それから

今までの事を整理しておこう。僕があの時得た気付きとは、避けられようもない死から明確に『抗った』事だ。

従順に死を受け入れるでもなく、かといってそこで明確にこの後の長い人生を踏破することを決めた訳でもなかった。

『麻薬中毒者は麻ではなく快楽を欲している』それがあの時僕が得た結論だった。

僕にとっての死とは、恐らく『しがらみからの解放』と捉えられているのだろう。

死は解放である。殺人鬼が言いそうな台詞だが、まあ死にたいなんて言う人間にもそう考える奴が殆どだ。


僕は生き甲斐とか、親への面目をしがらみと言った。

しがらみから解放されるのが死だ。それでは物語に触れる事を止めることが、親が死ぬことが解放となり、それが果たして良いことなのか?

僕が死んだら親が悲しむというのはもうどうしたって仕方がない事ないんじゃないか?中には子の死を願う酷い親がいるかもしれないが、少なくとも僕の親はそれ程逸脱した人間ではなかった。

それじゃあ生き甲斐はどうだ?そもそも僕の生き甲斐はしがらみとしての機能しかなかったか?最初はそうじゃなかった筈だ。

僕はただ、物語を読むのが好きだった、それから作ることも始めた。僕は、物語が人間の考え方すら左右してしまう物である事を知っている。

物語に触れた時、そこには疑問がある。『こんな人生あって良いのか』『こんな風に生きて良いのか』『こんな理不尽があって良いのか』様々だが、僕らがそれに触れる事を辞めないのは当時の各々の人生観を揺るがせたからじゃなかったのか?

これをカタルシスと言った。カタルシスはギリシャ語で、訳せば『潟出』となる。

例に出せば憎たらしい悪役がようやっと死んだ時、客はやっと死にやがったか。と清らかな気持ちになる。これのことを言うがそれとはまた別にもう一つ解釈がある。

これは恐らく著者自身が最も味わう事なのかもしれないが作中の何某かの登場人物に自身を重ね合わせ、それが自らの抱える命題に立ち向かい、解決した時にもそれは起こる。

前者は『俺の嫌いな奴が痛い目を見た』という客体性からくるものであるのに対し、後者は『俺の未来、こうなったらいいなあ』という主体性を伴う。

話が脱線した。どちらがカタルシスであるかなんて、アリストテレスの時代から議論があるが、まあとにかく僕が言いたいのは後者だ。


飽きかけていた。最早僕の人生を揺さぶるものはないのだと、たかを括りそうして手ずから物語を作り、それに精を出した。

物語に飽きているのだとしたら、それならこの楔はしがらみとしての機能を最早果たしていないじゃないか?

じゃあ何故この楔は抜けない?僕を解放する事を拒み続ける?

それはきっと期待しているからだ。まだ僕を心の底から揺さぶる、そんな話があるんじゃないかと言う期待だ。

まだ僕はこの世全ての物語を見届けていないから、まだ僕は揺さぶられるかもしれない。待っているんだ。希望がやって来るのを。

そうしたらもうお終いだ。楔を打ち続けているのがその楔から抜け出したがっている僕自身なんだから。

僕が死ぬのは、物語に真に絶望した日なんだ。

そんな日が訪れる気がしない。

ああ、やっぱりどうしてあの時死んでおかなかったんだろう。そうすればこの悪循環を断ち切れたのに。


とにかく、解放としがらみが拮抗しているのなら、今一度、立ち会う必要がある。

そして戦い、今度こそどちらかを殺すべきだ。


僕は部室の扉の前に立った。


 ***


扉を開け、室内に入ればすぐ端っこにそれはあった。

それは最早本来の機能を果たすことが出来ず、ただただ黒く大きな身体を懸命に邪魔にならないよう隅に押し留めていた。

電気が通らない。いつからか細部が故障し、物を冷やすことが出来なくなってしまっていた。

それでも誰もこの巨体を動かそうとせず、十数年、この場所だけ時を止めたままだ。

物を保管する冷蔵庫が保管されていては本末転倒な気もするが、これが処理されなかった理由はいくつかある。

使い物にならなくなった、と言うよりか元々どう言った用途で使われていたのか分からないこの冷蔵庫はその文学性を当時の部員から認められたからここに残ることを許されたようだ。

