松陰の実力者になりたくて、さらば愛しき大久保町編
七星剣 蓮
第1話
???フフフ我が名はパインシャドウ。
松陰に潜み松陰を駆る者。
薫子、陽葵、蒼、あの三人を見ていると芳裕とカロリーナ・コーネリアヘルモーズ王女のことを思い出すな。
プロローグ
◯和25年 世界大戦終結から5年。
ここは兵庫県明石市、明石鯛と明石タコの町だ。
蒼は軍の官舎で目が覚めた。
蒼の父親は軍人で先の世界大戦で殉職し、軍で潜水艦勤務している母とともに官舎で暮らしている。
彼の祖父は腕のいい漁師だったが、父は漁師を継がず、自衛軍に入隊する道を選んだ。
海上自衛軍に入ったのは船乗りの血だろうか。
蒼はもっぱら子供の頃から船には興味を示さず鉄道や自動車、地上を走る乗り物に夢中だった。
蒼も昨年秋に高校生になって半年。
高校生になったことには別に感慨はないけど中学時代からの友達がみんな同じ高校なのでそれなりに楽しい。
明石市は幸い世界大戦の被害からは免れたが、自衛軍は少なくない被害を受けて武器弾薬などもまだ充足できていない。
退役寸前のたいげい型潜水艦も現役に復帰している。
彼の母も一等海尉として潜水艦たいげいに乗り込み航海中である。
蒼は窓を開けて外を眺める。
まだ風は冷たいな。
学校に行くトロバス(トロリーバス)の出発時間までにはまだまだ時間がある。
芳裕じいちゃんとこにでも行ってみるか。
「じいちゃん!いる?」
「おう、蒼かどうした。」
「朝ごはんまだなら一緒に食べようと思って。」
「おう様子見に来てくれたのか?すまんな、ここしばらく腰の調子が悪くて漁に出られんのやわ。」
「無理するなよ、もう年なんだから。」
芳裕じいちゃんはそろそろ90歳手前だ。
蒼は手際よく魚を二人分焼き、準備をする。
芳裕じいちゃんは一升瓶持ってきて朝から酒飲むつもり満々だ。
「とっておきの「奥丹波」だ、お前も飲むか?」
「いや、それあかんやつや、僕は未成年だしこれから学校やからな。」
芳裕じいちゃんはお酒が入るとまたいつもの昔話してくれる。
なんでも若い時に明石市に外遊中のどこかの国の王女さんを助けた武勇伝なんだけどどこまで本当なのか。
なぜか王女さんの名前がカナコ王女って、目一杯日本人の名前やん。
じいちゃんの作り話感満載だけど話としては面白いから適当に相槌打ちながらいつも聴いてる。
じいちゃん、大学も行ってるらしいから小説家になったらよかったのに。
といつも思う。
そうこうしてる間にトロバスの時間が迫ってきてから。
「じいちゃん、学校行くからもう帰るな、酒飲み過ぎたらあかんで。」
「わーった」
すでに酔ってる。
トロバスの電停に着いたら幼馴染の薫子がいた。
薫子はクォーターで絹のような銀髪にエメラルドグリーンの眼、スラッと高い身長、さっき芳裕じいちゃんが言ってた外遊中の王女様というなら薫子みたいな女の子のほうがイメージピッタリやな。
などとふと考えたけど1秒で否定した。
なにせ子供の頃からずっと一緒だけど、粗暴、もとい、利発で王女らしさとはまるきり縁が無い中身だからだ。
「おはよ、ちょっと寒いけどいい天気だね、今日はトロバス日和だ。」
「今日「も」でしょ、蒼くん。」
「源(げん)さんおはよう!」
薫子が源さんに大声で呼びかける。
源さんは数少ない無軌条電車免許を持つトロリーバスの運転士さん、日本ではトロリーバスは明石市にしかない。
毎日この希少なトロリーバスに乗ることができる僕はなんと幸せ者なんだろう。
源さんが架線にトロリーポールを乗せ終わった。
トロリーバスは電車と違い、トロリー線という二本の電線から動力を得る。
だからトロリーポールは2本あるのだ。
「よう嬢ちゃん、もうちょっと待ってくれ。」
うんうん薫子慌てるな、まだ点検が必要なのだよ。
心の中で呼びかける。
声に出したら確実に即死だからな。
声に出そうになるのを我慢して口をむにゅむにゅさせる。
「点検よし、嬢ちゃん、乗っていいぜ。」
しかし、薫子は優しくない。
僕が左側の一人席の先頭に乗りたいのを知ってるくせに譲ろうともしない。
うん、これはやはり性格が悪いな。
王女様には程遠い。
仕方ないので薫子の一つ後ろの席に座る。
美しい銀髪が風になびいて、ほのかにいい匂いもする。
いかんいかん、騙されるな。
コイツは性格が悪い。
席に座ると軽快な音楽と語りが頭の中に流れ込んでくる。
今日の景色もいいな。
やっぱトロリーバス最高!
