悪戦苦闘

 宙に投げられた石ころは一瞬で、太陽すらも霞む程に強い光を放った。

「ぐぁ、目が…………っ!」

「ま、眩し過ぎるっ?」

「な、何これ…………!?」

 輝夜の確信に満ちた言葉から、何かがあると思い視界に捉えていた巨漢、美青年、少女はあまりの光量に目を瞑ってしまう。

 とてもではないが目を開けていられない。否、開けていた所で何が起こっているのか全く分からなかっただろう。

 五感の内の一つ、視力を突然奪われた事に三人は慌てふためく。

 光は数秒にも満たない時間で消失し、元に戻ったものの視界が元に戻るには時間が掛かる。

 そして、それは明確な隙となった。

「一人目」

「ぎゃっ!?」

 可憐な外見とは裏腹にドス黒い嫉妬心に満ちた少女の声が聞こえたのと同時に巨漢が短い悲鳴を上げる。

 そのすぐ後にドサリと何か重い物が落ちる音がした。

 音は巨漢が立っていた場所から聞こえた。

「で、ディアン様…………?」

 弓を持った美青年は自身の恋人である巨漢の方に視線を向ける。

 光が収まった事と時間が僅かとはいえ過ぎた事で視力を取り戻した彼が見たものは、大量の血を流して地に倒れる恋人の姿とその前に立つ輝夜の姿だった。

「貴様ァ――――!!」

 何が起こったのか、一瞬で理解した、理解してしまった美青年は弓を少女の方に向け、矢をつがえて攻撃しようとする。

「遅い」

 しかし矢を引き絞る間も無く、輝夜が振るった刃は美青年の首を撥ねた。

 斬り落とされた首がコロコロと地面に転がる。

「二人目」

「う、うわぁああああああああああ!!」

 たった一瞬で仲間を二人も殺された。その事実に恐怖を覚えた少女は剣を振るう。

 輝夜は慌てる事なく手に持っていた刀を手放し、流れるように少女の腕を絡め取る。

 そしてその勢いを利用し、少女を背負うようにして投げ、地面に叩き付けた。

「がはっ!」

 地面に叩き付けられた衝撃に少女は苦しそうに口から息を吐き出した。

 輝夜は間髪入れずに少女の首に足を振り下ろす。

 ゴキリという音が鳴ると共に少女の身体が伸び、痙攣してそのまま動かなくなる。

「三人目」

 戦闘とは呼べない、殆ど一方的な蹂躙は10秒にも満たない短い時間で三人の敵はその生涯を終えた。

「…………すげぇ」

 一連の戦闘を手助けし、見ていたテオは感嘆の息を漏らす。

 敵が弱かったかと聞かれたらそういうわけではない。此方が戦力にもならない子どもと加護を授かっていない人間一人だった為、油断はしていただろうが相手はそれでも警戒はしていた。

 だがカグヤはその警戒すらも弄んだ。

「僕がこの石を上に投げたら、これから目が眩む程の強い光を発するように見せる事は出来る?」

 さっきそう小声で聞かれた時には既に敵を倒す方法も考えていたのだろうか?

 そう思ってしまう程に鮮やかな手際だった。自分の魔法を一目見ただけで使い手の自分よりも使いこなし、

「ありがと。テオのお陰で楽に倒せたよ」

 片刃の剣を拾い刀身の血を振るって落とし、カグヤは笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。

 本当に何も考えていないような呑気な笑顔だ。

 今やった大立ち回りにと三人の返り血が付いていなければ素直にそう思えただろう。

 本当に何を考えているのか分からない。多分、リア充うんぬんに関しては本当に考えている事なのだろうが。

「お、おう」

「にしてもバカだねこいつ等。視界を潰せる力があるのに軽んじるなんて、僕だったら一番最初に何が何でも仕留めるけど」

「ひゅい」

 もし敵だったらどんな手を使ってでも必ず殺す、暗にそう言っているカグヤの言葉にテオは言葉を失う。

 と、いうか実際に殺すだろうこいつは。

「まぁ、それはそれとして、だ。とっとと下洗ってきなよ」

「へっ…………? それはどういう意味」

「小便臭いって事だよ」

「――――ッ!!?」

 カグヤの指摘にテオは顔を真っ赤にして手で下を隠すようにする。

「敵に殺気を向けられた際にテオがビビリ散らかしてからね。その時から小水の臭いがしてたから多分ちびってたかなって」

「お、おまっ…………なんつーデリカシーの無い…………!! てかちびってないわい!!?」

「別に嘘つかなくても良いって。子どもなんだからさ。まぁ、男の子なのに少々情けないとは思ってるけど」

 笑いながら言ったカグヤの言葉にテオの表情は怒りに染まる。

 何を勘違いしているんだこのデリカシーの無い頭のおかしいやばい奴は――――!

