おやすみ


「ゆびきりしよう!」

「えっ?」

「ままとね、やくそくするときかならずこれしてたのっ」


 麻子は、嬉しそうに話してくれる。

 どうやら麻子の心の中では百合は生き続けているみたいだ。


「うん、分かった」


 小さな小指に自分の小指を結ぶと、「せーの」と言って二人してゆびきりの歌を歌った。


 麻子は、とても嬉しそうだった。


 その表情を見て僕まで嬉しくなった。


「ぱぱ、やくそくやぶったらのどがいたくなっちゃうからね!」

「のどが……?」


 ……あ、それってもしかして、針千本のことだろうか。


 百合にそう教えられたのかな。


 微笑ましくなって、笑った。


「ぱぱ、のど痛くなりたくないからちゃんと約束守るよ」


 そう言いながら、麻子の頭を撫でた。


「うんっ! ぜったいだよ!」


 僕は、小さなこの手を守っていかなければならない。娘である麻子を守っていかなければならない。

 百合との間にできた子どもの麻子は、僕たち二人の宝物だ。

 僕の命に変えてでも守ってみせる。


 きっとそれが、父親の使命なのだ。


「ぱぱ、おやしゅみなさい」


 誰かの代わりになんてなれないけれど、自分が今できる精一杯のことをしよう。


「麻子、おやすみ」


 僕は、そのときのことを、きっとずっと忘れないだろう。


 ーーそう思って、ゆっくりと瞼を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢の中で、笑って 水月つゆ @mizusawa00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