エピローグ そして、次の時代へ
その少年は勢いよく艦から飛び降りた。未曾有の繁栄を見せるイースタンプトン港に集まる人々は一瞬驚き、少年の方を向いた。
しかし、少年が何事もなかったように歩き出すと、すぐに自分の果たすべきに向き合った。繁栄している分、ここの港の人々はせわしない。
少年の後を追うようにその母親らしき女性がゆっくりと艦から下りてきて声をかける。
「どう? ランドルフ。ここがイースタンプトン。
少年は母親の方を振り向くと、小さく首を振ると言った。
「いえ、母上。確かに
「まあ」
母親は微笑むと独りごちた。
「負けず嫌いな子だこと。一体、誰に似たのかしら」
そこへ後方から下りてきた父親らしき男は内心こう思った。
(そりゃあ
但し、それを口に出すことはなかった。
◇◇◇
三人の親子連れは「アトリ・デ・マリ商会」の直売店に向かい、しばし見て楽しんでから、商会の商館に向かった。
現在、商館長を務めるサビーノに歓待された三人は予め用意されていた馬車に乗ると王宮に向かった。
王宮でも三人は、すっかり王配の地位が板に付いたアダムに歓迎された。
しかし、三人が王宮を訪れた目的、女王エリザとその最近生まれたばかりの第二子にして、第一王子との面会は母子ともやや体調不良気味のため、少し待ってほしいと言われた。
「
三人連れの中の母親が穏やかに尋ねるとアダムは笑顔で頷いた。
「医師の診断でも少し疲れが出ただけだそうです。二、三日休めば回復するそうです。部屋を用意しますので、そこでお待ちいただけますとありがたいです」
三人連れの中の母親も笑顔で返す。
「私も王宮に入るのは本当に久しぶり。ゆっくりさせていただきます」
アダムが自ら三人を部屋に案内。部屋に入るなり、少年は父親に言った。
「父上。船旅とそれに続く馬車の旅で体が
父親は苦笑したが、アダムに向かって言う。
「実は俺も体を動かしたいと思っていたところなんだが。
アダムも苦笑する。
「あなたには昔のとおり『アダム』と呼んでほしいが、他の者の目もあるから仕方ありませぬな。模造刀はすぐに用意させましょう。場所はそこの中庭でよろしいですかな?」
「ありがとうございます」
父親は深々と頭を下げた。
(随分と礼儀正しくなったな。お互いもう人の親だもんな)。
アダムは内心そう思った。
◇◇◇
「えいっ、やっ」
少年の斬撃を受け止めながら、父親は思う。
(随分、剣筋が鋭くなったな。八歳だっけ。この歳の俺より上を行ってるな)。
母親は微笑を浮かべ、二人の鍛錬を黙って見守っている。
◇◇◇
また、一人の少女がその鍛錬を見守っていた。
見つからないように柱の陰に隠れ、そっと見守っていた。
鍛錬は長時間に及んだが、ずっと目線を外すことなく見守っていた。
「あらあら」
最初に少女のことに気づいたのは侍女頭のマリアだった。
「ソフィア王女。そんなところで何をしているのです?」
名前を呼ばれた少女、エリザ女王の第一子、王女ソフィアはマリアの方を振り向くと唇に右手の人差し指をあて、「シーッ」と言った。そして、小声で尋ねる。
「マリア。あの人たちは何なの?」
「ああ」
マリアは中庭を眺めてから答える。
「あの女性はアトリ諸島副王のアミリア様です。
「あのね。それもあるけど……」
ソフィアは少しはにかむ。
「あの男の子は?」
「ああ、お二人のご長子ランドルフ様ですね。
「ふーん。同い年なんだ」
そう言いながらソフィアはランドルフから目線を外さない。
「ちょっとかっこいいね」
(あっ)。
その時、マリアの脳裏を走るものがあった。
(
マリアはゆっくりと口を開いた。
「ソフィア王女。もうちょっとあの鍛錬を見ていたいですか?」
「うん」
「では、特別に休憩時間を少し伸ばしましょう。特別ですよ。その後はお勉強に戻ってくださいね」
「うん」
(ふうっ)。
マリアは溜息をついた。
(
ソフィアはその後しばらくランドルフから目線を外すことはなかった。
「フラれたショックで侯爵令息から海賊の頭目になったんだが ドタバタワイワイまあ楽しいのかもしれない」完
フラれたショックで侯爵令息から海賊の頭目になったんだが ドタバタワイワイまあ楽しいのかもしれない 水渕成分 @seibun-minafuchi
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