窓の外には色褪せた赤い物体が見えてくる。
20年くらい昔の松浦明石市長が作ったタコの化け物だ。
まったく、税金の無駄遣いもいいとこだな。
まあ、トロリーバスを高齢者の足と観光スポットを兼ねて導入してくれたのも松浦明石市長だからまあ許そう。
風が吹くと薫子の絹糸のように細く美しい髪が蒼の顔にかかる。
席を譲ってくれない仕返しにバレないように薫子の髪で遊んでやる。
明石市役所を過ぎると程なくして高校に着いた。
一時限目
蒼と薫子がトロバスのから降りるとクラスメイトは次々と着陸する学生無料のタクシー(自動運転乗用ドローン、スカイアークタクシー)から降りてくる。
もちろん地上を走ってくる自動車(レベル5完全自動運転車)も健在だ。
同じタイミングでリムジン自動車が入ってきた。
同じ自動車でも7メートルくらいあるのであればリムジンと呼ぶんだ。
と知識を披露してみる、心の中で。
静かに目の前で停止し、黒髪の美少女が降りてくる。
明石市が誇る川嵜重工創業家の令嬢で本来ならモブの僕が知り合えるはずもない高嶺の花だ。
「薫子、おはよう。」
「おはよ、陽葵(ひな)。」
あろうことが薫子は陽葵さんを呼び捨てにする仲だ。
信じられるかい?リアル王女様だぞ。
薫子には全く驚かされる。
「今日は何の科目を選択するの?」
高校では全体のカリキュラムが必修以外は選択式で単位が取れれば自由にその日の科目が選べるのだ。
僕?僕はもう科目は決めてある。
おばあさまが英国系で子供の頃からネイティブの薫子に英語で言い負けないだけの英語力をつけるのだ。
「今日は月面基地上空のゲートウェイ宇宙ステーションの船内活動職業体験実習にしようかな。」
「じゃあ私も〜、一緒にいこうか。」
陽葵さん、船内活動職業体験実習に行くのか、一緒に行きたい!でもモブなので我慢する。
「じゃあイプシロンステーションに空きがあるみたいだからそこで待ち合わせね。」
「うん、後でね。」
「蒼はどうするの?」
「僕は今日は語学演習にトロントに行ってくる、英語苦手だしね。」
精一杯平然と答えた。
そしてあてがわれたカプセルに入る。
もうそこはトロントの街だ、人型のアバターアンドロイドに意識を移してまるで自分の身体のように振る舞える。
飲食だけはできないけど、(アンドロイド用のエナジードリンクはあるけどあれは潤滑と清浄剤入りの燃料だからちょっと)それ以外のことはわりと普通にできる。
お金があれば各種パーツを選択して組み立てて自分そっくりのマイアンドロイドも制作できるらしいけど、モブの僕には格安の汎用アンドロイドで充分だ。
これで街中でいろんな人やアンドロイドに話しかけて英語の特訓をするのだ。
目指せ!TOEIC L&R950点。!
