もう一つの世界
奇跡の始まり
夢、夢を見て居る、俺にとっての悪夢。
昔に実際にあった最低最悪の現実。
ずっと消えない、忘れる事の出来ない最悪の現実。
それを、夢で追体験している……
ぼろぼろと司も俺も大粒の涙を零しながら彩音と話すけど、どんどんとその身体が冷たくなって行って……
「ごめ……ん……ねむく……つか……さ?一緒に……おかい……もの……いこう……ね?」
「はいっ!はぃっ!何時だって!何処にだって!一緒に!行きますから!」
「れん……や?い……る?」
「居るよ!ずっと一緒に!彩音とこれからもずっと!ずっと!」
「うれし……いな……わたし……のせい……でめい……わく……」
「思ってない!彩音の事で迷惑な事なんて!今までもこれからも!絶対に無いから!ずっと!好きだから!彩音を愛してるから!いらない心配だから!」
「うん……わ……たし……も……あいし……て……る。」
ストンっと俺の頬に触れていた彩音の手が力無く地面に落ちる。
「おい!彩音!彩音?!起きろって!まだ逝くな!まだはえーーって!!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「やだよぉ……あやせんぱぃ……こんなの……こんなのぉぉぉぉぉ!!!」
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」
がばっ!と布団から身体を起こす。
「またあの時の夢か……」
忌々しい過去、俺が彩音を亡くした過去……未だに引きずってる。
「2年か……早いんだか遅いんだか……はぁ、起きるか……」
カーテンを開ける、外は日の出を迎えたばかりなのか朝焼けが凄く綺麗だ。
「彩音……」
寝室に飾ってある俺と彩音が写ってる写真立てを見ながら俺は一人呟いた。
…………………………………………………………
「蓮夜くんー!おっはようっ!」
朝の通学路、1年の頃にひょんな事から知り合い仲が良くなった学園アイドル、陵有希那が俺の腕に抱き着いてくる。
「おっと……おはよう、有希那。」
「ん……?何かあった?何か機嫌悪い?」
「いや……特には……」
去年のクリスマスに仲間内でパーティーをやってその時に少し抜け出した俺は、追いかけて来た有希那に告白されたけど、俺は彩音の事があって告白は断ったけど……有希那は諦めないからと、蓮夜くんが話してくれるまで自分を見てくれるまでずっと追いかけるからと……
「むぅ……ふーんだ!良いもん!良いもん!」
「お、おい有希那……腕。」
「ん~?良いじゃんっ。それとも~見られて困るの?」
いたずらっ娘の様なメスガキみたいな顔で自分の胸で俺の腕を挟んでくっ付いてくる。
「はぁ……好きにしてくれ……」
告白以来、有希那は周りに見せつける様に俺にくっ付いて来るし牽制する様に色々と世話を焼いてくれてる。
親が海外勤務ってと彩音との思い出が詰まってる街での生活が辛いから、俺は高校進学を機に違う街で一人暮らしを始めたけど男の一人暮らしな訳で……細かいところまで手が回らなかったけど有希那が通ってくれる様になってからは綺麗になった。
「先輩!おはようございます!」
「司もおはようー。後ろに居る雫達もおはようー。」
「蓮!おはよう!朝からラブラブだねぇ。」
「そんなんじゃねーよ信也。」
パンッ!と手を上げた信也の掌に俺も手を合わせ音が鳴った。
「……蓮夜先輩……」
俺を見詰めていた司が俺に抱き着いてくる。
「司……何だよ。」
「無理しないでください。あれですよね?」
「あぁ……あれだ。ごめん司。」
「良いんです。私にはこれしか出来ないですけど何時でも力になりますからね。」
少しの間、司に抱き着かれたまま朝の通学路に立ち尽くす。
そんな俺達を一部は不思議そうな顔、一部はニヤニヤとした顔、一部は司のファンからの鋭い視線が俺を見詰めて来る。
「むっすぅ……司も蓮夜くんもその辺にしておいた方が良いんじゃないかなぁ?」
事情を話して居ない俺が悪いんだけどそんな俺達を有希那はジト目で見ながら責めて来た。
「はいはい。お前等はその辺でなー。遅刻しちまうしさっさと行こうぜ。」
「そうそう、有希那も何時もの事なんだから態々突っ込まないの。」
先を歩いていた信也と美織のツッコミを受けて司は俺から離れる。
「はーい!行きましょ!蓮夜先輩!有希那先輩!」
笑顔の司に手を引かれて、俺と有希那は歩き出す。
GW明けの学校、何かが変わる訳でも無い、何かが起こる訳でも無い、そんな事は分かってるしこれが俺の選んだ選択肢の結果。
俺を追いかけて来てくれた司……この街で知り合った、信也に雫に美織……そして有希那。
奇しくも学校のトップグループになった俺達の変わらない日常……彩音が居た頃と同じ立ち位置に立ってる自分に内心で苦笑いしながら初夏の通学路を歩いていた。
