終の棲家には日だまりがあたり、時を紡ぐ糸がある。

「認知症」という重いテーマが伏線にありながら、施設の職員さんや折り鶴とくす玉には日だまりあたる病室の雰囲気が漂ってくる。

ところが、読み進むにつれ、痴呆進む実母から忘れられた娘の気持ちを思うと虚しくなり、絶句してしまう。でも、一瞬だけでも記憶を取り戻して、母から幼い頃と同様に髪結いをしてもらうシーンには良かったと、救われる思いがしてきた。
 
きっと、母娘しか分かり得ない世界にさかのぼり、髪の毛の一本一本、糸を紡ぐように昔を思い出していたのでしょうか……。ここには、トリさんの優しい世界観が漂っており、心を打たれておりました。