第2話 あれ、UFOじゃね?

 ──あと15分。



 俺は今人生最大の危機に直面している。



 止まるな、考えろ。

 ペンを動かし続けろ。



 教室にはペン先を走らせる音だけが聞こえる。



 目の前には俺の明晰な頭脳を持ってしても理解不能な計算式が羅列している。



 思わず目が眩みそうになる。

 額からはじわりと汗が滲み出す。



 このテストで赤点を取る訳にはいかない。



 何故なら赤点を取れば、高校生にとって一生に数回しかない貴重な大青春イベントである夏休みをまるまる潰して補習授業という監獄に強制送還されるからだ。



 考えろ、考えるんだ俺よ。

 思考を放棄してはならない。

 人間は考える事ができる動物だ。

 そうして生態系の頂点へと登りつめたのだ。



 ソクラテスだかアリストテレスだかがなんかそんな感じの名言を残してるだろう、きっと。覚えてないけど。



 ふっ、俺は哲学も得意だからな。



 ──あと10分。



 だがさすがの俺も時を止める事は出来ない。



 思考の波に飲まれ方角を見失っている間に時は無情にも過ぎていく。



 時間は有限だ。タイムイズマネー。時は金なり。



 そういや明日バイト代入る日だ。

 欲しかったゲーム買おうかな。漫画も買いたい。



 はー、今月も頑張ったな俺。よく頑張った。



 店長結構人使い荒いから大変なんだよな、あのカラオケ屋。



 そういやこの前山猿女子がクラスの女子達とカラオケに来てたな。



 ちょうど接客になったのは初めてだったけど。



 あいつ背でかいし声もでかいから目立つんだよな。



 でも飲み物出しに行った時に思ったけど、歌はうまかったな。あれは意外だった。



 ──あと5分。



 あいつもしおらしくしてれば見た目は悪くないんだから男だって寄ってきそうなのに。



 中身があれじゃあな。



 男子蹴り飛ばしてるからな。やべぇよ、まじ山猿。



 ていうか今更だけど小学校から高校まで同じクラスどんだけ続くんだよ。



 あいつクラスの女子のドンみたいなもんだから俺が同じクラスに好きな女子出来ても迂闊に接近を試みることも出来ねぇ。



 だって、セミの事とか昔からの事も全部知られてるし。



 いつの間にか思考は山猿女子へと移り顔も無意識にそちらへと向いていた。



 確かあいつも赤点ギリギリ攻めてるやつじゃなかったっけ?



 やべぇな赤点取ったら夏休みまであいつと一緒かよ。

 それだけは避けねば。



 俺はようやく目の前のテスト用紙へ意識を戻したが…



 「そこまでー」



 その瞬間俺の夏休みは終わりを告げた。



 山猿女子も机に顔を伏せていた。



 ふと窓の外を見やるとこんな真昼間の青空に流れ星を見た気がする。



 幻覚か…。



 せめてあいつが良い点を取っていますように。

 


 3回心の中で呟き、気づいた。



 もしかして、あれってUFO?

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俺の退屈な日々の記録 結紀ユウリ @on_yuuki00

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