「やっと……会えるね。蓮夜。」
…………………………………………………………
「おらー!お前等、席に付けー!」
朝の挨拶をして自分の席に座り友人達が挨拶がてら俺達の周りに集まって来て馬鹿話をしながら朝の時間を過ごしていると、何時の間にか時間になっていたらしく担任が出欠の為に教室に来ていた。
「……良し!全員居るな!GW明けでダレてるだろうが……」
担任のお決まりの話を聞き流しながら朝の時間を過ごしていた俺の耳に男子の怒号が響き意識を向けた。
「全く……これだから男子は……」
「何かあったのか?雫。話聞いて無かったわ。」
「転校生だって!美少女のね。」
「あぁ……それでこの騒ぎか……」
「お前等!静かにしろ!紹介出来ねーだろうが!女子に白い目で見られてるぞ!」
隣の席の雫に確認して居たら担任の声が響く。
担任の声に騒いでた男子達が一気に静かになる。
女子の白い目も効果あったんだろうけど、逆にイケメン転校生なら女子が騒いだろうに……
「全く……どうしようも無い位、男子だな……まぁ、良い。転校生!入ってくれ!」
カラカラと、教室の扉を開いて一人の女子が入ってくる。
そんな何でもない姿に教室の男子も女子も一気に目を奪われ全員の注目を集めながらも堂々と教卓へと歩いていく。
その姿は……サラサラとしたシルクの様な少し茶色がかった腰まである長い髪、太陽の光を反射しているかの様な輝く綺麗な長い髪。
長くて綺麗なまつ毛、意志の強さを感じさせる大きく綺麗な瞳。
スッと綺麗に通った鼻筋に何処か色気を感じさせる唇。
制服の上からでも主張する胸、引き締まった腰、細く長く綺麗な足。
男子の理想を詰め込んだ様な女子が男子も女子も魅了してしまう微笑みを携えながら立っていた。
担任が黒板に転校生の名前を書く……そこに書かれた名前は……柊彩音……
「柊は、二年ほど海外に行っていたんだが……」
担任の説明が聞こえてくる……でも、俺はそんな話は一切頭には入って来なくて……だって、あの日、あの時、彩音は確かに俺の腕の中で……だからきっと……同姓同名で……でも俺が彩音を見間違う訳無くて……
「柊彩音です。家庭の事情で海外に渡っていました。日本は二年ぶりですので色々と教えて貰えたら嬉しいです。よろしくお願いしますっ。」
綺麗な透き通る様な声が響き、彩音の挨拶が終わるのと同時に……「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」、「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」と……男女問わずに歓声が上がった。
「はぁ……確かに綺麗だけどこんなに騒いだら柊さんも困るでしょうに。」
「確かにな。皆に受け入れられたのは間違い無いみたいだけど。……どうした?蓮夜。」
「蓮夜?大丈夫?」
雫と信也からの疑問にも俺は答えずに転校生を只々見詰めてる。
でも、それは……転校生も同じで……
「静かに!それじゃ柊の席は……」
「先生ー!私の後ろ、間島くんの隣が空いてますよ。」
「おう!そうか、それじゃ柊。席はあそこに座ってくれ。彼奴等はクラスの中心でもあるから困った事、聞きたい事は気兼ね無く聞くと良い。」
「分かりました。ありがとうございます。」
そう言って俺達の方へ歩いてくる。
教室に、コツコツと靴音が響いてる。
そして……転校生は、柊彩音は俺の前で止まる。
俺もそれに合わせてガタンッ!と音を立てて立ち上がる。
そんな俺の行動にあっちこっちから「神代?」、「神代くん?」、「おい……蓮夜?」、「れ……蓮夜?どうしたの?」と、声が聞こえてくる。
「久し振りっ。」
「あぁ……久し振りだ。でもどうして……」
「詳しい事は後で……ね?でも今は……」
「うん。色々と聞きたい事があるし分からない事もあってどうして良いか分からなくて……」
「うん……ぅん……蓮夜……れんやぁ……」
「彩音なんだよな?俺の知ってる、俺の彩音なんだよな……?」
「そうだよ…!そうだよぉ!私だよぉ!」
「彩音!」、「蓮夜!」
俺達はもう二度と離れない、離さないと言うかの様にキツくキツく抱きしめ合う。
俺の胸の中で泣いている彩音を俺は抱き締めて頭を撫でて……俺自身も大粒の涙を零しながらお互いの存在を確かめあった。
そんな時間が少し過ぎて、彩音は涙でぐちゃぐちゃになりながらも俺の大好きな彩音の笑顔で俺にこう言った。
「ただいま!蓮夜っ!」
だから俺も……今まで誰にも見せた事が無い、彩音しか知らない顔で……
「おかえりっ!彩音っ!」
そのまま俺達は優しいキスをした。
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