第25話 追跡

 また、連絡がつかなくなった。

 りょうからのSNSの返事はない。

 ワタシはベッドの海から這い上がった。トイレに急用がなければいつまでもゴロゴロしてたと、思う。

 冷凍庫で冬眠していたクロワッサンをオーブンで温める。電気ポットで温めたお湯をティーバッグを置いたカップに注ぐ。

 今日は感心だわ、お料理をしてるワタシ。

 さて、と。室内AIにjazzを流すように指示をした。気分をあげていかないと。そしてスマホを開いて例のアプリを起動させてみた。


 ワタシを暫く無視しようとしてたわね。

 重い女になってしまっちゃったのかな。


 まあ自分は早々変えられないわ。

 きっかけは久々にコールが来たときよ。

 今の彼氏?って男が、あの泥棒女を咥えこんで酒場にいるって。そう、りょうは話したわ。

「その店にいるのね。で様子を窺ってくればいいの?」と訊くと。

「このスマホを置いてきて。全方位カメラがついてて、特定の声紋の人物を追って録画するの。カレの登録は済ませているわ。会計はボクのカードを使って」と返したわ。


 起動してあるりょうのスマホ。

 カメラのアプリを開くこともできた。

 ワインバーまでエレベータで上る途中で、そのスマホに細工をした。自分のにQRコードを出して、それをりょうのカメラで読み込んだ。

 もともとが盗撮?目的なので、ロックが外されている。そのままアプリをチップに潜り込ませることができた。

 スパイウェア。

 これで現在のりょうの居場所が、このスマホに位置表示できる。

 このスパイウェアを駆使して、夫の不倫を突き止めて、それで離婚保険でこの優雅な自堕落生活ができるようになった。

 あ、やなこと思い出しちゃった。

 あの顔だけは避けて生きてきた。

 追い詰めたのはこっちだって知ってる。

 認めたくないだけだって、わかってる。

 でも今が続くのが現実だって、それは真実でしょ。

 

 妙な場所にいる。

 歓楽街の雑踏にいる。

 常識を履き違えて股間でものを考えるガキが、集団でしゃがんでいる区域なので、生理前でどす黒い衝動が子宮に宿っていても避ける通りだった。

 時間はもうひとりで女が出歩く場所と時間帯ではない。

 あのクソ男なの?keepにもあたらないってゆったのに。

 地図アプリのなかで移動している。

 どうも徒歩のようだ。

 暴漢にお持ちかえられてはいない。

 けど。

 アプリの次の機能には躊躇いがある。

 盗み聞きってよくないよね。

 覗き見るって駄目なことね。

 でもりょうだって・・・

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離婚式 百舌 @mozu75ts

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