを指さす。その瞬間、


「あっ、降りた。」


先程まで背負っていたテトラが急にぴょんと地に立ったのを見て首を傾げる。


「むしのしらせ…きをつけて。」


いつになく真剣な表情でテトラが言う。普段の謎言語ではないはっきりとした言葉で話すテトラに一同なにやらうすら寒いものを感じたそのとき、


「きゃああああああああああああ」


前方から悲鳴、目の前に覆面、その手にはナイフ。何かを叫びながらこちらへと向かってくる。

初めて見たが十中八九コンビニ強盗だろう。どこか他人事のように冷静な自分を自覚しながら肩にかけた木刀を正眼に構えた。

…逃げるのが正解だろうが俺の後ろには足の遅いテトラがいる。なにより今までなかった木刀を振るう機会を経てどこかワクワクしている、中二はもう過ぎたというのに。


「賢人ッ!逃げるぞ!」


…相手の距離は目測7m、相手の手には刃渡り20cmほどのナイフ、自分の手には1mの木刀、相手が4~5m/sで走っているとすればこちらの間合いまで約1.2秒、相手の間合いまで1.4秒。構えてから木刀を振り切るまで1秒必要だとすれば…少し下がって、横に振る!


「アアッ!!」


バシりと肉を叩く不快感と共に覆面は呻き声を上げる。

少し相手の速度を見誤っていたのか狙いの胴には当たらず、ナイフを持つ手に当たったらしい。覆面は地面に転がりうずくまる。しかし意地なのかなんなのかナイフだけは手放そうとしない。

覆面の執念めいた様子を見て更なる追い打ちを掛けるべく木刀を構えれば


「そこの男!木刀を下ろしなさい!」


けたたましいサイレンと共に警官が俺を呼び止めた。どうやら俺たちが襲われる前には誰かが通報していたようで、非常に早い到着である。しかし今の状態だとどう見ても俺が加害者にしか見えないのでどうしたものかと気を逸らしたところで


「ッ賢人!うしろっ!」


ぐさり、と俺の胸から刃が生える。


振り返ればニヤケ顔の覆面。

はは、馬鹿野郎。胸を一突きって、漫画じゃねーんだから、力強すぎだろ。


「賢人おおおおおおおお!」「ケントおッ!」「ケンちゃああああああん」「けんとッ!!!」


周りに退避していた友人たちが悲鳴を上げる。リュックサックやらなんやらを手に持っているのは、投げて加勢しようとしたのだろうか。

…泣いている。馬鹿やったのは俺なのに。

木刀を上げる。振る。何かを砕いた感触とともに覆面が倒れる。…そして俺も。


「救急車ッ!!救急車はやく!」


真実がサイレンの方向へ走っていく。


「ケンちゃんッ!死なないでっ!」


雨音が叫ぶ。ごめん、無理っぽい。


「わた、わたしがここのカラオケにしようっていったから…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


真由美が謝る。いや、悪いのは俺で自業自得だ。


「…………………………………………………憎い。」


テトラは…………怖い、目が死んでる。



「賢人ッ!」


真実が戻ってくる。


全身から力が抜ける。


涙を流して俺に声を掛ける4人。


ーー剣を極める?ぶふっ、さっきお前役に立たないって言ってたじゃん。まぁでもいいんじゃね?俺はかっこいいと思う。


ーー木刀を振るケンちゃんが怖くないかって?え、いーんじゃないですか。ちょっとヘンだとは思いますけど、天音さんもみんなからヘンってよく言われますし。あっ、まさかまさかのお揃いですねっ!


ーー変人の俺が真実の隣にいていいのかって?ええーっ!自分で変人って気づいてたんですか!?あっやめ、やめてっ、無言でチョップしないでっ。…全然いーですよ。真実が居なかったらケントに惚れてましたし。…あっいやじょーだんですっ!


ーー?どーしゃさ?


…1人だけ走馬灯がおかしい気がする。


「…なぁ、おれのロジカル結論剣術、役に立っただろ?」

「「「しゃべらないでっ!」」」


今まで木刀を振ってきて、我流の剣術に名前までつけて、馬鹿やって、馬鹿やった。

…両親には迷惑かけたなぁ。でも、後悔はしていない。だって木刀のおかげで友に出会えたから、守れたから。


「…いいや、話すね、一言だけ。」


ああ、命が尽きるのを感じる。


「剣に出会えて、お前らに出会えて、この世に生まれて、ほんとうに良かった。」




俺は、目をとじた。

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