奇跡

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「なんじゃそりゃぁぁぁぁっ!!」

「「あっ!」」


俺と彩音のキスシーンを見せられたクラスメイトからはそれぞれの怒号が響き渡る。

とんでも美少女の柊彩音が俺と知り合いどころか周りなど関係ないかの様なラブシーンを繰り広げた事でもう収まり様の無い騒ぎになった。

女子から黄色い悲鳴……誰に告白されても一切靡かなかった俺が転校生といきなりのキスをしたものだから「どういう事?!」、「え?え?!恋人?!」、「陵さんにすら靡かなかった理由はコレかぁ〜……」、「女嫌いじゃ無かったんだね……」等など、男子からは怨嗟の声……「ざっけんなぁぁぁ!また神代かぁぁ!!」、「もう十分過ぎる程に囲ってんだろ!!」、「お前には陵さんが居るじゃねぇかぁぁぁ!!」と、大騒ぎである。


「蓮夜くん〜?後で詳しく話して貰えるよねぇ?」

「蓮夜……お前さぁ……南無阿弥陀南無阿弥陀。」


何で?!え?死ぬの俺?!雫は何でそんなに怒ってるんだ??


「蓮夜?彼女は何で怒ってるの?陵さんって誰?」

「えっ!?彩音も何でハイライト消えてるの?!」

「まさかとは思うけど……私が側に居ないのを良い事に浮気?」

「違う!浮気なんてする訳無いだろ!!」

「ふ〜ん……まぁ、信じてるけどさぁ。でも後で詳しく……ね?」

「はぃ……良く分からないけど分かりました……」


俺が何をした?!そりゃ確かに有希那には告白されてるけどさ……雫が怒ってる理由は分からないぞ?!


「はいはい!神代と柊は後で職員室な!お前等も静かにしろ!授業の準備しろよー!」


先生?!軽すぎない?!てか面倒になるからって逃げただろ!絶対!


「かぁぁみぃぃしぃぃろぉぉぉ!説明しろぉぉぉぉぉ!!」

「神代くん!!!女嫌いじゃ無かったの?!どう言う関係なの?!」

「ふっざけんなぁぁぁ!何で何時もお前ばかりぃぃぃ!!」


男子も女子もめっちゃ詰め寄って来た?!

転校生が優先じゃねーの?!普通!


