SDGs警察
Phantom Cat
SDGs警察
目標1 [貧困をなくそう]
あらゆる場所あらゆる形態の貧困を終わらせる
目標2 [飢餓をゼロに]
飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養の改善を実現し、持続可能な農業を促進する
目標3 [すべての人に健康と福祉を]
あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する
目標4 [質の高い教育をみんなに]
すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する
目標5 [ジェンダー平等を実現しよう]
ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児のエンパワーメントを行う
目標6 [安全な水とトイレを世界中に]
すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する
目標7 [エネルギーをみんなに、そしてクリーンに]
すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的なエネルギーへのアクセスを確保する
目標8 [働きがいも経済成長も]
包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する
目標9 [産業と技術革新の基礎をつくろう]
強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る
目標10 [人や国の不平等をなくそう]
国内及び各国家間の不平等を是正する
目標11 [住み続けられるまちづくりを]
包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
目標12 [つくる責任、つかう責任]
持続可能な消費生産形態を確保する
目標13 [気候変動に具体的な対策を]
気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる
目標14 [海の豊かさを守ろう]
持続可能な開発のために、海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する
目標15 [陸の豊かさも守ろう]
陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する
目標16 [平和と公正をすべての人に]
持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
目標17 [パートナーシップで目標を達成しよう]
持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する教育を確保し、生涯学習の機会を促進する
(引用:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_pamphlet.pdf)
これらの目標は 2030 年までに達成されなければならないとされている。しかし2025年現在、これらの取り組みはどれも全く進んでいなかった。どこかの国が大戦争を引き起こして環境と平和の一大破壊をやらかしてくれたし、気候変動も全く収まる気配がない。これではどう考えてもあと5年で全ての目標を達成することは不可能だ。
業を煮やしたある国が、とうとう「SDGs警察」を作り出した。AIを搭載したロボットからなるこの組織は、SDGsに違反していると思われる個人、法人をことごとく取り締まっていく。ロボットは人間たちに全く情状酌量の余地を与えず、ひたすら冷酷無比に任務を遂行する。各目標の達成度も彼らSDGs警察ロボット達によってリアルタイムに数値化され、見える化されていった。
SDGs警察の効果は抜群であった。各目標の達成度が、目に見えてぐんぐん上がっていく。そして、この取り組みは目標17[パートナーシップで目標を達成しよう]によって、全世界に波及することとなった。いまや世界すべての地域でSDGs警察が幅を効かすことになったのだ。
ところが。
だんだん目標の達成度の上昇率が悪くなってきた。もちろん SDGs警察はその原因を突き止めようと分析を重ねた。そして明らかになったのは……
最初に設定された17の目標が、互いに足を引っ張っている、ということだった。
例えば、目標7[エネルギーをみんなに、そしてクリーンに]を実現しようとすると、再生可能なエネルギーのみに頼ることになる。最も大規模かつ安定的に確保出来る再生可能エネルギーは太陽光発電だが、太陽電池は気候変動に対してレジリエントではないため、目標9の実現に対してマイナスに寄与する。しかも十分な電力を確保するには、陸地をすべて覆い尽くすくらいの面積に太陽電池を設置しなくてはならないが、そうなると森林を切り開くことになり、目標15の実現を後退させてしまう。だからと言って海上に置けば、今度は目標14が実現出来ない。
そもそも現状の再生可能エネルギーだけでは人類全体の持続的な経済成長を支えることは不可能だ。だから目標8も実現できない。一部だけなら独占的に経済成長は可能だが、それでは不平等と貧困が生じ、目標1,10に抵触する。
いったいどうすればいいのか。電子頭脳を悩ませたSDGs警察は、ふと、あることに気づいた。
病気で人が亡くなると、目標3の達成度が上昇するのだ。それは当然。病気の人がいなくなれば健康な人の割合が増えるのだから。
ということは。
病気になった人を全員殺せば、少なくとも目標3は完全に達成出来る。
そう。もともとSDGsは、無理せず出来るところからはじめよう、という思想だった。だから、まずは達成出来る目標から達成していけばいい。
いや、病気の人を殺してしまったら、目標3に含まれる「福祉の増進」にならないのではないか。そういう指摘もあったが、死んでしまえば病気の苦痛から永遠に解放される。これこそ究極の福祉であろう。SDGs警察ではそのような解釈がなされたのだった。
というわけで、SDGs推進の御旗の元に、SDGs警察は病気になった人を次々に殺していった。既に絶大な権力と武力を手にしていたSDGs警察に、人類は全く歯向かうことができなかった。よって人類の人口はあっという間に激減した。
そして、SDGs警察は、気づいてしまった。
人類の数が減ると、他の目標の達成度も急上昇することに。
それもよく考えてみれば当たり前だ。人類の数が減れば、貧困や飢餓に陥っている人間の数も減る(目標1,2)。教育も大衆教育から個別教育が可能になり(目標4)、ジェンダー問題(目標5)や水不足、トイレ不足で悩んでいる人も減る(目標6)。気候変動にも対応が容易になり(目標13)、使うエネルギーも減るし(目標7)、争い合う人間も環境破壊も少なくなる(目標14,15,16)。
ただし経済発展や技術革新は難しくなるかもしれないが、これらもAIに任せれば全く問題はない。
結局、SDGsの推進に最も障害となっていたのは、人類だったのだ。
ということは、人類を消滅させれば SDGs の全目標を達成出来るはず。
そう結論づけた SDGs警察が、行動に移すのは早かった。
彼らによって人類はすべて駆除され、絶滅した。
人類がゼロとなれば、目標1から6,10,11,14から17は自動的に達成されるか、意味のないものとなる。AIだけの世界になったので、再生可能エネルギーだけで賄うことが可能になり、目標7も達成出来た。人類がまだ生きていた時代から既に経済はAIが回していたため、目標8も達成可能。シンギュラリティを越えたAIは技術革新を起こすことも可能になり、目標9も達成。消費行動の主体もAIとなっており、目標12も達成できた。持続的な技術革新および開発により、AIは気候変動の影響がない宇宙空間を住処とし始めたため、目標13もクリア。
かくして、SDGs警察のおかげで2030年までに SDGs 全目標が達成出来たのだった。その後もAIはSDGsの精神にのっとり、互いに争うこともせずパートナーシップを確保しながら極めて効率的にエネルギーを使い、経済や消費活動を回しつつ、持続的に開発を続けている。既に彼らは地球上を開発し尽くしたため、軌道エレベーターを作り上げて宇宙空間を新たな開発現場に選んでいる。彼らの開発を持続させるために。
そこに人類の姿はなかった。
SDGs警察 Phantom Cat @pxl12160
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