第75話 父(ホレーショ)に馬鹿息子(ジェフリー)、更にその弟(デイヴィッド)
「いーや」
ホレーショは杖を拾い直しながら、首を振る。
「
「え、あ、
デイヴィッドが止める暇も与えず、ホレーショは年に似合わぬ健脚ですたすたと歩いていってしまった。
そして、エリザとアダムの立つ壇の前まで行くと声を張り上げた。
「アダム男爵令息っ!」
「はい」
「お見かけしたところ、
「失礼。あなたは?」
声をかけたのは司会を務めるウォーレンである。
「これは失礼した。我が名はホレーショ・ヴィーア。国を憂えるただの年寄りじゃよ」
「おおっ、あなたが『エリザ女王陛下の海の守護神』と言われた。お目にかかれて光栄です。しかし、お言葉ではありますが……」
「何かね?」
「こちらにおわすアダム様は、
「ふん」
ホレーショは鼻を鳴らす。
「
ウォーレンは言葉につまる。ホレーショは百戦錬磨でもある。しかし、ここで海軍大臣クレア公爵が前に出る。
「お久しぶりですな。ホレーショ・ヴィーア様。まだまだ
「これはクレア公爵。
「ふふふ。このクレア。身内びいきと言われることは事前に予測しておりました。そのため他の海軍軍人をたくさん連れてきました。おい、みんな入れっ!」
ぞろぞろと入室してくる海軍軍人たち。中にはホレーショが見たことがある顔も何人も。
「ホレーショ先輩、お久しぶりです」
「久しぶりにご尊顔を拝見しました」
「『女王陛下の海の守護神』のオーラはご健在ですね」
「うっ、うむ」
相次いで声をかけられ、さすがに圧倒されるホレーショ。
「アダム男爵令息は
「海軍大臣も言われましたが、第一艦隊が
「先日のアトリ諸島攻防戦でも第一艦隊を指揮し、ホラン王国海軍を撃破する功を立てております」
「海軍ばかりでなく、
「功績は軍務だけではありませんぞ。イースタンプトン港の繁栄を見られたか。あれはアダム様と『アトリ・デ・マリ商会』の親密な関係あってのことですぞ」
「わっ、わわわ、アダム様が凄いことは分かった」
「ふふふ。さすがのホレーショ様も分かってきてくれたようですな。では、最後にこちらの方にご登場いただきましょう」
クレア公爵の呼びかけに今度はぞろぞろと侍女たちが入室する。その先頭にいたのは……
◇◇◇
「マッ、マリア殿っ!」
ホレーショは思わず声を上げる。たくさんいる侍女たちの先頭にいたのは侍女頭のマリアである。
「ふふふ。本当にお久しぶりですねえ。ホレーショ様。エリザ様のおむつを一緒に換えたのが昨日のようですが」
「そうですな」
「あの時、ホレーショ様は『うちにも乳児の
「何とも懐かしい」
「そこまでホレーショ様が愛されたエリザ様。その方が最も心を許されている方。それがアダム男爵令息なのですよ」
「そうなのですか?」
「そうですとも。
「うむ」
ホレーショは大きく頷くと壇上のエリザとアダムに一礼した。そして、振り返ると出席者たちに声をかけた。
「では皆様ご唱和願いたい。エリザ女王陛下に栄光あれ。アダム王配殿下に栄光あれ」
「へ?」
「えーと?」
「何が始まったんですか?」
ホレーショの豹変ぶりに周囲の者たちはついていけない。しかし、ホレーショはめげない。
「エリザ女王陛下に栄光あれ。アダム王配殿下に栄光あれ」
「エッ、エリザ女王陛下に栄光あれ。アダム王配殿下に栄光あれ」
「まだまだ声が小さいっ! もっと大きな声でっ! エリザ女王陛下に栄光あれ。アダム王配殿下に栄光あれ」
「エリザ女王陛下に栄光あれ。アダム王配殿下に栄光あれ」
「いいですぞっ! 更に大きな声でっ!」
「エリザ女王陛下に栄光あれっ! アダム王配殿下に栄光あれっ!」
「よーしっ! ラストッ! 偉大なるイース王国に栄光あれ」
「偉大なるイース王国に栄光あれっ!」
オオーッ
大歓声が沸き起こり、拍手の嵐は鳴り止まない。
唱和に参加しつつデイヴィッドは思った。
(これだ。この切り替えの早さが
(やっぱり
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