「ふふっ。蓮夜はこっちでも人気者だね。」

「昔から人気あるの?」

「うんっ。主に女子からだけどねぇ。全く私がどれだけやきもきしてたか……」

「変わらないのね……っと、神薙雫よ。よろしくね?雫で良いわ。」

「ありがとっ!私も彩音で良いからね。」

「俺は間島信也。好きに呼んでくれ。柊さん。」

「間島くんもありがとっ。蓮夜とは二人共、友達?」

「おうっ。親友だ。」

「そうね。親友よ。まぁ……今はだけど……」

「ふ〜んっ。そゆ事かぁ。渡さないからね?」

「ふんっ。精々、油断してなさい。」

「やれやれ……これから大変だな……蓮夜。」

「やっぱり蓮夜はモテる?間島くん。」

「そうだな。下心無く人助けするし何処か影のある雰囲気が大人っぽく見せて頼り甲斐と母性本能とで年齢問わずに……かな。」

「そっか……変わらないんだね。良かった。」

「だぁぁ!詳しくは秘密だ!秘密!てか別に女嫌いじゃねーよ!」

「ほらー!何を騒いでるの!授業始めるよ!」


何時の間にかチャイムが鳴っていたらしく担当教科の教師が教室に入って来た。

それを気に俺の周りに居た全員が自分の席に着きやっと静かになった。


「はぁぁ……やれやれ。そんな騒ぐ事かよ……」

「そりゃそうでしょ。誰に告白されても断ってたあんたが転校生と行き成りのキスシーンしたんだからそりゃそうなるわよ。」

「そんなもんかねぇ。大げさだろとしか思わないんだけどな。」


雫からのツッコミにも納得は行かずに大袈裟だろと言う感想しか出て来なかった。

それにしても……何があったんだろう……確かに彩音は俺の腕の中で……だけど、間違い無く彩音だ……俺は少しだけ後ろに傾き視界に入る彩音を見る。

彩音も俺を見てたのか直ぐに視線があって俺の大好きな笑顔を向けてきた。

まぁ……その内、話してくれるだろうし今は彩音と再会したを噛み締めるか。

…………………………………………………………

SIDE 有希那


「うん?何か隣が大騒ぎしてる?」


朝の朝礼の途中に隣の蓮夜くん達のクラスから男女の声が聞こえてきた。

分かるのは、喜びの声って事、男女共に。


「何かあったのかな?」

「あの転校生は隣のクラスだったか……」

「転校生?」


私は隣の席の男子の呟きに反応して聞き返す。


「あぁ、うん。朝に職員室で見たんだ。もの凄く綺麗な子だった。」

「へぇ〜……女子の声も聞こえたよ?」

「あの笑顔見たらな……同じく職員室に居た女子も見惚れてたから。」

「そんな凄い子なんだ……」

「うん。あんな子居るんだ?!ってレベル。アイドルだって裸足で逃げるよ。」


まじかぁ……そんなレベルの子が蓮夜くんのクラスに……


「うぅぅ……何か不安になって来た……」

「神代の事?陵さんは神代に夢中だもんねっ。」


うっ!確かにそうだし知らない人も居ないかもだけど!!


「嫌な予感がする……」


「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

「なんじゃそりゃぁぁぁぁっ?!?!」

「えっ?!なんの騒ぎ?!」

「何だろね……」


これは直ぐに確認しないと!蓮夜くん絡みな気がする!

美織がチャイムがなって直ぐに私のところに来た。その顔は何処か焦った様な顔をしていて私の嫌な予感が更に強くなる。


「有希那ー!!」

「ど、どうしたの?美織。」

「チャット!チャット見て!!」

「う、うん……ぇ?蓮夜くんが……嘘……どういう事なの?蓮夜くんが転校生とキスしたって……」

「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!?!?!」」」


私の呟きにクラス中から大声が上がった。

ちょっと不味ったかもだけど……でも……蓮夜くん……


「やば……不味った……よね?」

「うん……これは一気に広まりそう。ごめん、蓮夜くんっ!」


私と美織は顔を見合わせて蓮夜くんに謝った。

聞こえて無いのは分かってるし自己満足なんだけどね。

でも、蓮夜くんが転校生とキスってどう言う事……?


…………………………………………………………

SIDE 司


「嘘……」


先輩達とのグループチャットを見た私の口から無意識に言葉が零れた、その内容はにわかには信じられない言葉が並んでいる。

柊彩音って言う転校生が来た、蓮夜と教室で泣きながら抱き合ってキスをした。


「そんな馬鹿な事……だって、先輩は……彩先輩は……」


蓮夜先輩の腕の中で息を引き取ったのだから、私と蓮夜先輩はそれを看取ったのだから、だから……だから……


「有り得ない……そんな馬鹿な事……っ!」

「ちょっと!司?!」


教室から走り出そうとした私を友達が腕を掴んで引き留める。


「離して!直ぐに行かないと!」

「何があったか知らないけどもう先生来るよ!」

「うぅ……くっ!」


今直ぐにでも先輩の所に行きたい!本当なのか確かめたい!

蓮夜先輩が彩先輩をなんて事は絶対に有り得ないんだから!

彩先輩に会いたい!今直ぐに会いたい!


「はいはい!皆、席に着いてね!授業始めるよ!」

「ほら……司がそんなに焦るなんて先輩達関係でしょ?それなら休み時間にでも確認しなよ。授業の間じゃ多分時間足りないでしょ?」

「それはっ!……うん……分かった……」


席に着きながら先輩達に返信を返す。

どう言う事なのか、本当に柊彩音と言ったのか、転校生とはどう言う事なのか、そしてお昼は全員で集まりましょうと……


「今日の授業は一切頭に入らないですね……」


本当に私達の知る柊彩音先輩なのか……本当に……


「何が起こってるの……」


私の呟きは教師の声にかき消され他の人の耳に入る事無く授業は進行して行った。


…………………………………………………………

〜昼休み〜


屋上の一部、俺達が揃って昼飯を食べる場所に2年は集まった。

今は司を待ってる状態なんだけど、空気が重たい……主に有希那からのなんたけどさ……次いで、美織と雫。

当の本人の彩音は素知らぬ顔してるどころか、俺にくっついてニコニコしてるんよ。

でもまぁ……ゴゴゴゴって効果音背負ってるのは見える。

はぁ……早く来てくれ司!お前が頼りなんだ!!