これは箕谷先輩から聞いた話だ。


ワシリーサさんからの言伝で、僕はこれを処分しなければならない。

しかし、僕はこの冷蔵庫、文学性を持たされているという理由で使い物にならないまま放置されているのが可哀想だと考えていたのだが、彼女が言うに最近この冷蔵庫の中にとんでもないものが入ってしまっているらしい。

僕の腐らせた肉野菜とは比べ物にならないくらい。

僕は恐る恐るその扉に手をかけた。

「おっと、その扉を本当に開けるのかね?」

声の方を向けば、あいつがいた。椅子に腰掛けて、ポケットに手を突っ込んでいる。それで何やら向かいの女性と話し込んでいたらしい。全然気が付かなかった。

「葉多。偶然鉢合わせるとはな」

「俺がどこにいようが俺の勝手だろ」

「お前と会うには多少準備がいるんだよ。何言われるかわからないからな」

「まあそう言ってやるなよ。こいつもこいつなりに我を貫き通したいのさ、矜持があるのさ、木幡」

「箕谷先輩」

部屋には僕と葉多と箕谷先輩の三人がいた。先輩に会うことなんかいつぶりだろう。人気作家だから色々と忙しいのだろうか。


「そんなに驚く事ないだろう?まだあと三ヶ月、私も大学生だからね」

全く月並みな事を言うが、この時この場所に三人が偶然居合わせるなんて、何かの運命的な物を感じるな。

だとすればやはり、今しかないのだろう。死にたいと常々口づさんでいる男は覚悟が鈍るまでも早いだろうから。

「木幡、随分急いでいた様だがどうして急に冷蔵庫なんて気になり出したんだ?」

葉多が腰掛けたまま問いかける。

「ほんの些細なことなんだけど、僕はこれをしないと納得できないから」

「何だよ、そんな事いつもの事じゃないか」

僕の頭の中にある『歪んだ現実』の記憶が、他とは例外的に未だ鮮明なまま残っているからか、僕はどうにも彼の口ぶりは、彼女を馬鹿にしているかの様に思えて苛立ちを感じた。

「木幡、とにかくその冷蔵庫は開けないでくれるか?見られたら不味い物なんだ」

「なんです、死体でも入っているんですか?この中に入れても腐りますよ」

「だから木幡、その些事は諦めて欲しい」

「良いですよ。先輩からその言葉が聞けただけで十分です。

彼女の存在は証明されたんです。確かに彼女は、僕の知らない事を知っていたのだから」

多少、役目を果たせず少し負い目を感じるが。


「そうかい。ごめんね、あって早々君に迷惑をかけて」

先輩は僕の側まで寄ってきて、僕の顔を覗き込む。

その行為に僕は全く絆される事はない。彼女がそうする時は人の内面に素手で突っ込んで弄る時だ。心の内面を覗かれるなんて気持ちのいい事じゃないし、だから先輩がそうする時僕は少し後ずさってしまう。