 怒りと羞恥にテオは涙を浮かべ、頭に巻いていたバンダナを取って宣言する。

「オレは女だ!! こんの…………女男!!」


   +++


「オレは女だ!! こんの…………女男!!」

 泣きながら怒ったテオは自らの頭に巻いていたバンダナを取る。

 バンダナの下に隠れていた長い白い髪が露わになり、一目で女の子に見えるようになった。

「え、えっ? テオって、女の子だったの?」

「女だよ!! てめぇオレが女に見えないって言うのか!?」

「う、うん。頭にバンダナを巻いていた時は全く見えなかったです」

 と、いうかこの年頃で髪の毛を短くしてて、尚且つオレなんて一人称を使っていたら男の子に見えてもおかしくはない。

 だけどテオは僕の答えが気に入らなかったのか、更に涙を流し始めた。

「うぇええ…………うわぁあああああああああん!!」

「ちょっ、そこまで大泣きする!?」

「分かんねぇよ…………! 涙が勝手に溢れて、泣いちゃうんだから…………あああああ!!」

「ああもう、泣き止んでって! こんな光景を見られたら誤解されちゃう…………!」

「…………随分と、楽しそうね」

 歳相応に泣き始めたテオを何とか泣き止ませようと四苦八苦していると、殺した筈の巨漢の声が聞こえた。

 テオを背にして巨漢の方に視線を向ける。

 巨漢は地に倒れ伏した状態でありながらも此方の方を見ていた。

 その目には憎悪を念が込められていた。

「死んでなかったのか…………ちゃんと止めを刺しておくべきだったか」

「安心しなさい。もうすぐ、いいえ…………身体の方はもう死んでいるわよ」

「だろうね。肝臓に動脈に静脈、膵臓までいってるだろうし」

 むしろその傷で即死してない方がおかしい。

 加護を受け取った人間は肉体も頑丈になるのだろうか。

「でも、まだ完全には死んでなくてね…………だから残された時間で貴方達を殺す事にするわ」

 その言葉を聞いた瞬間、僕は駆け出して手に持った刀で巨漢の首を刎ねる。

 しかし、時既に遅かったのか、宙を舞った巨漢の首から言葉が聞こえた。

「――――マリオネット。悪いけど、貴女の身体を借りるわね」

 ガチャリ、と鉄が擦れ合う音が聞こえた。

 視線を音がした方向に向ける。そこにはさっき僕が首をへし折った筈の少女が立っていた。

 生きていた、という事は無い首が曲がってはいけない方向に曲がり、口から血を流している事からどう見ても死んでいる。

 にも関わらず、少女は動いていた。

「マリオネット…………まさか、操り人形?」

 名前から今起こっている現象を予測する。

 恐らく、僕の想像は間違ってない。あれは死体を操る魔法なのだろう。

 と、いうかそうとしか説明がつかない。

 死体が起き上がり、僕達を殺そうと動き出すなんていうのは僕の知っている常識の中ではあり得ない事だから。

「――――っ!」

 操り人形と化した少女の死体、マリオネットは剣を持って攻撃を仕掛けてくる。

 とてもまともな動きとは言えない速度で突っ込んでくる少女の剣に合わせて僕も刀を振るい攻撃を防ごうとする。

 が、刃と刃がぶつかり合った瞬間に理解してしまう。

「あ、ダメだこれ」

 到底人間のものとは思えない膂力に鍔迫り合いは不味いと判断し、受け流す方向にシフトする。

 刃を逸らし、マリオネットの剣を受け流す。マリオネットはそのまま前のめりに倒れて地面を転がった。

 追撃――――は出来ず、刀を落としてしまう。

「っ、ミスった」

 一回打ち合っただけで両手が痺れて使い物にならなくなった。

 それ程までに強い衝撃だった。多分リミッターが外れているとかだけじゃない、限界以上の力を引き摺り出されている。僕の腕の骨が折れていないだけ奇跡だ。

 当然のことだが火事場の馬鹿力以上の怪力なんて肉体が耐えられるわけが無い。

 少女の身体からは骨が軋む音や筋肉の繊維が千切れる音、骨が砕ける音が聞こえるが問題無く稼働している。

