パレット

オールマイワード

遠く、遠く彼方を見た。夜明け間もない美しい自然光の青は、小学生の自分が持っていたパレットにもあった色だ。とにかく昔から、ずっと人々の目に映り続けてきた色だ。

深く緑の匂いを吸い込む。

その真下、光の染み込んだ畑は青々と息を返す。きっとこれも古くからある色なんだろう。視界いっぱいにそれを目に映すと、自然とつま先が上向き、緑の方へ向かおうとしているようだ。

自ずと、畑の土に踏み込んだ。

周りを見渡しても誰も居ない。

よし、少しくらいなら良いだろう、と私は膝を地につけて青菜に触れた。

暖かいような、しかしそれ自身の熱はどこにもない。さらさらとする部分も、滑りにくい部分もある。葉の先端の方は黄色く、これから剥がれ落ちていくはずのそれは、既に僅かに反れている。

私は親指と人差し指とでそれを挟み込み、少しく撫でてから、この色の変わった、死んだような部分だけやぶってしまおうかと思い至ったが、しかしやめた。

ふいに吐く息が震えた。しかし、何故かは分からない。

私は再び立ち上がった。膝の土を払う。膝に触れていた地面は温かかった。何か忘れているような気がした。何も思い出せないだろうとも思った。

煌めくように、視界が色で染まった。足がふらつく。やたらに懐かしいような思いだけが押し寄せ、私は立ち止まってはおられず、元の道へ一歩だけ歩み出した。

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