かがみ込んで腹のあたりまである髪の毛が僕にかかる。僕が平均以上に短躯であることもそうだが、彼女の上背はそれにしても大きかった。

「今日はどうやら、何か覚悟を決めてきている様だな」

「どうしてそうお考えを?」

「何のことはない。君は運命とか、正直に信じちゃうタイプだろう?」

確かに、今日は間違いなく運命の日と言えるだろう。

先駆けて彼女には見抜かれてしまった様だ。これ以上先輩と会話に興じれば僕の先にやろうとしていることまで見抜かれてしまう。早々に会話を切り上げなければならない。

「そうすると、先輩は運命なんかは信じない質なんですね」

「そうだね、なにしろ長い人生だ。運命なんか信じて無理に作ろうとしなくても嫌でも運命的だと思わざるを得ない瞬間に出会うことはあるだろう。

だから待っているのかも知れない、私は私を唸らせる程の運命的瞬間を。

その点、あのいけ好かん青年は運命なんて頑なに信じないだろうがね」

先輩はさっきから一つも動かない椅子に座ったままのいけ好かん奴の方を見る。

「俺ですか。

全く、運命なんざに現を抜かす前に見据えるべき現実ってもんがあるだろうに、なんて思ってはいますが」

やはり葉多と僕の考えは真っ向から背反しているらしい。それに僕の精神を逆撫でするにも十分な回答だった。

「葉多、僕も運命なんて言葉自体は好きじゃない、たが偶然からドラマは生まれる物だと思っているぞ。だからお前の考えは日常からドラマを取りこぼしかねない、お前の人生はきっと僕よりつまらんだろうよ」

「全く、知った様な口を」

どれ程憤ろうと彼は椅子にもたれかかり身体一つ動かそうとしない。それは至って彼らしいスタンスだった。

「何はともあれ、今日の君は少し楽しめそうだ。その調子で続けなさい」

「言われなくともそうしますよ」

「時に木幡、最近はどんな本を読んだね」

最近読んだ小説ね、僕は丁度電車で読み終えた小説を思い出す。

「『***の**』中々良かった。小説家になりたい奴の私小説。一度は創作を経験した奴は共感しちゃうね」

先輩はにやけて顎に手を添える。共感する時、彼女はそんな仕草をする。

「あれね、私も読んだよ。

内容が些か名前負けしているけれどね。あれの賞賛すべき点は読者に対するアプローチが凄く正直な所だよ。

まず最初に衝撃がある。予想はしていてもやっぱり驚きは避けられない。そこから『彼』もとい小説に対する情熱のルーツを辿っていく。ミステリに情熱を語らせるとは、考えた物だと思うよ」

「俺も読みましたよ。三章目の設定が気に食わなかったですがね。しかし木幡、君もやはりあの小説をタイトル買いした口だろう」

確かに、用事のついででブックオフに寄った時、タイトルに釣られて買った節がある。

「俺はね、本は基本タイトルだけ見て買う事にしている。

例え買って読んだ後、つまらなかったとしても意外な発見があるかもしれないからな。そういう所で、君の不器用さは一種のセンサーになるかも知れない。タイトル買いをお勧めするよ。

まあでも、君は結構正直だからね。公正な評価とかしないもんな。それはディレッタントとしてどうかとも思うが。やっぱりやめた方がいいか」

出た。この前も誰かが言っていた気がするが、一体何なんだ。

「ディレッタント?何だそれディレッタントって」

「フランス語だね。訳せば文芸愛好家となる。実態はどうなのかと言えば確かに葉多の様な人間が名乗るだろう」

先輩が答える。

そんなもの、名乗る気にもならない。フランス語?馬鹿げている。葉多始めこういう連中はどいつもこいつもフランス語を引用しやがる。どうして素直に文芸愛好家と言わないんだ?

「ディレッタントって言うのはね、博愛主義者じゃなくちゃならないんだ。遍く作品を愛す。だからこそその返礼として俺はその作品を批評する。君はそういうことしないもんな」

「僕の趣味に口出ししないでもらえるか」

「出た。君の愚直さには感動すら覚える。どうしてそんなにも愛する事を拒む?君、嫌いな作品あげてみなよ」

少し考えなくても沢山浮かぶ。僕に強烈な嫌悪感を抱かせた作品。まあ、嫌われるために作った作品というのもあるだろうが。

「『***・**』だ。最後の主人公が旅立つシーンで泣き出しやがったあのおっさんが僕は許せないんだ」

「ははは!そんな事言うなよ!愛してやれよ!俺は好きだぞあの映画。設定がいちいち象徴的で面白い。それを場面毎に散りばめているのも感心する」

あんな理不尽、許せるわけがない。一人の人生を散々歪めておいて最後に感動して泣いて良い訳が無いだろ。僕はその映画を見た当時を思い出し、あの男に対する怒りが込み上げてきた。