今日はせっかくトロント来たからみっちり午前中特訓!打倒!薫子!
連続の場合には最長6時間までアウトしなくても安全が確認されている。
一時限目が終わった頃に電話がかかってきた。
アンドロイドはできるだけ人間らしさを求めているためアンドロイドもペン型の通信端末を耳の位置に当てて通話する。
誰からだろうと思って発信者の名前を見ると、川嵜、陽葵、
「どええ!」、アンドロイドの手がスマートペンを取り落とした。
向こうに転がっていく。
慌てて拾おうとするけど、動揺してうまく掴めない。
モブの頭をフル回転させて理由をあれこれ高速思考するけど理由が見当たらない。
でも待たせると失礼だ。
意を決して息を思いっきり吸って、(吐くの忘れた)電話を取った。
「ひっひな陽葵さん?」
息を吐き忘れてうわずった声になってしまった、やっちまった。
「びっくりさせてごめんなさいね、二時限目は私もトロントに合流しようかと思って、いいかしら?」
な、何〜、陽葵さんと!一体どうなってるんだ。
「へ、え、いや薫子はどうしたの?一緒じゃなかったの?」
いつも薫子が間にいたからなんとかなってたけど。
「そうね。蒼くんとゆっくり話したことなかったし、たまにはいいかなと、トロントのおすすめの名所あったら一緒に歩きませんか?」
これは!デート、デートというやつか!
いや早まるな、ただの実習だ。
蒼の心臓がバクバク言ってる。
でも密かに憧れていた陽葵さんと二人でトロント実習できるなんてこんなチャンスは一生来ないぞ!よし。
「了解、そしたらセントローレンスマーケットでも歩いてみない?お店とかたくさんあって楽しいよ。」
精一杯平静を装って返事してみた。
「わかりましたわ、今からカプセルにもう一回乗り込みますので座標を送ってくださいな。」
うわー、令嬢の陽葵さんを連れていくのにセントローレンスマーケットって庶民すぎないか?やっちまったー、えい、仕方ない。
座標を送る。
15分ほどすると自動車(レベル5自動運転車)が近づき静かに止まった。
自動ドアが開いて降りてきたのは。
あ、ほぼ陽葵さんだ。
それは川嵜重工精密機器・ロボットカンパニー製の最新鋭KR43Z型アンドロイドだ。
首にうっすらと線が浮かぶのと頭の上の髪留め型の測位アンテナを除けば本人と見分けがつかないほどの出来栄えだ。
一体100億円は下らないという逸品。
陽葵さんはいわゆる巨乳、もとい、ふくよかな胸なんだけどそこまで忠実に、おそらくスリーサイズも!制作されている。
僕は自分の安いレンタルアンドロイドが恥ずかしくなった。
まるでブリキの人形のように見えてしまう。
「お待たせしてごめんなさいね、ちょうど私の置きアンドロイドがトロント郊外の川嵜重工トロント支店にあったのでそこから自動車飛ばしてもらいましたの。」
「すごく綺麗です、陽葵さん。」
モブの僕とは思えないセリフを思わず吐いた。
そのくらいの感動だったから。
「そしたら陽葵さん、行きましょうか、こういうマーケットもたまには楽しいですよ、僕がエスコートします。」
「まずは食事はいかがですか?素敵な場所を知ってます。」
「まあ、蒼くん英語苦手とおっしゃってましたけどネイティブと遜色ありませんわよ、そうね、よく見たらエネルギー残量2割切ってるわ、エナジードリンク飲みに行きましょうか。」
陽奈さんアンドロイドがにっこり笑う。
蒼はドキドキした。
これは100億円パワーなのか、それとも。
それから一緒にエナジードリンクを飲んで燃料補給しながら、
「蒼さん、私の置きアンドロイドのお洋服が少し流行遅れになってますの、お洋服買うのに付き合ってもらえませんか?」