 そもそもの話、あれは脊髄を破壊しているのに動いているんだ。どれだけ壊れようとも動き続けるだろう。

 本当に今の攻撃は回避すべきだった。いや、あの速度で突っ込んで来たら最初からかわせなかったか。

「ヤバいな、マジでピンチだ…………でも、ちょっとだけ楽しくなってきた」

 惜しむらくは自分の腕が使い物にならない事だろうか。

 左腕はまだなんとか使えなくもないけど右腕は感覚が無い。この痺れはしばらく取れない。

 こんな有り様じゃ刀はまともに持てない。

「本当、残念だ」

「諦めんじゃねぇ!! ミラージュ!」

 テオが叫びながらさっきと同じ魔法を使い、さっきと同じように僕達の幻影を複数作り出す。

 マリオネットは僕達と幻影の見分けがつかないのか、一瞬戸惑った様子を見せ、幻影の僕達に飛び掛かり攻撃を始めた。

「足止めしてる間に逃げるぞ! もう幻影も出せないからな!!」

「いや、ここで仕留める」

 僕の手を引っ張って逃げようとするテオを振り解き、地に落ちた刀を拾う。

 そして自らの上着を脱いで右腕に巻き付け、刀と手を固定する。

「よし、これでまだ戦える」

「戦える、じゃねぇよ! そんな状態で戦えるわけねぇだろ!」

「でも戦わなきゃ犠牲が出るかもしれない」

 僕の言葉にテオは「うぐっ」と何も言えなくなる。

「何より、僕が止めを刺さなかったから起きた事態だ。僕自身の手でけじめをつけたい」

「うぅ…………ああもう! 分かったよ!! このバカぁ!!」

 そう叫ぶとテオは懐からある物を取り出す。

 それは赤い液体が入ったガラスの小瓶だった。

「これはリアンがオレに預けていたリアンの血だ。本当ならオレの魔力を回復させる為にリアンが預けてくれた奴だが…………お前が使え!」

 テオはそう言うと僕に血の入った小瓶を押し付けてくる。

「本当はリアンが直接上げた方が良いんだろうが時間がねぇ! そいつを飲めば魔法が使えるようになる。今すぐ飲め――――」

「いや、いらないよ」

「はあ!?」

「僕、使い慣れてない武器で戦うのってあまり好きじゃないんだよ。いや、好きっていうより苦手かな? ある程度練習してからじゃないと怖いっていうか」

「つべこべ言わずにとっとと飲めやぁ!!」

「むごぉ!!?」

 怒ったテオの手によってリアンの血が入った小瓶が僕の口の中に突っ込まれる。

 勢いよく口の中に飛び込んできたリアンの血を吐き出す事は出来ず、そのまま嚥下してしまう。

 ドクンと心臓が脈打つ音が響き、身体の内側が熱い何かが込み上げて来るのを感じた。

「げほっ、なに、これ…………力が溢れて…………!」

 瞬間、身体から湯気のような何かが噴き出した。

 塞き止められていたダムが一気に解放されたような感覚に戸惑う。

 本当に凄い力だ。これが魔力というやつだろうか? いや、それ以上に――――、

「これヤバくない?」

「加護を授かってすぐに扱える力じゃないんだよ魔法ってのは。目覚めた直後はまだ身体に竜の血が馴染んでないから魔力が全部噴き出して気絶する」

「ダメじゃん!!」

「でも一回だけなら魔法を使う事が出来る! それであいつを倒せ!!」

「だから扱った事の無い力で戦うつもりは――――ああもう! 分かったよ!!」

 本当に不本意ではあるがやらなきゃ死ぬ、そう自分に言い聞かせて刀をマリオネットに向ける。

 マリオネットは既に最後の幻影を消しており、残された僕とテオの方に来ようとする。

 身体は既にボロボロで、本来ならば動くことすら不可能だ。にも関わらずその亡骸は強制的に動かされている。

 何で動いているのかさっぱり分からなかったが、加護を授かった今ならばはっきり見える。

 どす黒い怨念のようなものが少女の亡骸の真上に居て、そいつから伸びた細い糸のようなものが亡骸を動かしている。

 正にマリオネット――――文字通りの操り人形。

 直感ではあるけれど、あれは攻撃したとしても無意味だろう。

「なら、一撃で行動不能にするだけだ」