バタンッ!と大きな音を立てて屋上への扉が開く、そこには息を切らせた司が立っていて、その姿を見た彩音は静かに立ち上がり、司に向き直った。


「せ、先輩……?本当に……彩先輩……?」

「な〜に〜?たった二年で私の事忘れちゃった?」


司の瞳に大粒の涙が浮かんで、それは……一切の我慢もせずぼろぼろと溢れ始めて……立ったまま彩音を見詰めたまま声も出さずに泣き始めた。


「もう……相変わらず泣き虫だなぁ。」


そんな司に彩音は近付いて優しく抱きしめる。

その瞬間……


「うわぁぁぁぁっ。先輩ぃぃぃ!彩先輩ぃぃぃ!」


人目も気にせず子供の様に縋りながら司は泣き続ける。

そんな司を彩音はずっと……ずっと慰め続けていた。


………………………………………………………

「落ち着いた?」

「はい……いえ……まだ駄目です。さっきよりはマシですけど……」

「えっと……司は彩音の事を知ってるの?」

「はい。知っていますよ、雫先輩。だからこそ……だから……こそ……」

「司。我慢しなくて良い。」

「はぃ……はぃ……うぅぅ……ぐすっ……」


ぽんぽんと、俺の胸に飛び込んできた司の背中を撫でながらあやす。


「ちゃっかり蓮夜の胸に飛び込んでっ。」

「なんか見ない間に狡賢くなったなぁ。」


狡賢いか?俺と彩音しか今の司を分かるのが居ないんだし俺を挟んで座ってるんだから俺に来るのは当然だろうに。

その後、先ずはご飯をと言う事で俺達は昼ご飯は食べる、食後の有希那の何時ものお茶を飲んで一息ついたタイミングで有希那が聞いてきた。


「あのさ……そろそろ聞いても良いかな?」

「簡単に言うと……幼馴染だ。」

「幼馴染……でもそれだけの関係じゃ無いよね?」

「あぁ……それは……そ……れ……は……」


俺の身体がガクガクと震え始める。

忌まわしい過去を思い出すだけでこれだ……ましてや昨晩に夢を見たばかり……


「ご、ごめん!蓮夜くんごめんね!私のせいだよね!ごめんね!」


有希那が俺の手を握り必死に泣きそうな顔になりながら俺に謝って来た。


「皆、全てを話すのは今の時間だけじゃ足りないの。だから放課後に集まって貰えるかな?私も蓮夜と司に話さないと駄目な事があるし私が……私達に何があったのか、どうして蓮夜がこうなってるのか、司が私を見て泣き出したのか。私が全てを話します。」

「……分かった。ちゃんと話してくれるんだよね?蓮夜くんもそれで良い?」

「あぁ……俺もどうして彩音がここに居るのかを知りたい。何が起こってるのかを……だって、彩音はあの時……確かに……」

「蓮夜……ごめんね。でももう大丈夫だよ。私はここに居る……ね?」


コクリと俺は頷いて彩音の温もりに身を委ねる。

手は有希那が握ってくれて居て、震える身体は彩音が抱きしめてくれて居て、傍から見たらかなり羨ましい状況になってて……そのままお昼の時間が終わるまで俺達は静かな時間を過ごした。


何があったのかは分からない、だけど何かしらの奇跡が起こったのは間違い無いと思う。

だから……奇跡の代償が必要なら俺は払おう。

彩音が生きて行けるならどんな代償だって払ってやるよ。

俺はそんな覚悟を持って放課後に意識を飛ばしていた。

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思い出を乗り越えて episode friend 桜蘭 @karascrow

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