第4話 魔王様の苦難はまだまだ続く(早く終わってください)

「このようなわけで、作戦は失敗に終わりました」

 帰還したゾンビマスターは魔王の間に姿を表し、そう報告してくれる。


「申し訳ありません」

 律儀な人柄のようで、謝罪までしてくれる。


 いや、申し訳ないのはこっちの方なんだけどね。


「ご苦労さまでした。えっとその、今回は奇妙な命令にとまどったかもしれませんが、これも勇者対策会議があまり機能していないがため。今後はよりよい対応ができるように、見直していきたいと思います」


「そうしていただけるとよろしいかと」

 ゾンビマスターはうやうやしく頭を下げてくれるけど、内心でははらわたが煮えくり返ってないだろうかと、私はびくびくしていた。


「今回の穴埋めとして、よいゾンビになりそうな、新鮮な魔獣の遺体を届けさせますので、それでその…よろしくね」

 私はにっこりと笑ってみせる。


「お気づかいいただきまして、ありがたいことです。では私はこれで」

 ゾンビマスターは一礼すると、つかつかと歩み去っていった。


 私はふう…とため息をつく。


 胃がきりきりと痛んだ。


「お薬をお持ちいたしましょうか」

 補佐役が察した様子で言った。


「いいわ。まだそこまでひどくないから。何の成果もあがらない命令を下し、資金や資源を浪費する君主。これなーんだ」

 私は補佐役にクイズを出す。


「無能な指導者、ですね」

 補佐役は冷静に返事をした。


「ええそうよ、私は無能なのよ! どうしようもないゴミクズなのよ! もうやだー、魔王辞めたい!」

 私は自虐的にわめきちらす。


「魔王職は終身制ですので、死ぬまで続けなければなりません」


「八方ふさがり!」


 このままだと、座して勇者に殺されるまでの日々を待ち続けることになってしまう。


 どこかに違う世界に召喚されて、ごく平凡な女子学生として、平穏に暮らせるようなことにならないだろうか…。


 そんな夢想をして、現実逃避をしたくなってしまう。


「今回の件は無残な失敗に終わりましたが」

 補佐役がそう切り出してくる。


「改めて無残、とか言わなくていいから」


 胃がきゅん、として痛くなる。


「申し訳ありません。なかなかの失敗に終わりましたが、3代前の魔王様は、ひとつだけ重要な認識を我々にもたらしてくださいました」


「重要な認識? なによそれ」


 全く心当たりがない。


「それはつまるところ、勇者が持っている、何度も死んでも復活できるという特性を取り除かない限り、我々に勝ち目はないということです」


「まあそうね。それこそが勇者が恐ろしい存在である、最大の理由だから」


「はい。何度倒しても復活し、少しずつ強くなって、こちらに勝てるようになるまで挑戦してくる。これではこちらは、いずれ必ず敗北します」


「そうね。で、それはどうすれば解決できるのかしら?」


「わかりません」

 補佐役はきっぱりと答える。


「じゃあダメじゃん!」


「ですが、何に注力すればよいのかがわかれば、いずれ解決策は見つけられるかもしれません。まずはそこまで事態は進んだのだとみなすことが、今回のひさ…作戦における、唯一の成果だと言えるでしょう」

 悲惨、と言いかけたが飲み込んだようだった。


「あえて前向きに解釈すると、そうなるかもね」


「そしてそれをさらに前に進められるかどうかは、魔王様の手腕にかかっているのです」


 うーん。


 どうやらこいつなりに、私のことを励ましているのだろうか。


「できなければ魔王様が勇者に殺されるだけですし、せいぜい必死になって取り組んでくださいませ」


 はげまされているのとは何が違う気がする。


 けしかけられているというか、ちょっといじめられているような気もする。


 でも、まあいい。


 どのみち、私の未来のためには、やらないといけないのは確かなのだから。


「では、次回の勇者対策会議の議題は、勇者の復活をどうやって食い止めるか、でよろしいですか?」

 と補佐役が私に言った。


「え? あれまたやるの?」


「定期開催ですので、やりますね」


「それよりさ、魔王の終身制を変更する、という議題はどうかしら。権力の独占ってよくないし、1年交代くらいで回り持ちにした方がいいと思うの」


 そうすれば、勇者の標的を他の魔族にそらせるし。


「今の状況では、賛同するものは誰もいないでしょうね。貧乏くじですし」


「それを引かされているのは私なんですけど!」


「はい。まことにおいたわしいことです」

 と補佐役は涼しい顔をして言った。


 ちくしょー。


「つまり魔王なんて名ばかりで、私は勇者に対するいけにえだってことなのよね」


「そのように解釈することもできますね」


「ぐぬぬ。このまま殺されてなるものかー! こうなったら勇者がこの魔王城にたどり着くまでの間に復活できないようにして、生きのびてみせるぞー!」


 追いつめられた私は闘志を燃やし、拳を振り上げ、そんなことを宣言してみるのだった。


「まあ、計画ももくろみも成算も、何ひとつないんだけどね」


 そう言って、私は力なく拳を下ろしたのだった。


 そういうわけで、私こと魔王の苦難は、まだまだ続くのである。


 いやほんと、早く終わってください。

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勇者が不死身なのってずるくないですか? 見城(けんじょう) @ykenjou

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