 全身から噴き出る魔力を一箇所から出るようにして刀に送り込む。

 魔力の放出そのものは止められないけど、こういった事は出来るみたいだ。でも魔力が一点から出ているせいで勢いが強く、今にも刀を手放してしまいそうだ。

 本当に上着で巻いて固定して良かった。

 人間とは思えないような動きで此方に迫るマリオネットに対し、僕は刀を振り上げる。

 魔法だなんて言われても今の自分に何が出来るかは分からない。

 それでも今の自分に何が出来るのか、それだけは理解している。

 今僕がこれから放とうとしている攻撃は当たれば間違いなく勝利する事が出来る。

 そう、当たりさえすればだ。

「問題はこの攻撃が当たるかどうかだけど…………」

 現在の僕の状態は決して良いとは言えない。

 そんな状態で確実にこの攻撃を当てられるかどうか、はっきり言って不安だ。しかも一撃で奴を行動不能にしなければいけない。

 いや、それすら正しくない。今僕がやらなくちゃいけないこと。

 それはマリオネットの胴体に攻撃を当てた上で、奴の身体を木っ端微塵にしなければいけない。

 そして、今の僕がそれをやるには二つの工程を必要とする。それでさえ上手くいくかどうかは分からない。

 初めて使う未知の力だ。確実に出来ると保証は出来ない。

「…………本当、ままならないな」

 それでもやらなければ死ぬ、そう自分に言い聞かせて覚悟を決めようとしたところで――――、

「カグヤー、テオー。何してるの?」

 自分達を呼ぶリアンの声が聞こえた。

「り、リアン…………! 何でここに…………!?」

 この場に一番来ちゃいけない人物が来た事にテオは酷く驚いた表情を浮かべる。

「何でって、二人が帰ってくるのが遅いから気になって来たんだけど――――」

「――――ッ!」

 テオからの質問にリアンが答えようとしていると、マリオネットがその身体を動かし駆け出した。

 ついさっきまで僕を狙っていたにも関わらず、明確な隙を見せたにも関わらず、屍人形が向かう先はリアンが居る方向だった。

「えっ?」

 僕とテオ以外の存在が居た事に気が付いたリアンは呆気に取られた表情を浮かべる。

 一方のマリオネットは手に持っていた武器を捨て、骨や牙で造られたようなナイフを手に持つ。

「ひっ!?」

 そのナイフを見た瞬間、リアンは恐怖から悲鳴を上げその場にへたり込み尻餅をつく。

 マリオネットは容赦無く倒れたリアンに向けてナイフを振り下ろそうとして、マリオネットが動き出した時点で動いていた僕はその身体を横から刃で貫いた。

「意志があるかは分からないけど、目の前の敵から目を外すんじゃねぇよ!! 目が見えてるかは分からないけど!!」

 押し倒しながら刀を地面に突き刺し、マリオネットの身体を縫い付け固定する。

「でも感謝するよ。自分から攻撃を喰らう隙を見せてくれるなんてね!!」

 コイツが僕を倒すのではなく、リアンを殺すのを優先した。目的を察するにそれがこいつ等にとって一番の優先順位だったわけだが、僕に向けていた注意を無くしたんだ。

 こっちを警戒していない相手に攻撃を当てる事なんて全く難しくない。

 戦闘の最中に僕を無視した事に対して怒りが無いわけではないが、自分の楽しみを優先する気は欠片も無かった。

 僕の胸の中を支配していた感情はリアンに攻撃を仕掛けようとした事に対する殺意だけだった。

「消し飛べ」

 刀身に込めていた魔力をマリオネットの内側で圧縮する。

 イメージとしては一点に集めた魔力を一気に解放し、爆発させるような感じだ。

 僕の想像の通りに上手くいくかは分からなかったけどその心配は杞憂だったらしく、圧縮された魔力は盛大に爆発した。

「ぬわぁああああ!!」

 その衝撃に僕の身体は吹き飛ばされ宙を舞う事になる。

 だが至近距離に居たとはいえ、僕が同世代の男子に比べて軽いとはいえ宙を舞うような威力の爆発。それを身体の内側から味わう事になったマリオネットの身体は原型が残る事はなく消し飛んだ。

