第4話 罪と罰

 ついに目的の場所までやって来た。私はりんごちゃんに構っている警察官の皆さんに見つからないよう、屈んだ身体を慎重に伸ばしていく。自分が吐く息遣いや、身体を擦る草の音さえも、気になってしまい、りんごちゃんの方を見やる。ガタイの良い警察官に囲まれているからか、りんごちゃんの姿は見えないが、どうやらうまく引き付けているらしい。

 よくやるよ。ほんと。

 でも少しだけほっとしたことには変わりないので、りんごちゃんに心の中で感謝した。

 私は顔の向きを変え、改めて目的の場所に視線を注ぐ。

 そこには黒ごま入りの落雁のような白い石を台座にして、立方体の箱がそこにあった。

 こ、これが……。

 私はてっきり箱といってもダンボールのような物を想像していたが、全く違った。この箱はサイコロのように美しい立方体の形状で、枠は金色の装飾で縁取られ、面はススのように真っ黒な色で染められている。

 私はその箱の美しさに、一瞬見惚れてしまったが、すぐに我に返り、まじまじと観察する。

 一体何の素材で作られているんだろう? プラスチックでもガラスでも無さそうに見えるし、汚れも黒い面に少しだけ……てあれ?

 私は箱の汚れだと思った場所に、目を凝らして見る。すると、私が汚れだと思っていた場所には、金色で何か文字のようなものが彫られてあった。

 何この文字? いや、絵?

 日本語ではなく、アルファベットとも違う。私は自分の知らない言語だと思い、スカートのポケットからスマートフォンを取り出す。

 どうかシャッター音に気づきませんように。

 私はスマートフォンをカメラモードにして、震える指で画面上の撮るボタンを押した。

 パシャっという音が校舎裏に響き渡る。あいにく私のスマートフォンにカメラの音を消す機能はついていないのだ。

「あ!」

 しまった! 気づかれた!

 明らかな機械音のせいか、異様に思った警察官と目が合った。

「おい! 何してんだ!」

 若い警察官に呼応するように、私の姿を捉えた初老の警察官がドスの聞いた声で叫ぶ。

「あ……え……ちょっと、気になってしまって……」

 私は浅い呼吸から、何とかかすれた声を絞り出す。

「早くそこから離れろ!」

「は、はい」

 私はすぐに黄色いテープに向かって走った。

「はい止まって」

 若い警察官に言われて、すぐにピタリと止まらされる。

「何していたの?」

「あ……えっと……箱が気になって」

「先生から近づかないように言われなかった? それともここの学校の子じゃないのかな?」

「あ、いえ、ここの学校のものです」

「じゃあ何でここにいるの?」

「それは……」

 警察官からの矢継ぎ早の質問に私は言い淀み、ついには目頭が熱くなってしまう。

「はぁ……」

 初老の警察官が大きくため息を吐いて「もういいよ」と呟く。

「あ、え……」

 私は肺に空気がないのか、声が出ない。

「いいから、もう二人とも教室に戻りな。せっかくの学生生活を補導なんかで無駄にすんな。それに自習中なんだろう。勉強しても良いし、何だったら寝てても良い。でもな、他人に迷惑をかける行動はするな。このおじさん達でやんちゃするのは最後だ。約束できるな」

 初老の警察官は私とすんすんと泣いているりんごちゃんを交互に見る。

 りんごちゃんは嗚咽しながら首を何度も縦に振る。私も「は、い」と掠れ声を出しながら大きく頷いた。

「よし、いけ」

 私はりんごちゃんの側に駆け寄り、りんごちゃんの左手を肩に乗せ、右手で背中を優しくさする。

 りんごちゃんの嗚咽が一層激しくなり、私に警察官の人達の方に向くよう促す。

 私はりんごちゃんを支えて、警察官の人達の方に振り向く。

「ずびばぜん」

 りんごちゃんが涙で顔中ぐしゃぐしゃにしながら鼻声で警察官の人達に謝る。二人の若い警察官は苦笑いし、初老の警察官は少しだけ声を上げて笑い、それを隠すかのように口元に手を当て「さっさと行け」と言わんばかりに、追い払うように手を振る。

 私は軽く会釈し、嗚咽するりんごちゃんの歩調に合わせながら、ゆっくりと校舎に戻った。

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りんごちゃんとミステリーボックス でぴょん @dpajent

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