もちろん二つ返事でOKする。
街で一番高級そうなブティックに一緒に入り、服を選ぶ。
オーナーに事情を話してしばらく貸切にしてもらった。
日本を代表する川嵜重工のネームバリューはトロントでも通っている。
そのご令嬢だからね。
それにしても人間そっくりの陽葵アンドロイドとブリキの人形のような従者、かなりシュールな絵面になっていることだろうな、まあ、モブの本懐と言えるかもしれないが。
それよりも、
蒼は平静を保ってはいるが、カプセル内の蒼は目が血走っていた。
なにせ100億円アンドロイド陽葵は試着のための脱衣を蒼の目の前で平気でするのだ。
蒼がブリキの人形なので全く羞恥心が起きないのか、自分がほぼ全裸だという意識がないのか、小柄でスタイルも良く巨乳、首筋の線と頭の髪飾り型測位アンテナ以外は人間と寸分違わぬ出来具合なのだ。
生身の陽葵さんではないのは頭では理解しているが、これは至福、もとい、精神の安定が保てない。
小一時間かけて洋服が決まり、やっと服を着てくれる。
「蒼さん、どう?似合うかしら。」
「綺麗です!良く似合ってますよ陽葵さん!」
ブリキの蒼は心底感じたことをそのまま言葉にした。
そのあと小物のショッピングしたりトラムに乗ったり、陽葵アンドロイドさんとデート?デートだよな、した。
美しく魅惑的なKR432型アンドロイド陽葵さんの全裸、巨乳とスラリと伸びた脚が頭に焼きついて離れなかった。
お昼休み。
薫子と学食で待ち合わせした。
学食に入ると薫子が銀髪をゆらせて飛んできて、いきなり僕の頭に抱きついてきた。
「蒼〜おかえり〜!」
薫子の柔らかい胸と腕の間にぎゅうぎゅうサンドイッチされる!
いつもは悪いこととは思いながら柔らかい胸の感触を無関心なフリしてだんだけど、今日は陽葵さん見てるからアカーン。
「薫子!胸!胸が〜」
なんとか逃げようとするけどがっちり頭を腕でロックされている。
「なによ〜胸は陽葵のほうが大きいでしょう?〜悪かったわね、小さくて。」
といっていつものように僕の頭をグリグリする。
薫子の軽口でまた100億円アンドロイド陽葵さんの全裸と巨乳を思い出す。
本人を前にして背徳感ハンパない。
陽葵さんは顔が真っ赤にして叫ぶ。
「薫子!なんてこと言うのよ!」
薫子はまったく悪びれてない。
「Cut it out!」
つい英語が出てしまった。
これはトロント実習の成果か、そういうことでいいのか。
その後、薫子を交えてトロントの話を英語でした。
薫子はクォーターで英語はネイティブだけど僕ははちゃんとついていってる、と思とこ。
二人はトラムとかの乗り物の話ばっかりだったので顔は笑ってたけど多少うんざり感が滲み出てたけど。
僕は昼休みが終わりそうになったタイミングでありったけの勇気を振り絞って声にした。
「陽葵さん、今度川嵜車両の工場見学させてもらえないかな?一緒に行けたら。」
「お父様は川嵜重工精密機器・ロボットカンパニープレジデントだから部署は違いますけど叔父様が川嵜重工航空宇宙システムカンパニープレジデントなさってますからお願いしてみますわ。川嵜車両はそこの担当ですから。」
「やった!嬉しい!よろしくお願いします。」
これはデートの約束ということでいいのかな!
陽葵さんが、
「薫子も一緒にどうかしら?」
と言ったけど
「私は遠慮しとくわ、蒼をよろしくね。」
と薫子は断った。
薫子の銀髪が少し風になびいた。
電話をしていた陽葵が振り返る。
「蒼くん、明後日の10時から大丈夫ですわ、9時半頃に自動車で迎えに行きますわね。
その日は夜に停電騒ぎがあったけど、総じていい日だった!
