第5話 王女と侍女


 平民出ながら私の変身魔法は国一番だと自負していおります。


 今宵の夜会も最初から最後まで私がフリージア様に変身して出席していました。


 それでも魔国でもっとも魔法に長けた魔王陛下でさえ気がつかなかったのです。おそらく誰も私の変身魔法を見破れないのではないでしょうか?


 ただ、娘を想う魔王陛下父親を騙してしまったのは心苦しいですね。


 そして、シビリカ卿さえ私を看破できず、あの方の王女殿下への想いを知ってしまっては……



「お陰でゆっくり休暇を満喫できたわ」

「代わりに私は超過勤務ですけどね」



 ホクホク顔の姫様に撫然の表情で、少し棘のある言葉を投げてしまったのは許して欲しいものです。


 私は失恋の痛手に心の中で号泣しているのですから。



「いやぁ、これでしばらくは社交界もセラに任せて休めそうね」

「……残業代は請求させていただきますよ」



 このグータラ娘はまだやる気ですか!



「あ〜ん、セラのいじわる〜」

「あ、甘えてもダメですからね」



 くっ!

 可愛い過ぎます。



「ふふふ、ねっお願〜い」

「……たまにだけですからね」

「わ〜い、だからセラが大好きよ」



 嬉しそうに抱きつく愛らしいフリージア様につい相好を崩してしまう。



「くすっ、脈ありみたいね」

「し、知りません!」



 どうにも私はこの方のお願いに弱いみたいです。


 だって仕方ないじゃないですか!

 姫様ってばすっごく可愛いんですもの!


 可愛いは正義です!



「それじゃ、今日の夜会の報告をお願いね」

「はい」



 私は歓談した人物と重要な内容を簡潔に報告していく。


 最初はふんふんと微笑みながら聞いていたフリージア様でしたが、シビリカ卿の話になったところでいきなり不機嫌になった。


 もしかしてフリージア様はシビリカ卿をお嫌いなのでしょうか?


 私の話を聞きながら、時折フリージア様は「あいつ私のセラに手を出して」とブツブツ呟いておりますが、シビリカ卿が言い寄ったのは私ではあっても私ではありませんよ?


 それなのにフリージア様は指輪のゲームについて話したら不快感を一気に噴出させました。



「あいつ!」

「落ち着いてください。私とフリージア様は指のサイズが違いますから勝負は最初から負けはありません」

「バカ!」



 私の説明にムッとした表情になるフリージア様。


 その可愛いさプライスレスです。



「ホントに鈍感なんだから!」

「はい?」

「もういいわ……えいっ!」

「きゃっ、フリージア様ぁ!?」



 いきなりフリージア様は私に抱きついてベッドに押し倒したのです。



「いい? セラは私のものなんだからね」

「は、はぁ? 私はフリージア様の専属ですよ?」



 いったい何だと言うのでしょうか?



「ううう、この子は……今日はもう寝るわよ!」

「もう添い寝という歳ではないでしょう」

「セラのバカァ! 知らない!」



 ホントに何なのでしょうか?



 その夜は不機嫌なフリージア様を宥めるのに大変でした。


 まったく、ホントに残業代を請求してやりましょうか?

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