第3話 ゾンビマスターVS勇者(なお作戦は…)

「では、これよりゾンビマスターによる勇者討伐の模様を中継させていただきます。魔王様、ご覧になられていますでしょうか」


「ええ、よく見えているわ」

 私はそう、水晶球に向かって返事をする。


 私の前には大きな水晶球が設置されていて、そこに見知らぬ荒野の様子が映し出されていた。


 そして声がよく通ることに定評のある、怪鳥の魔族が実況をしてくれるのだった。


 最近は魔族も映像の配信技術を持っていて、遠くで起こっていることをリアルタイムで見ることができる。


 担当者は「今回の討伐の様子を、魔界中に大々的に配信しましょう!」とありがたくも提案してくれたのだけど、私の失敗と恥を魔界中に宣伝することになりかねなかったので、丁重にお断りしておいた。


 そしていま、魔王の間限定で、ゾンビマスターと勇者の戦いが中継されようとしているのだった。


 これほどありがたくない独占中継も、そうないだろう。できれば見たくない。でもそういうわけにもいかない。魔王ってつらすぎる。


「あ、見えてきました。勇者どもが姿をあらわしました!」

 実況者がそう言うと、画面の奥の方から、数名の人間たちが近づいてくるのが見えてきた。


 最初は粒のように小さかったけど、だんだんと大きくなってくる。


 そしてその前に、ゾンビマスターが立ちはだかるのだった。


「さあ、勇者どもとゾンビマスターが向き合い、にらみあっています! これから手に汗を握る激闘が始まろうとしています!」

 実況者はがんばって盛り上げようとしてくれている。


 でもこれから展開されるのは、ゾンビを倒すための魔法を勇者にかける、という光景なのだ。


「ふん、お前は魔王の刺客か何かか?」

 勇者らしき男が、そうゾンビマスターに言った。


 ひげとか生えてるし、いかついし、なんか柄が悪い。目つきもよくない。


 勇者というのはもう少しかっこいいイメージがあったのだけど、現実はずいぶん違う。


 まあ敵がかっこよくても仕方ないから、どうでもいいといえばいいんだけどさ。


「我が名はゾンビマスター。魔王様の命により、貴様にこの攻撃をしかけてくれよう!」

 ゾンビマスターはご丁寧に、私の名前を出してしまった。やめてー。


「くっ、なんだってんだ!」

 勇者が身構える。


 ゾンビマスターは両手をふりあげ、手の先から怪しげな黒い波動を放った。


「うわああ!」

「きゃああ!」

 と勇者たちはノリよく反応してくれる。


 なんかやらせ映像を見ているみたいな気分になってくる。


 ゾンビマスターは私に命じられた通り、ゾンビを滅ぼす魔法を勇者たちにかけたのだった。


「…うーん」

「なんともないようですね」

 勇者たちは顔を見合わせ、そんなことを言い合っている。


 そりゃそうだよね。


 もしかしたら、万が一、億が一くらいの確率で効くんじゃないかって期待したけど、そんなことあるわけないよね。ハハハ…。


「いま、何をしたんだ?」

 勇者がゾンビマスターにたずねる。


「ゾンビを滅ぼす魔法をかけたのだ!」

 ゾンビマスターは高らかに宣言する。恥の上塗りはやめてー。


「いや、俺たちはゾンビじゃないんだが…」

 勇者はあまりにも予想外の展開に、とまどったようだった。無理もない。


「私は命令を実行しただけだ。不思議に思ったのなら、魔王様に聞いてくれ!」

 ゾンビマスターは正直に話してしまう。


「つまり魔王は、俺たちがゾンビじゃないかと思ったってことか?」

 と勇者が隣にいる僧侶に話しかける。


「ちょっとおかしいのではないでしょうか。頭が」


 すごいバカにされてるー!


「何にしても、こいつは魔王軍の実力者のようだし、ここで倒しちゃった方がいいんじゃない?」

 勇者の背後にいる女魔法使いが、そんなことを言いだす。


「それもそうだな。覚悟しろ!」

 勇者たちは武器を構えてゾンビマスターに押し寄せた。


「ふん、こんなこともあろうかと、備えをしておいたわ! 我が下僕ども、勇者たちの相手をしてやれ!」


 ゾンビマスターがそう叫ぶと、地面から次々とゾンビたちが這い出してきて、勇者たちに襲いかかった。


 そして大乱闘に発展すると、それにまぎれてゾンビマスターは逃げ出したのだった。


「え、えーと、ああ、ゾンビたちが次々と勇者たちに倒されていきます! 残念ですが、この場にとどまると、私もまた勇者に狙われてしまうかもしれませんので、このあたりで引き上げさせていただきます! 魔王様、ご視聴ありがとうございました!」

 実況者の声が聞こえたあとで、ふっと映像は途絶えた。


 水晶球は光を反射するだけの、ただの玉に戻る。


 私はがっくりとうなだれ、頭を抱えていた。


「見事なまでに、失敗に終わりましたね」

 補佐役が実に的確なコメントをしてくれた。


 ちくしょー。

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