明後日が楽しみ!
********
陰の声
ほう、3億回目にしてやっと明石市壊滅ルートを回避したか、このまま先へ進めるといいがな。芳裕も達者なようで何よりや。
********
明後日朝
蒼は朝から呆然としていた。
昨日までは期待にワクワクしていたのだが、今朝になってモブの僕が一体なんてことしでかしたんだとなんと恥ずかしいセリフを言ってしまったんだという後悔が頭を横切り黒歴史認定が確定した。
今から断って
いやそんなことできない、陽葵さんがわざわざ叔父さんに頼み込んでくれたのだ。
川嵜車輌工場見学できるこの上もない幸福感とまだらになってどうにかなりそうだった。
蒼は腕立て伏せを始めた。
子供の頃は海兵隊のお父さんに憧れて身体を鍛えてたしトレーニングすると気持ちも落ち着く。お父さんが亡くなってからもそれは続けてきた。
サーキットトレーニングが終わったら実践的な制圧術、ナイフ術、組み手、
拳銃こそ持たないものの、モデルガンによる拳銃取扱も抑えてある。
海軍の明石地方連絡所からよく勧誘にも来るが、蒼は軍に入るつもりはない。
そのあと身体の血管の配置を頭に入れ戦闘外傷の応急方や救命法も復習した。
なんか、それでやっと落ち着いた。
ええい、なんとかなるやろ。
官舎のシャワー室で汗を流す。
もうすぐ9時だな。
突然スマートペンが鳴った。
発信者は。
薫子・エバンス、
電話を取ると元気な薫子の声が響いた。
蒼はスマートペンを10センチ離した。
「今日あたしも一緒に行くことにしたからー、もう陽葵の自動車乗ったから後でねー」
なんだよ。
蒼はほっとした、薫子が来てくれるなら余計な心配して損した。
この2時間はなんだったんだ。
あとは9時半を待つだけだ。
*
*
9時半だな。
薫子がまた余計なことしたかな。
*
10時、流石に遅い、薫子に電話してみよ。
スマートペン表示では電波も通信ビームも届かないことになってる。
陽奈さんにも、
同様である、これは明らかにおかしい。
停電もない。
蒼は官舎の部屋を飛び出した。
官舎の中が何か様子がおかしい。
隣室の大尉さんに話を聞いても要領を得ない。
その時スマートペンが鳴った。
僕はひったくるように取り上げ電話に出る。
「蒼か!ワシじゃ」
「なんだじいちゃんか、今ちょっと取り込んでて。」
「いいから今すぐ来い!今すぐにだ!」
じいちゃん、聞いたこともないような怖い声で怒鳴った。
これはただ事ではない、と直感しじいちゃん家に走っていく。
「蒼来たか、こっち来て手伝え!」
「じいちゃん、説明してよ、こっちも緊急事態なんだよ。」
「カナコさんのお孫さんが誘拐されたんじゃ。」
「じいちゃんだから誰それ。」
「いつも話しとるカナコさんじゃ、王女の」
「だから誰?」
「薫子ちゃんのお母さんのお母さんじゃ」
蒼は頭が真っ白になった。どゆこと?
