第2話 魔王様はゾンビマスターに(愚かな)命令を下す

 ふう…と深くため息をつき、私は魔王の玉座でうなだれていた。


「まさか、あそこまでひどい結果になるとは思わなかったわ」

 私はそう言って嘆く。


「では、ゾンビマスターにご命令をお下しになりますか?」

 補佐役は涼しい顔でそう聞いてくる。


「いや、勇者がゾンビなわけないし、ゾンビを滅ぼす魔法なんてきかないでしょ」


 私たち魔族は、ゾンビを作り出して人間たちにけしかける側だから、当然ゾンビを作れるし、同時にそれを滅ぼすこともできる。暴走したりしたら困るからね。


 それができるスキルを持っているのがゾンビマスターで、魔族の中ではそこそこ地位が高い。


 なのでくだらない、そして無駄な命令を出して怒らせるのは避けたいところなのだけど。


「ですが、会議で決まったことを実行しないと、参加者たちは不満を抱くことでしょう。何のために時間をさいて参加したのか、わからなくなりますからね」


「そうよね…」


「それに3代前とは言え、元魔王様の遺命を無視すれば、それは現魔王様の名声を傷つけることにもなりましょう。先の王たちへの礼節を欠く、不遜な魔王として」


「でも勇者をゾンビあつかいした作戦を実行しても、私の名声は傷つくわよね?」


「はい」

 無情にも、補佐役はきっぱりと肯定した。


「どっちを選んでもマイナスじゃない! あー、うー」

 私はうめき、頭を抱えてうずくまる。


 しかし私は魔王なのだ。どんな苦難が待ち受けていようとも…決断はしなければならない。



「あなたに、勇者の討伐に向かってほしいのです」

 私はなるべくおごそかに見えそうな表情を作り、ゾンビマスターに告げた。


 魔王の間まで、ゾンビマスターに来てもらったのだ。


「もちろん、魔王様の命で勇者討伐におもむくのは、魔族としては名誉なことです」

 とゾンビマスターは言った。


 呪術を扱うので、ドクロなどのおどろおどろしい装飾がついた衣装をまとっており、顔色はなんかよくない。


 いつも地下で生活し、人間や魔物の死体と暮らしているせいなのだろう。


「ですが勇者対策会議で、勇者がゾンビであるという前提に基づいて行動する、ということが決まったのだと聞いております」


「う、うん、そうなの」

 私が作ろうとしたおごそかな雰囲気は、一瞬で壊れた。


「となると私は勇者に対し、ゾンビを滅ぼす魔法をかける、ということになりますね。本当にそれでよろしいのでしょうか?」

 改めて聞かれると、すごくうなずきづらい。


「はい…。それでお願いします」

 しかしうなずくしかない。だって、すべては会議で決まってしまったのだから。


「了解いたしました。では、吉報を…お届けできるとよいのですが」

 ゾンビマスターは見た目に反して紳士であるらしく、あからさまに文句を言うようなことはなかった。


 その分だけ、悪いことをしたなあ、という気持ちが私の中に募ってくる。


「魔王様、顔色がよろしくありませんよ。ゾンビマスターに負けないくらい」

 と、ソンビマスターが帰ってから、補佐役に指摘された。


「そりゃそうでしょ。今の私の立場で顔色がよかったら、その方がおかしいから」

 私は補佐役をにらみ、言い返してやった。


 けれども、補佐役はいつもの通り、涼しい顔をしているだけだった。


 ちくしょー。

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