第一章
白の悪魔友達計画に邪魔はつきものです
肉まんで胃袋を
まっしろなケープを着て、
だが、今の彼女に怖いものなど何もなかった。
【白の悪魔友達計画】を何としてでも成功させる為ならば、彼女は何だってできてしまうのだ。
「おっ!白のお姫さまじゃねえか!」
「!
聞き慣れた声に、真白はぱあっと表情を明るくさせた。雪華の国で一番人気のある蒸し屋さん・
蒸し屋という単語にあまり馴染みがないかもしれないが、その名の通り、蒸した料理を提供しているお店で年中雪と結晶がひらひらと舞っているこの雪華の国では、そういう料理が昔から皆に好まれ食されていた。それに、この店の蒸し料理を食べると不思議と体も心もぽかぽかしてくるのだ。
「ちょうど今蒸し上がったばかりの肉まんがあるんだがどうだ? 食っていくか? 今ならおまけで二個つけるぜ!」
「食べますの!」
間髪入れずに、真白は答える。それもその筈、真白は温屋のお肉がぎゅっと詰まったもちもちでふわふわの肉まんが大の好物だったのだ。
あまりの即答っぷりに柊はがははと笑い、ちゃんとふーふーして食べるんだぞと肉まんを三個包んでくれた。
「おじさま、いつもありがとうございますですの。…白の悪魔さんもこれなら食べてくれるかしら…」
お友達になるにはまずは胃袋を掴むところから、という話をどこかの文献で読んだことがある。あながち間違いでもないが、明らかに方向性を見失い始めている。雪華の国の白のお姫さまはほんの少しばかり、抜けているのだ。銀雪曰く、ばからしい。
「白の悪魔? ああ、あの話はやっぱり本当だったのか!愛すべき俺たちの白のお姫さまは、白の悪魔とお友達になりたいってな」
「やっぱり、ダメでしょうか…?」
「ダメなんてことあるものか!あんたは俺たちの姫さんだ。そのあんたが決めたことに口を出すつもりはねえが、そのことをあまり他の奴には言わない方がいい。反対してる奴もいるからな」
今のは聞かなかったことにしておくから早くお城へ戻んな。と、柊は真白の頭をぽんぽんと撫でて、小さく笑った。
真白が愛す雪華の国の民たちは、柊のような善人たちばかりではない。今回の白の悪魔友達計画に、異を唱える者は決して少なくはないのだ。そういうこともあり、外ではあまり迂闊な発言はするなと銀雪たちに口酸っぱく言われていたというのに。
これでは、この国を統べる王失格だ。
真白は少しだけ罰の悪そうな顔をして、柊にぺこりと頭を下げると、もらった肉まんを大事そうに抱えながら城へと戻っていった。
「はぁ……」
小さくなる真白の背を見つめながら、柊はどっと息をついた。幼い時から我が子のように真白の成長を見守り続けている身としては、今の真白が心配でたまらなかった。
何故、あんな発言をしたのだろうか。白の悪魔を嫌う者は、この国にごまんといるというのに。
「……、……。真白ちゃん」
「なんと馴れ馴れしいッ!」
「うおっ!」
真白と同じ王家の紋が入った白のケープを羽織り、汚れや傷ひとつない白の杖を片手に、ものすごーく不機嫌そうな顔をした氷織が柊の背後に立っていた。
「あ、あんた、白のお姫さまの……」
「白のお姫さまの忠実なるしもべの氷織と申します。どうぞお見知りおきを、私の白のお姫さまを誑かす悪い人」
「は?」
「ずーっと見てましたよええ!それはもう穴が開くんじゃないかと言うほどね!」
こいつはやばい奴だと、柊は直感的にそう思った。
「白のお姫さまの大好きな肉まんであの方を籠絡し、俺は貴女の味方だ~とでも言わんばかりに優しい言葉を掛け白のお姫さまを惑わせた!それだけならまあ!許せますよ!なにせ私、氷海のようにひろーい心の持ち主なので!」
「お、おう…」
「ですが、貴方は今何をしましたか? あのふわふわでまっしろい絹のような美しい髪を触り、あまつさえ!あの方の高貴すぎるお名前を口にしましたよね?しましたよね!? なんって羨ま…じゃない、無礼なッ! 不敬にも程があるのですよ!」
そんな貴方には此処で消えてもらわないと。と、氷織は白の杖を振り上げようとした。が、それは第三者の介入によって呆気なく止められたのだった。
「何してるの、氷織」
「なっ、名残兄上!?」
「……」
「ひっ!」
まさに無言の圧力。しかも、突如現れた氷織とよく似た男──名残は満面の笑みで氷織を威圧していたのだ。明らかに怒っているだろうこれは。あと何故か、地面も揺れている気がした。
「うちの片割れが申し訳ございません、柊さん。貴方の作る肉まん、僕もこの子も大好きなんです」
「えっ。おう、ありがとう…?」
「ほら氷織、ごめんなさいして。柊さんを消しちゃったら、それこそ僕たちの敬愛する白のお姫さまが泣いちゃうよ。それでもいいの?」
「うっ、ぐぐ…。それは、嫌なのですよ。…柊殿、先程の非礼をどうかお許しくださいませ」
「いや、別に気にしちゃいねえさ。白のお姫さまもあんたらのような頼もしい部下がいるなら安心だ」
ほら、肉まんでもなんでも好きなの持っていきな!と、柊は名残と氷織に両手が塞がるほど色々と持たせた。こんなにもらえませんと名残が遠慮する中、何事も無かったかのようにもぐもぐと美味しそうに肉まんを頬張る氷織に、対照的な双子だなと柊は笑った。
しろゆきのメランジェ ざらめ @zara_meto
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