センスレス小話

かえさん小説堂

センスレス小話

 とある惑星に、とても罪深い怪物が住んでおりました。その怪物の見た目の気味の悪いこと、とても言葉で表現できるものではございません。それは恐ろしく、その怪物同士で疎みあうほど醜い恰好をしておりました。


 怪物はとても傲慢で、恥知らずで、貧乏くさく、強欲で、物の使い方もまともに知らなければ、それを知ろうという意思すらも見せることはないのです。そのくせ自分の利益には目ざとく、もっともらしい虚言を吐くし、親切の「し」の字も知らないし、誰かのためと動くことだってないし、頭が悪いし、低俗だし、借りた恩は返さない、偉そうにする、など…その怪物のことを語るのに、綺麗な言葉を使う必要がないほどでした。


 ある日突然、その怪物同士が群れを作って争いを始めました。最初はほんの些細なことでしたが、その争いは、気が遠くなってしまうほどに長く続きました。怪物はとても強い力を持っており、他の種族の命を奪うのだって、いとも簡単にやってのけます。そのため、その争いではたくさんの命が散っていきました。


 怪物たちは頭が悪かったので、その争いの意味も考えないし、考えようともしませんでした。壊れた機械のごとく、目に入った生命体を抹殺していくのが、怪物たちの仕事であり、唯一、喜びを感じられることだったのです。その争いのせいで、草や木は、怪物たちの汚い血液やら内臓やらで汚されていきました。


 そんな争いのなか、ある群れを率いていたのは、たった一体の怪物でした。


 その個体は、怪物にしては頭が比較的良く、考えを巡らせるのが得意でした。そのため、怪物はその個体を崇め、自分たちを導いてくれるものとして、忠誠していました。


 頭のいい怪物は言いました。


「この争いに勝てば、私たちの惑星に平和が訪れるだろう」


 それに対して、頭の悪い怪物は言いました。


「しかし、この争いでは、多くの命が奪われています。罪のない命を散らせていって、いいのでしょうか」


 頭のいい怪物は言いました。


「その命に罪はないかもしれないが、同時に価値だってないだろう」


 頭の悪い怪物は納得して、争いの火の中に飛び込んでいきました。



 やがて争いの火は収まっていき、結局、頭のいい怪物が率いていた群れは、負けてしまいました。


 しかし、惑星には平和が訪れました。結局は、どちらが勝っても、変わらなかったのです。



 そして時は経ち、惑星も争いの記憶を忘れかけていた頃のことでした。


 怪物たちは、争いはしていません。しかし、怪物同士で疎みあっていました。


 その姿の醜さを笑い、その頭の悪さに唾を吐きました。同じ種族だというのに、です。その惑星に鏡がないのかとも、よく聞かれますが、存在しております。何度もしつこいと思いますが、怪物たちは頭が悪いのです。


 その疎みあいは、その当時からずいぶんと時間が経っているのにも関わらず、今こうして話をしている間も、続いているのだそうです。


 怪物たちのなかに、あの争いのときのような、頭のいい怪物は存在しません。


 怪物は、訳の分からない理論をもっともらしく述べて、あたかもそれがこの世の真理であるかのように、誇りを持っているそうです。その訳の分からない理論を、怪物たちの間では、正義、と呼ぶそうなのですが。


 その空虚な理論の愚かしさと言ったら、バカバカしいことこのうえありません。


 何が正しくて何が間違っているのかすらも分かっていない怪物たちに、私はこの言葉がお似合いだと思います。


「senseless」

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センスレス小話 かえさん小説堂 @kaesan-kamosirenai

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