明日に向かって
私はいつもの席で客人との他愛ない会話に付き合い、
私たちの子どもたちは、日がな一日、私にじゃれついてくる。
木之本家には、待望の跡取りが出来たという事で、カーニバルになっている。
もっとも、身重になった
正直、
本日募集していたパートの方が面接にやって来られる。
本来であれば、店主たる
さて、誰がやって来るのか?
私たちには聞かされていない。
段取りを整えた
『たけしよぉ~。
せめて、名前ぐらいは確認しような。』
「す、すまん。」
ゴールデンレトリバーにツッコミを受ける
さて、カウンターで待つこと半時。
不意にミカが立ち上がり、扉を眺めながら私に話しかけてきた。
「来たわよ、お客様。」
私も扉に意識を集中すると…面接希望者の影が見えてきた。
ん?
希望者以外にも誰かいるような…。
ミカに視線を向けると、彼女がニヤリと笑う。
やがて、扉が開くと彼女が入ってきた。
「こんにちは!」
たれ耳ウサギを胸に抱き、いつか私と会話をしたあの女性が入ってきた。
「藤本 美由紀です。
よろしくお願いします。」
深々と頭を下げる女性。
「どうぞ。」
「それでは…。」
美由紀さんの面接が始まる横で、たれ耳ウサギが私たちに話しかけてくる。
「私の
「それは、私たちの決める事ではないわ。」
ミカがたしなめるが、たれ耳ウサギも強気で攻めてくる。
「わしも、何がしかの応援に入る所存だ。」
「大丈夫かしら?」
ミカは悪戯っぽく笑って見せる。
「騎士の名誉にかけて!」
鼻息荒く、胸を張ってみせる、たれ耳ウサギ。
「…どうだろうか?
タツロー。」
不意に私に話を振ってくる
そして、全員の視線が私に降り注ぐ。
私は、おもむろにタブレットを取り寄せ、文章を打ち込んでいく。
『協力いただけるのは、有難い事です。』
全員の視線に安堵の色が漂う。
『ただし、条件があります。』
私の要らない一言で、場の空気は一変し、緊張が高まっていく。
全員を十分に焦らしたところで、私は条件を提示した。
『うさ子と一緒に勤務する事!』
場の空気は一気に緩み、全員が笑い出す。
「小僧、
「こちらこそ、よろしくお願いします。
頼りになる騎士殿。」
「うむ!」
私の横では、ミカがコロコロ笑い。
一連の所作を見ていた
私は、タツロー。
わんこに転生してしまった、元人間。
前世では、家族も含め、希薄な人間関係の中で生きてきた。
今、こうして美人の
頼りになる仲間と共に、日々面白おかしく生きている。
あまつさえ、VTuberとしてのデビューも果たし、今や時の
前世で失ったものは、確かにあったかもしれないが、今の私は補って余りある
あぁ、飼い犬に降格した事は、残念な事なのかもしれないが、家族も増えたし、何より
Fin
吾輩は犬になってしまったらしい たんぜべ なた。 @nabedon2022
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