声で紡ぐ想い


「……私も」


 それでも嫌いにはなれなくて。苦しむとわかっていても、好きで。

 人間って、面倒くさい。自分の感情ばかり優先して、矛盾だらけの感情で。


「律のこと、好き」


 けれど、人間でよかったと心底思う。

 伝えることが、できるから。


「よかった。嫌いって言われたらどうしようかと思った」


 焦った顔で、脱力する律。


「……もし私が、嫌いって言ってたらどうしてたの?」

「どうって、諦めないだけだけど」

「諦めない?」

「もう一度好きになってもらえるよう今度は俺が頑張る番かなって」


 友達同士から、恋人同士に進展して。

 他校だから不安になることもいっぱいあって。お姉ちゃんの言葉の意味もわかって。


「でもさ、今日みたいなのは一度きりでいい。結から別れようってメッセージあったとき、息止まるかと思った。それくらい衝撃的だったから……それなのに電話してもすぐ出てくれないし」

「それは……だって……怖かったから」

「怖いって、なにが?」

「……分かったって納得されるんじゃないかと思って」

「俺が納得するはずないじゃん。こんなに好きなのに」


 言葉って素晴らしい。

 感情も、思いも、全部乗せられる。


 律の声で〝好き〟って紡がれる。


 愛おしくて、たまらない。


「俺たちさ、元々は友達だったじゃん。何でも言いたいこと言い合って、くだらないことで笑い合ってバカやって、自然体でいられた」

「…うん」

「だから、言わなくても俺の気持ち分かるだろって勝手に思ってた」

「……うん」

「でもさ、気持ちってちゃんと言葉にしないと伝わらないんだよな」


 悲しそうに微笑んで、私の手のひらを掴む。


「付き合ってるからって相手の気持ちを完璧に分かるなんてこと無理だよな。そんなの超能力でもない限りできないし」


 強く、握りしめる。

 私も、握り返して。


「これからはちゃんと言葉で伝える。結が不安にならないように、誤解を与えないようにちゃんと伝える」


 すれ違いたくない。離れたくない。


「だから、結も、少しでも不安があったら言って。俺、結の気持ち全部受け止めたいから」


 好きと嫌いは、紙一重で。

 好きと素直に言えなかった私は、天邪鬼で。


「……うん。私もちゃんと伝える」


 言葉で伝えることは、簡単なようで意外と難しくて。

 それでも相手のために一生懸命になるのは、それだけ大切な人だから。


「ちゃんと伝える。伝えるから……嫌いにならないで」


 不安だった思いをいっぱい込める。


「ならないよ。大丈夫。俺、結のことずっと好きな自信あるから」


 好きな声で、欲しい言葉を紡いでくれる。


 文面ではなく、言葉で紡ぐ。


 それがすごく大切なことだと、今回ようやく気づいた気がした──。

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天邪鬼な僕たちは 水月つゆ @mizusawa00

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