「お前は、あの最後で納得するのか?」

「いいや、確かに俺も違和感を感じたさ、でもそれで作品全体がおじゃんになるくらい地盤は脆く出来ていないよ」

「僕は許せないんだ!」

「俺は愛してる!」

つくづく、分かり合えない。こいつも僕に対して同じ事を思っているだろう。

「駄目だ、やっぱり君はディレッタントと名乗るに相応しくないね。


 ***


「最近はどうだね、木幡」

ともすれば先輩は腹までありそうな髪をかき上げ、僕に問いかける。葉多は暫く黙って僕と先輩の話を聞くようだ。

「どうもしません、先輩。いつも通りです」

先輩は笑う。彼女の一挙手一投足が僕の心の奥底までを掻き分け見通している様でいつも通り僕は構えてしまう。本当の所、どうなのか僕には分からないが。

「そうか、それは何より健全な症状という訳では無さそうだ。木幡、私は医者じゃないが君を診断してやろう。どうだ、乗るか?」

「先輩になら精神科医くらいならやれますよ」

「ははは!文筆家が片手間に出来る仕事ならそれも良かったかもしれないが、案外そうもいかなくてね。

話が脱線しちゃったね、話を戻そう。

そういえば君は何かにつけて最近、死にたいとぼやいているそうだな」

全くそんな事は無いのだが、その言葉がまるで僕の耳元で囁かれているように感じ、ぞっとした。彼女は続ける。

「君の考えは正しい。というか、君の言っていることは一度は誰もが真面目に考えたことなんだろうよ。

でもね、誰も君程真剣にその問題に向き合っていない。生きるのが辛く、人生などしがらみが無ければ捨て去っても構わないなんて確かに極端に聞こえるが、実際それを言われて納得してしまう人間は多いだろう。


だが、それは考えても詮無いことなんだよ。際限なく底に空いた穴に吸い込まれ続けていく。

栓で塞ぐことができないのなら、そっぽをむくしかないじゃないか、誰もがそんな考えで刹那的な娯楽に身を投じて人生を謳歌している。

君は自分が思っている以上に真面目な男だ。だから目を逸らすことが出来ない。

かと言って詮無い問に明確な答えがあるはずもなく、時偶怖気付いてしまう。君の信念の高潔さに心がついていかないからだ。人の心はそこまで頑丈に出来ていない。

そんな弱みの表出がその口癖だと私は見ているが。


全く悪影響なのはその口癖とやらに木幡、君は憤っているね?

君の口癖は口癖なんて気軽なもんじゃないのよ。君がやっているのは問いかけだよ、一見それが口癖に見えたとしても。誰もが問いかけにまともに取り合ってくれないから憤っているのだろう?

無体な話だと思わないか?君が問いかけている人間は殆ど、その問題を一度は真面目に考え、匙を投げてきた奴らなんだから。

残酷な事をしているんだよ、君は。他人の辛い過去の記憶を呼び起こそうとしているんだから」


問いかけ?確かにそうかもしれない。たが、今更意識して辞めようなんて事全く思わないが。

「それなら先輩は、その問いかけにどう答えますか?」

「全く、明確な答えなんか無いと言った側から私にそんなことを聞くのか?

葉多、君はこの問いかけにどう答える」

「まだ俺は出汁に使われるんですか。つくづく馬鹿な話だと思いますがね。木幡、死ぬんだったらせいぜい俺を笑わせる死に方をしてくれよ」

「ひねてるな、この男は。木幡。私の持ちうる回答は凡そ君と同じような物だろう。そしてこの男も私や君と同じ様な答えを持っている。私たちは性質は違えど根幹にあるものはそんなに変わらないんだ」

