第3話 告白とゲーム


「少しお疲れですか?」

「えっ!?」

「お顔が赤いですよ」

「あっ!?」



 シビリカ卿の指摘に顔が熱を持っているのに今更ながら気がついた。


 分かってる。

 私のこの想いは……


 シビリカ卿の顔をまともに直視できない。


 は、恥ずかしい……



「少し涼みましょう」

「そう……ですわね」



 シビリカ卿に誘われてテラスへと出れば、涼しい風が吹き抜け、私の火照ほてった身体を癒すように冷ましてくれる。



「ふふっ、気持ちいい……」



 欄干に両手をついて寄りかかると僅かに強い風が私の銀色の髪をなぶった。



「綺麗だ……」

「はい?」



 風で乱れた髪を手で押さえながら声に横へ顔を向ければ、シビリカ卿が熱のこもった瞳で私を見つめていた。


 そんな目で見ないでください……



「あなたは本当に美しい」

「心にも無い事を軽々しく仰るものではありませんわ」

「私の口からは本心しか出てきませんよ」

「まあ、救国の英雄様でもそのような巧言を口にされるのですね」



 言葉では拒絶しながらも、私の胸は喜びに溢れてしまった。


 だけど……


 この方の視線の先にいるのはであって本当の私ではない。


 その事が頭をよぎると気持ちがズーンと沈んだ。



「私は王女殿下……魔王の娘ではなくに想いを寄せているのです」

「お戯れを」



 いけないと頭では理解しているのに、どうしても好いた男性から言い寄られて嬉しさが込み上げてきてしまう。



 ダメよ。


 だって彼は男爵、そして私は……もの。


 これは一夜限りの夢物語。


 彼も本当の私を知らないわ。

 これ以上の深入りは危険よ。



「少々お酒が過ぎたのではありませんか?」

「本日は一滴も飲んでいませんよ」

「そうでしょうか?」

「私は想い人へ告白する為に酒の力を借りようとは思いません」

「あっ!?」



 突然、シビリカ卿が私の手を取った。



「会場に入ってくるあなたを見た時に伝えようと決心したのです」

「いけませんシビリカ卿」

「どうか名前で……アキレスと呼んでいただけませんか?」

「それは……できません」



 ファーストネームを呼び合うのは、よほど親しい仲でもなければありえません。

 シビリカ卿も無茶なお願いをするものです。



「少し性急過ぎましたか」

「そう言う問題ではありません」



 私とシビリカ卿では立場が違いすぎます。

 私の拒絶に彼の瞳が悲しげな色を映した。


 落胆する彼の姿に罪悪感が湧いてきたけれど……


 彼の気持ちはとても嬉しい、ですが受けるわけにはいかないのです。



「ではチャンスを頂けませんか?」

「チャンス……ですか?」

「はい、一つゲームをしましょう」

「どのような?」



 迂闊にも私は尋ね返してしまった。


 何も聞かずきっぱり断わるべきだったのに。

 ですが、気持ちを抑えられなかったのです。



「指輪をお借りしても?」

「これですか?」



 右の薬指を飾る緑の宝玉エメラルドの指輪を彼に渡す。



「明日あなたの指にこの指輪をはめられれば私の勝ち。その時は私をアキレスとお呼びください」



 ゲームの内容を聞いて私は安堵した。


 なぜなら私が負ける事はないから……



「負けたら?」

「臣下として王家に絶対の忠誠を誓います」



 私を見つけ指輪をはめるのは絶対に不可能。

 最初からシビリカ卿の負けが確定している。


 だって私は……



「明日、必ずあなたに会いに行きます」

「……期待しないで待っておりますわ」



 守る事のできない約束を交わし私はシビリカ卿と別れた。


 この場に私の叶わない恋の残滓を残して……

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