「川嵜の専属の源(みなもと)から連絡があったんじゃ、海岸線で突然銃撃されたとな。」
「あの車は厚さ55ミリの鋼鉄で窓ガラスも70ミリの防弾ガラスが入ってる。」
「タイヤも銃撃されてもパンクせず走り去ることができるから嬢ちゃんたちは安全じゃろ。」
「途中まで源のアバターアンドロイドで手動運転に切り替えて逃げたのじゃが途中で通信が切断されてしもたんじゃ。」
「ほれ、手伝え。」
「スカイアークタクシーのエナジーフィラーをこいつに付け替える。」
「これは?」
「鉄郎じゃよ。」
リュックのような形状のそれには「川嵜重工」と古いエンブレムが付いている。
「鉄郎って」
「めんどくさいやつじゃな、ワシの時代にはアイアンマンと言われてたやつじゃ、ほれ!」
背負わさせるとリュックから黄金の外骨格が現れてたちまち蒼の全身を包み込む。
じいちゃんのリュックからは銀色に輝く外骨格が現れた。
「相手は地上を走るクルマじゃ、そう遠くにはいっておらん。」
「飛ぶぞ!蒼!」
「飛ぶって?ひょえええいいいい」
あっという間に二体のアイアンマン、もとい川嵜重工鉄郎アーマーは一瞬に明石海峡大橋よりも高く舞い上がった。
「この鉄郎は直感的に操作できる、自分の身体のつもりで動かせばその通り動くわい」
「ジェットはどうすんだよー、人はジェット出さないよ。」
「そんなもん屁でも出すつもりでええやろ、屁でもないわ。」
「あ、屁が出た。」
だいぶ慣れてきたぞ、飛べる以外はトロントのアバターアンドロイドと同じやな。
ただし飛行酔いするけど。
探知範囲を少しずつ広げる。
リムジンの発信電波は妨害されてるか、
あとはうちの量子マイコンがあれば移動の最適解を計算できるけど持ってきてないしなあ、一度帰るか。
じいちゃんが叫ぶ。
「おーい、松浦ぁ、観察してんたろ、手伝え。」
「誰に呼びかけてるの?」
「陰の実力者さ、」
****
オイオイ、相変わらず芳裕は好き勝手言いやがる。オレが手を貸したらまずいだろ。
まあ、量子マイクロコンピュータでできるくらいの計算だ。
値だけ流してやるか。
****
「キタキタ、松浦のやつ気前いいじゃねえか、E135.00っておい、天文科学館か。
「おい蒼!今すぐ向かうぞ。」
上空に飛び上がった瞬間
戦闘ドローンに取り囲まれる。
「そこの二体の鉄郎アーマー、航空宇宙法のリモートID未発信の現行犯で捕縛する。直ちに着陸しなさい。さもなくば撃墜する。」
「やべえ、この鉄郎はプロトタイプでリモートID発信機能つけてないんや、わしらは怪しいもんじゃねぇ。」
「僕は平蒼、こちらは祖父の平芳裕です。、海軍の潜水艦はくげいの乗組員平翔子の息子です。照会お願いします。」
「わかった、どちらにしても地上に降りるんだ、ゆっくりとな。」
「蒼、降りるぞ。」
「うんわかった。」
地上に降り立ったその時、
「お前たちには、川嵜陽葵さんと、カロリーナオルガ・コーネリアヘルモーズ王女殿下誘拐容疑がかけられている、直ちに鉄朗を解除し、投降せよ。」
「なんだって!誘拐?何かの間違いだ。二人とも僕の友人なんだ。」
「お前は川嵜陽葵をたぶらかし、国家機密である川嵜重工車輌とコーネリアヘルモーズ大公国の軍需企業DKWとの共同開発した新兵器に探りをいれたろう。
今日川嵜車輌に潜り込む予定だったことは調べがついてるんだ、観念しろ。」
なんでそんなことに。
蒼はあまりのことに動転して腸がぐるぐる言い、オナラを我慢できなくなった。
プ、 ゴオオオオ〜
突然ブースターに点火し、一気に成層圏まで飛び上がる。
「あ、あの馬鹿野郎」
芳裕じいちゃんも後を追って急上昇する。
「誘拐容疑者逃亡!撃墜してもかまわん、ハイマース、サルボー!