 そして飛び散った亡骸の残骸に取り憑いていたあの男の魔力も完全に消失した。

 どうやら僕の予想通り操作する物体が無くなればあの魔法も効力を無くすらしい。

「だ、だいしょーり――――ぐへぇ」

 僕は勝利の宣言をしようとするも地面に叩き付けられ、踏み潰された蛙のような悲鳴を上げる。。

 我ながら締まらない、とは思いながら全身を襲う凄まじい疲労感に動けなくなる。

 覚悟はしていた。マリオネットが確実に行動不能になるように魔力を相手の内側で一気に放出し爆発させるつもりだったのだから。それでも痛いものは痛い。加えて強制的に覚醒させられ、魔力を使い切ったのがダメ押しとなり、僕の意識は今にも闇に沈んでしまいそうだった。

「だ、大丈夫!?」

「な、なんとか…………ごめん、やっぱ無理」

 へたり込んでいた状態から立ち上がり、駆け寄って僕を心配するリアンに見栄を張ろうとするも、想像以上の眠気に抗えない。

 本当にきつい、いや、きついなんて言葉じゃ説明できない。

 冬休み中に雪山で遭難して一週間経った時の極限状態でもここまで酷くは無かったと思う。

 いや、あれはあれで別のベクトルできつかったか。

「い、一体何があったの…………?」

 薄れ行く意識の中、地に伏していた僕の傍に誰かが駆け寄って来る。

 声の感じからして多分、リアンだろうか。視界もぼやけているから誰かは分からない。

「敵、現れた。僕、皆殺しにした」

「う、うん。なんとなくは分かったけど…………何で魔法を使えるようになってるとか色々と聞きたいんだけど」

「詳しい事はテオに、聞いて…………」

 正直な話、今は意識を失わないようにしているだけでも精一杯。それも長くは続かない。

「え、えっと…………じゃあ何かしてほしい事とかある?」

「じゃあ膝枕してほしい」

「分かった」

 頭を抱えられて僕の頭はリアンの膝の上に置かれる。

「あ、りが…………」

 感謝の言葉を告げる気力も失い、僕はリアンの太ももの上で意識を手放した。

 疲れ切って全身が痛いにも関わらず、とても良い気分だった。


   +++


 自身の太ももの上で寝息を立て始めたカグヤにリアンは少しだけ困った表情を浮かべる。

「これ、どうやって動いたら良いんだろ?」

「放り投げても良いんじゃねえの?」

「ダメだよ。カグヤ、結構怪我してるし、それに凄い疲れてるみたいだから」

 此方に歩み寄るテオの言葉に首を横に振る。

「それで、何があったの?」

「…………さっきそいつも言った通り、リアンの命を狙っている別の領域の連中が現れた。で、そいつ等をカグヤが皆殺しにした。ただ殺した死体が操られて苦戦して、それでリアンから預かってた血をそのバカにやって魔法を使って勝った」

 此方を見ずに説明するテオの言葉にリアンは苦笑し、死んだように眠るカグヤに改めて視線を送る。

「そっか…………二人とも頑張ったんだね」

「…………頑張ったのはオレじゃねぇ。全部そいつだ」

 そう言ってテオは力無く地面に座る。

「オレの魔法をオレ以上に使いこなして敵を瞬殺しやがったんだ。本当に強かった」

 浮かない表情をして呟くテオの頭をリアンは撫でる。

「そういやさ、そこで眠ってるバカがリアンに告白したって聞いたんだけど」

「うん。求婚されちゃった」

「…………マジか」

 リアンの言葉を聞いてテオは驚愕する。

「じゃあこのバカ本当に異世界から来たのか。竜に結婚を申し込むだなんて…………意味を知っていたらそんな真似する奴なんか居ないってのに」

「もしかしてテオ、カグヤの事好きになっちゃった?」

「だ、誰がこんなデリカシーの無いおかしい奴を!! い、いくらリアンでも言っちゃ悪い事があるだろ!!」

 テオは顔を真っ赤にし、涙目になる。

 その様子を見てリアンは微笑ましいものを見るような目でテオを見る。

「じゃあ嫌い?」

「…………まあ、仲間として認めてやっても良いとは思ってるよ。コイツにそんな事を考えて実行するような奴じゃねえし…………小根は恐ろしい程に捻れ曲がってるけど」

「そっか…………」

 テオの考えを聞いて、リアンは眠りに落ちたカグヤの顔を見つめる。

「ありがとうカグヤ。二回も助けてくれて」

 そう呟くリアンの顔はとても優しい顔をしていた。

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幼き竜と婚姻契約 霧ヶ峰リョク @kirigamineryoku

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