だったら何だ。

「だからまあ、そんなに落ち込むなよ。こんな所が落とし所か」


それでやっぱり君には小説家を目指すべきではないと忠言しておこう。

木幡、君が私の二番弟子、詰まるところ葉多を越えられない理由が何か今一度噛み締めておけ。

その正直さ、愚直さがつくづく君の筆を折ってしまうだろうから。

熱に浮かされ筆が止まってしまう様な人間は小説家失格だろう?」


「そうですか、先輩にもどうやら見抜けなかったものがあるようで僕は少し安心しましたよ。

僕は先輩が思う程器用じゃありません。先輩が思う程寛容じゃありません。

話す場所を変えましょう。今でなきゃ出来ない話があります」

「どうして?ここは物語を語るために用意された場所だぞ?」

「違う。僕は物語を語りに来たんじゃない。だからここじゃあ不十分なんだ」

「じゃあ何しに来たんだよ」

あくまで、ゆっくり落ち着いて言う。

「殺しに来たんだよ。だから僕がするのは火を囲んで語らう事じゃない。僕が行くのは戦場だ」


僕は二人を促し、部室から出て、エレベーターに乗った。

エレベーターに二人が入り、僕は最上階のボタンを押した。その間僕も含めて普段は多弁な三人が一言も言葉を発しなかった。

屋上というのはエレベーターで直接行ける訳ではなく、最上階から階段で登って辿り着く物だ。大抵の建物は何故かそういう作りになっている。費用削減の為だろうか。

しかしまあ、この建物は十階建だから、見下ろす景色もそれなりに壮観だ。風が強いのが玉に瑕だが。


僕は屋上に繋がる扉を開ける。扉は重く、開ければ一杯の風が勢いよく屋内飛び込んでくる。

その風に僕達の髪は掻き乱される。

「木幡!こんな所にまで来て何するつもりだ!」

葉多が口を開いた。

「木幡、こればかりは賛成出来ないな。ここは風が強すぎる、落ち着いた場所でこそ身の入った会話ができると言う物だ」

僕は二人の言葉なんか無視して、そのまま屋上の端に進み出る。屋上には人が誤って飛び降りることがない様、柵が張り巡らされている。最も、こんな物飛び越えようと思えば難なく出来てしまう程度の物である。

僕は柵に手を掛けた。

「木幡!お前まさかそんな胸糞悪いことしようとしてんじゃないだろうな!」

「葉多。お前じゃ絶対に出来ないことを見せてやる!」


「やってみたまえ。最悪な結果になるぞ」

葉多は身をかがめてまで僕の表情を伺いながら僕を試す様な事を言い出す。きっと、びっくりしているに違いない。

「聞いてあげるよ。君の物語とやらを。少し根を詰めて考えたんだろう?

ほら。話してみなよ。どうせ箕谷先生みたいにはなれないだろうからさ」


実は話はいいのがかんがえてある。

どうしてこんな場所で話をしなきゃいけないかって、別に家で文字で打てばいいじゃないかと思うだろう。その方が熟考して話を書けるって。

それじゃあ駄目だ、僕が嫌なんだよ。箕谷先輩は偉大なる大先生だよ。僕と然程歳も変わらないのに、幾つも賞を取って、その行動だって常識の範囲には収まらない。僕から見たら作家の業を煮詰めて生まれたような化け物、誰もが羨望の眼差しを向けるだろう。

実際に会って話したら、そうかこの人、僕と会話が通じるんだと保けた驚きを目の当たりにした。

そんな彼女に、一泡吹かせてやろうって訳だ。彼女と同じ武勇伝を作って。


葉多は僕の事を物凄い目つきで睨んでいる。先輩は何だか形容しがたい表情を浮かべた後、しびれを切らした様に僕に言う。

「君が博愛主義者じゃ無い事は散々分かった。だから戻ってきなさい木幡。君のこれからやろうとしていることに意味なんか無い」

「あります!ありますとも!多いに!」

勘違いしてるかも知れないが間違っても僕は死のうって訳じゃ無い。

「先輩!葉多!ここは例えるのならどんな場所でしょうか!先輩の心持ちは?

ここは戦場ですよ。殺すか、殺されるかです」

片手で柵をしっかりと握り、もう片方の手でコートのポケットを探り、メモ帳を取り出す。

そうして二人の方に投げる。

「ペンは持ち合わせのを使ってください」


始めよう、今生最大の大一番を。

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ディレッタント、冷蔵庫を語る。 たひにたひ @kiitomosu

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