二体の鉄郎は成層圏で合流する。
「じいちゃんごめん、どうしよう。」
「こうなったら仕方ねえ、二人で嬢ちゃんたちを助けて誤解を解くしかねえ。」
「 とりあえず座標に向かうんだ。」
****
時を遡ること2時間前
「陽葵ちゃん、急に参加してごめんね、蒼にはいま電話しといたよ。」
「ううん、薫子が来てくれて嬉しい。」
陽葵は本気でそう思っていた。
蒼くんはいい人だけどそれだけ。
実はトロントで2時間はちょっときつかったんだ。
乗り物好きなのは知ってたけどそればっかりっていうのもちょっとね。
「ねえ陽葵、蒼のことどう思ってるの?」
「別に、普通のおともだちですよ。」
「そ、そうよね。」
薫子は急に機嫌が良くなった。
やっぱり薫子は蒼くんが好きなのかな?
ちょっと意地悪したくなっちゃう。
その刹那、
ドンドンドン! すごい衝撃、自動車に何かがぶつかってる。
「源さん、どうなってるの!」
「わからねえ、銃撃されてる、でも心配すんな、このリムジンは防弾仕様だ、窓ガラスも70ミリあるんだ、破りたければ迫撃砲でももってこいってんだ。」
「嬢ちゃん、自動運転解除して俺っちに操縦させてくれ、これでも70年タクシー運転やってんだ、任せとけ。」
源さん、別人みたい。
リムジンはルートを外れてジグザグに弾丸を避けながらスピードを上げる。
二号線を途中で直角に曲がって明石天文科学館を通り過ぎて運転免許試験場まで抜け道しようとしたその時、突然源さんとの通信が途絶えた、何者かがジャミングを行ったようだ、リムジンは二系統ルートを確保していたがその両方やられた。
ちょっと、セバスチャンも電話が繋がらない、一体どうなってるの?
陽葵がヒステリックに叫ぶ。
「陽葵、大丈夫、大丈夫だから。」
薫子は陽葵を抱きしめる。
止まったリムジンを暴漢が取り囲む。
リムジンは丈夫だけど大人数でかかられたらこじ開けられるのも時間の問題だろう。
蒼、蒼助けて。薫子は思わず目を閉じた。
ズガーン!
すごい衝撃音とともにリムジンの外に金色と銀色の怪物が現れた。
「ヒイ!」薫子がそれを見て悲鳴を上げる。
「あれはうちの、川嵜重工のプロトタイプ鉄郎ですわ!助けが来ましたわ。」
陽葵はさすがによく知っている。
蒼と芳裕は賊を片端から薙ぎ倒していく。 20ミリ機関砲の弾も余裕で弾き飛ばしている。
機関砲は芳裕に捻じ曲げられた、
「引け!引けー」
賊の親玉が撤退を命じる。
もちろんこちらには追う余裕はない。
ドアを開けようとしたが、中からももう開かないらしい。
黄金の鉄郎がドアの隙間に手をかけ、紙でも破るようにドアを引き剥がした。
鉄郎アーマーを解除すると薫子が泣きながら蒼の胸に飛び込んでくる。
「蒼〜蒼ーほんとに怖かったよー。」
蒼はこんなに弱々しい薫子を初めて見た。
可愛い、と思った。
程なくして治安部隊がやってきた。
「オホン、蒼くん、もういいかな、君には王女殿下誘拐の嫌疑がかかっていたのだが、どうやら間違いのようだ。あとはこちらに任せてくれないかね。」
「ところで隊長さん、王女って?」
「そこにおわす薫子さまこと、カロリーナオルガ・コーネリアヘルモーズ王女殿下のことです。」
「て、この薫子が王女殿下・・」」
「え、ええええええ〜!!」
薫子は自分の顔を指差し、蒼の10倍の大声を上げた。
結局のところこういうことらしい。
およそ60年前、コーネリアヘルモーズ大公国の当時王女だった薫子のおばあちゃんは川嵜重工と大公国の自動馬メーカーとの提携で車輪に頼らない移動機械の開発を行っていたと。
もともと人類は自動車を開発するにあたり、初めは馬を忠実に再現した機械馬を作ろうと研究を重ねたが失敗、馬の足に拘らず四つのタイヤをつけることでよりシンプルな構造で自動車を作ることに成功した。
