第10話 スポーツ大会①

 係決めから何週間か経った。瑠唯が——内心とてつもなく嫌がっていたが——クラスをまとめ、トラブルも何もなく学校生活を送っていた。


 阿部小部高等学校は他の学校よりも行事が多い。そろそろ行事が一つやってくる。


 そう、スポーツ大会だ。


 スポーツ大会は運動会とは別で、ドッジボール大会が開かれるだけ。『クラスで団結して優勝を目指そう!』というノリで開催する。


 スポーツ大会を通してクラスの仲が深まれば良いな、という先生たちの思惑ももちろんある。あべこべ遊びをもっと行事でやりたいと思っている先生たちではない。………たぶん。


 そんなこんなでスポーツ大会が開かれる。そのことがHRで伝えられる。


「そろそろスポーツ大会が開催される。全員参加だからサボるなよ。」


「サボるってどこの不良生ですか」


 ツッコミがはいる。


「そうか。このクラスはみんな真面目だな。それじゃあ今日はスポーツ大会委員を決める。じゃあ緋河、よろしく」


 布黒木先生が若干わざとらしく言った。


「はい。それじゃあ誰かやりたい人はいる?」


 1人の生徒が手を挙げた。


「緋河君、スポーツ大会委員って何するの?」


「えっと、スポーツ大会委員はドッヂボールの審判だったり、コートの誘導だったりかな」


 メモを見ながら瑠唯がいう。


「わかった!ありがとう〜」


「いいよ。委員の説明をしなかったのは僕だからね」


 そう言って苦笑した。


「それで誰かやりたい人はいる?」


「は〜い!」


 女の子が1人手を挙げた。


「私やってみた〜い!沙美原さんも挑戦してみたいって言ってたから私も!」


「なら私も!」


 その女の子と仲のいい子が手を挙げた。


「あと1人やってくれる人はいる?なるべく男子で。女子ばかりになっちゃうから」


「なら俺がやるよ」


 そう言って手を挙げたのは壁際の男子。


「じゃあその3人にお願いしようと思うけどいいかな?」


「「「「賛成~」」」」


 スポーツ大会委員が決まった。


 {本当に仲良いね、このクラス}


「スポーツ大会委員の名前を、用紙に書かないといけないから名前教えてくれる?まだ全員の名前覚えてなくて······ごめんね」


「全然良いよ~。私は立花愛衣たちばなあい


「私は九二立依洙奈くにたちいずな


「俺は小野寺玲央おのでられお


 一人ずつ名前を言っていく。


「ありがとう。これから委員の仕事よろしくね」


 スポーツ大会委員が決まった。





 **********





 いよいよスポーツ大会の日が来た。スポーツ大会はトーナメント形式。あらかじめどこのクラスと当たるのかはスポーツ大会委員がクラス一人を選出させてくじ引きで決めた。


 萌香たち1年2組は2年3組と当たる。ちなみに夜月は2年4組。阿部小部高等学校は1学年6クラス。


 クラスカラーはそれぞれ決まっており、


 1組:赤色  2組:青色  3組:緑色  4組:黄色  5組:紫色  6組:ピンク色


 となっている。


 なので萌香は青色がクラスカラーだ。大会開催中はクラスカラーのゼッケンを着て過ごす。生徒たちは試合をするまで校庭の割り振られた待機場所で待つ。


「今日、暑いね~。5月なのに」


 玖実が手で仰ぎながら言う。


「そうだね、水分補給が大切だね」


 声が聞こえたのか瑠唯が言う。最近萌香たちは萌香、玖実、海浬、瑠唯、愛衣、依洙奈、玲央の7人でいることが多い。結構な大所帯だ。


 スポーツ大会のためのクラスの決め事などの連絡などをしているうちに仲良くなったのだ。


「それにしても順番全然回ってこないね」


「そうだな。まぁでもしょうがないんじゃない?くじ引きで最後のほうの試合になったんだから」


「そうなんだけどさ~。やっぱ暇じゃん」


 愛衣が言ったことに玲央が正論を返す。


「先生~なんか面白いジョークとか言ってくださ~い!」


 一人影のほうで保冷剤を首に幾つも巻きながら涼んでいた布黒木先生に言う。


「えぇ。…………よし、いいだろう。


 布団が吹っ飛びタワーに絡まりUターンして自分に巻きつく


 どうだ?」


 布黒木先生のジョークかどうかも怪しいものにみんなどう反応したらいいのかわからず、固まる。


「なんだ。ジョークを言ってやったんだから反応くらいしろよ。めっちゃ恥ずかしいだろ」


「…………そうですね。それはジョークのつもりだったんですね、とだけ返しときます」


 いち早く我に返った愛衣が言った。


 こうして1年2組の待機時間は微妙な空気に包まれた。

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