第11話 スポーツ大会②

 微妙な空気に包まれた1年2組の待機場所。そこに移動を知らせるスポーツ大会委員の生徒が来た。そしてこの空気にどうしていいかわからず右往左往していた。それを夜月が見つけた。


「出番だってよみんな」


 「おお、やっとか」「暇だった~」「試合勝ってやるぜ」などの声が上がる。みんなとにかくこの空気をどうにかしたかったようだ。ちょうどいいとばかりに声を上げ気合を入れる。


 それを見た委員の生徒が


「こっちです。ついてきてください」


 と言って案内した。





 **********





 

「ここです」


 そう言って案内されたのは結構端のところだった。ドッヂボールは年齢が上のほうが有利と思っている先生たちなりの気遣いだった。


 そのことに気づいたのは玲央だった。


 玲央は冷静に判断するということが得意だ。だから正論をよく言う。


「なんか俺ら、先生たちには負けることが確定してると思われてるぞ」


「え!マジ?」


「超マジ」


 みんなさっきよりもやる気を出し始めた。


「それは気に食わないね〜」


「そうだね〜負けられないね〜」


 そう言ってニコニコしながら愛衣がコートに入った。それにみんなも続く。


「これから1年2組対2年3組のドッヂボールの試合を始めます。ボールはジャンケンの結果1年2から始めます。1試合時間は5分です。3試合して勝った回数が多い方が勝ちです。それでは始め!」


 速攻で2年生の足元を狙ったボールが放たれた。前の何人かは避けたがよそ見をしていた2年生に当たった。


「アウト!」


 審判がアウトのコールをした。当たった2年生は所詮1年と思っていたのかとても悔しいそうな顔をしていた。


「この調子でどんどん行くぜ!」


「させるか!さっきは油断していただけだ!」


 2年生も声を上げる。


 ボールが飛び交い1人、また1人と当たってコート内の人数が減っていく。





 3試合目の後半になり、どちらの陣営も残り5人を切った。試合は1対1。1年生も負けじと粘っていた。


「ぜぇ、ぜぇ、そろそろ時間だが大丈夫か?体力がないんじゃないか?」


「何を言っているのかなぁ?肩で息している人が」


 愛衣が言った。2組のコート内には愛衣、玖実、瑠唯、萌香の4人。


 愛衣と玖実はガンガン当てにいって、瑠唯と萌香は必死に逃げていた。女子のほうが意外と強かったのだ。


「よく粘るじゃないか」


「それはどうもです」


 瑠唯が答えた。


「いや、お前に言ってねぇよ。逃げてばっかじゃねぇか」


「逃げてでも当たらなければ良いんですよ。これも作戦です」


「それもそうだが、男なら逃げてばっかじゃなくてボール投げろよ」


「それもそうですが、僕は投げるよりも逃げるほうが得意なんですよ。役割分担ってやつです」


 そう話していたからか話をしていた2年生のほうは注意力が散漫になり、その隙を愛衣が狙った。そしてチャンスを逃すような愛衣ではなく、


「そこの2年生、アウト!」


「よっしゃ~!」


 キャラが変わった愛衣が叫んだ。残り1年4人対2年3人になった。そこで終わりを告げるホイッスルが鳴った。


「「「「やった~!」」」」


 萌香たち2組はみんなでハイタッチをしながら喜んだ。


「頑張ったな。まさか勝つとは思わなかったぞ」


 布黒木せんせいが話しかけた。


「どうですか先生~、勝ちましたよ~」


「愛衣ちゃん、絡み方がウザいよ。まぁでも、愛衣ちゃんやけに気合入ってたもんね」


「うん、私舐められるの嫌いなんだよね」


 愛衣が笑いながら言う。その笑いには妙な圧力があった。


「この調子で勝っていこうか」


 瑠唯が掛け声を入れる。


「「「「おう!」」」」





**********





 その頃、職員室では自分が担任をしているクラスが負けて暇になったかもともと暇だった先生たちが集まっていた。


「今年は奇跡的に1年生同士で試合をするところが多いですね」


「そうですね。年が上のほうが有利になりやすいですからどうしても上の学年のクラスが勝ってしまうんですよね。特に1年生は」


 先生たちがうんうん頷きながら聞いている。


「今年は1年2組と1年5組ですね、上の学年と当たってしまったのは」


「そうですね。2組の担任は布黒木先生で5組の担任は根野森先生でしたね」


「布黒木先生と仲の良い嘉味田先生はどう思いますか?」


 嘉味田先生に急に話が振られる。話をほとんど聞いていなかったのか隣にいた先生に質問の内容をこっそり聞いていた。


「どうと言われましても……」


 困った顔をしながら言った。


「何かないんですか?勝ってほしいとか、負けるのはしょうがないとか」


「えぇ……僕たちそういうのを言いあう間柄ではありませんから特にないですね」


 すごく真顔で言ったので質問を投げかけた先生は呆けた顔をした。


 しばしフリーズしていたが、立ち直り『そうか』とだけ言ってほかの話題に移ったのだった。

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なんでもありの学校に入学してしまった!〜なんでもありの学校に入学したら何にでも負けない、動じない精神を養えと言われた〜 濡羽 天使羽 @Atsuha

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