右でしか聞こえない鈴

 旅行で、栃木県の日光にっこう東照宮とうしょうぐうを訪れた。

 天井に〝鳴き龍〟が描かれている薬師堂やくしどう本地堂ほんちどう)の入口で、「鈴鳴龍守」に一目惚れ。〝鳴き龍〟の声を聞いた後、出口付近の授与所で、お試し用(?)の鈴を左の耳元で鳴らしてみる。


 ……あれ。何にも聞こえないぞ。周りが賑やかだからかな?


 しかし、買うか否か迷っている時間はあまりない。好きな色を選んでとにかく購入し、その場を離れた。

 帰る途中、透明ビニールに入ったままの鈴を、何となく右の耳元で振ってみる。


 リリリン、リリリン、


 聞こえた! いい音!

 左でも振ってみる。


 ガサガサ、ゴトゴト、


 ……ガサガサってのは、ビニール袋の音だよね。

 鈴の中に入っている物が、球状の外殻に当たっている音であろうゴトゴトは聞こえるのに、所謂いわゆる〝鈴の音〟が、全く聞こえないのだ。

 再度、右で振る。


 リリリン、リリリン、


 ガサガサもゴトゴトも聞こえなくて、リリリンだけが聞こえる。

 ……あー、そういうことか。


 私の耳は幼少時から、「右はほとんどの音が聞こえないが、高音は少し聞こえる」「左はほぼ正常だが、高音は少し苦手」な状態だった。どうやら、左は高音が本格的に聞こえなくなったらしい。

 で、右で聞こえる音域内に、鈴がたまたま合致したと思われる。

 私にとって、『右でだけ聞こえる音』というのは初体験。めちゃくちゃ奇跡的なので、気に入って、鈴をしょっちゅう鳴らしては子供にうるさがられている。

 いい物買ったわー。

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モノラルと2Dの国《モノラル編》 卯月 @auduki

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