しかし大公国は天才的な技術者の出現により、当初の設計思想通り機械馬の実用化に成功、60年前には4本足ではなくもう2本増やして6本足の機械馬にすることで安定して速度をあげることができるようになった。
タイヤでは走破できない山道や獣道、瓦礫の散乱する戦場や災害現場などを自由に高速で移動できる6本足馬(スレイブニル)の実用化は世界に革命を起こすはずだった。
カロリーナ王女は外遊で明石原人見学と称して明石市の川嵜重工とコンタクトをとる役割を負っていた。
その時にも大公国の反体制派が、当時のカロリーナ王女誘拐と殺害を企てたところを大学生だった芳裕じいちゃんに助けられたということらしい。
その時も誘拐犯の疑いをかけられたらしい。
歴史は繰り返される、いや、単なる巻き込まれ体質なのかも。
その時王女の近衛兵は新開発のスレイブニル騎士団を組み、反体制派と戦ったわけだ。
大久保町で騎士団が出現したというのは都市伝説ではなく本当のことだったのだ。
結局大公国はクーデターにより転覆し、カロリーナ王女は明石に技術者と共に亡命した。
そしてその技術者とカロリーナ王女の娘が薫子のお母さんなのだ。
今回川嵜車輌で僕が見学することになってた新開発されたものは8本足のスレイブニル。その名も「オーディン」
地震や津波などの災害現場でクルマの入れない場所へ人や重量のある荷物を高速で運ぶことができる。
まさに新兵器。
薫子のお母さんは川嵜車輌に機械馬の技術者、研究員として働き、AI松浦明石市長の補佐官である薫子のお父さんと出会い、薫子が生まれたのだ。
先日旧大公国ではまた政変が起こり、カロリーナ太皇后を王に復帰刺さることが決まり、薫子が王女の地位につくことになった。
芳裕じいちゃんはカロリーナ王女とは結ばれなかったけどずっと好きだったらしい。
僕は薫子のこと、まだわからないや。
あ、もうカロリーナオルガ・コーネリアヘルモーズ王女だっけ。
ところでカナコ王女って?
「僕の名前は芳裕、平芳裕、君の名は?」
「わたしは、カロリーナ・コーネリアヘルモーズ」
「え、と、カロ、ナ、コーネリ、長い名前は覚えられないな、そうだ、カナコ、カナコ王女にしよう」
そういうことらしい。なんともまあ芳裕じいちゃんらしい。
ん?
カロ、オルガ、コーネリア、
カ、オ、ル、コ。
「蒼〜!」薫子、もとい、カロリーナオルガ王女殿下がすごい勢いで突進してくるー。
全力で僕の頭に抱きつきグリグリしてくる、柔らかい胸が、いかーん。すごい人数がいるんだぞ!
「Cut it out!」
********
シミュレーション3億回目にしてやっと形になったか、しかし何億回明石市破壊したかわからんな。
我が名はパインシャドウ、松陰に潜み松陰を駆る者。
昔のアニメ好き松浦元市長の意識の影響の残るAI松浦市長はより良き明石市を作り上げるため今日も1秒間に10万回の市民生活シュミレーションを繰り返す。
80歳になった生身のほうの松浦元市長は今日も元気に明石市大久保町松陰で暮らしている。
最近のアニメは多過ぎて全部は見れんな、、、なんと今はスマートペンでも見れるのか。
終わり。
あとがき
逢沢大介先生の陰の実力者になりたくて。
最高です。応援してます。
田中哲弥先生のさらば愛しいき大久保町も是非読んでくださいね。
芳裕とカナコ王女も登場します。
松陰の実力者になりたくて、さらば愛しき大久保町編 七星剣 蓮 @dai-tremdmaster
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