異世界 奴隷解放 SS

和谷幸隆

解放の日

私はディー伯爵家の奴隷だ。


ご主人様は寛大な方で奴隷とはいえ無駄に虐げたりはせず、


労働時間は8時間で、食事も3食あり、月に2度は休みの日もある。


能力のあるものは使用人と同様の扱いで登用してくれる。


私は25歳の時に大商店で頭角を現し支店を任されそうになっていたところを、


妬みから同僚に横領の濡れ衣をきせられ借金奴隷に落とされた。


当時は絶望したものだったが運が良かったのか今のご主人様に買われ本当に良かった。


他の貴族の奴隷だったら休みなく一日に12時間以上強制労働させられていただろう。


その点、ご主人様は私の才能をかって下さり、家庭教師役として過分な待遇を与えてくださった。


奴隷の身でありながら結婚を許され、子も授かり幸せな日々を過ごしている。


そんなある日、勇者様一行が立ち寄られた。


「この人たちは?」


「当家の奴隷たちにございます。皆よく働いてくれております。」


「奴隷!?いますぐ解放してください!」


「勇者様、突然何をおっしゃられているのか話しがみえませんが、、、」


「とにかく奴隷を早く解放してください!」


「一部の特権階級が搾取したり、人権を侵害する世界は間違っている!」


「皆の生活もあるのですぐにどうにかできるものではありません、、、」


「貴族のその思考が間違っているのです!奪われる者たちの気持ちがわからない!」


勇者は激高し剣を子爵へ突き入れる。


「さぁ、皆さんは自由です!あなた達を支配する人間はいなくなりました!」


(ご主人様が・・・どうして・・・)


「ご主人様!なぜご主人様を殺したーーーーっ!」


怒声を上げ周りにいた農作業中の奴隷の手にあった鎌を奪い勇者へ切りかかる。


勇者は意外そうな表情を浮かべていた。


勇者の首に鎌の刃が吸い込まれていく。ご主人様の仇はとった。


そう思ったが生身の首に刃が当たっているのに傷一つつくことはなかった。


勇者が軽く手を振るうと私の体は吹き飛んで壁に打ち付けられる。


薄れゆく意識の中で奴隷たちが一斉に勇者へ向かっていくのが見えた。


勇者は剣を軽く一周させると周りにいた奴隷たちはかつての奴隷たちとなった。


勇者は火の魔法を放つ。屋敷に火が回っていく。


ああ、あの屋敷には私の妻や子、ディー家の皆さん、使用人もいるのに、、、


打ち付けられ動けなくなった私のところへも火は拡がってきて服や髪が燃えていく。


大きな屋敷はくずれ落ち、私にも瓦礫が降り注ぎそこで私は奴隷では無くなった。


その日、ディー家にいた奴隷たちは勇者様によってすべて解放されたのだ。


そして勇者は世界から奴隷がいなくなるまで解放を続ける。


(完)

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