憂鬱
蓮司
憂鬱
「…なにしてるの?」
私が目を覚ますと目の前には沈んだ
「また彼に貰ったネックレス無くしちゃったの?」
返事は無いが多分そんな感じだろう。
物を無くしやすいリコは毎回出かける度にアクセサリーを何処かに落として帰ってくる。
それが今回はたまたま彼氏に貰ったネックレスだった。
リコは重度のうつ病の影響で記憶が飛びやすい。
日常の些細な記憶も忘れたくない大事な思い出も時間が経てばランダムに切り取られていく。
1度離れた記憶は基本的に戻ることはない。
記憶が曖昧な状態で何処にネックレスを落としたのかなど見当がつくはずがないので、こうなったらもう諦めることしかできない。
「またプレゼントしてくれるよ!」
実はリコが貰ったネックレスを無くすのはこれで3回目。
優しい彼は次も頭を撫でながら大丈夫と笑ってくれるのだろうか。
あれだけ次は無くさないと誓った矢先にこれだ。
流石に愛想も尽きてしまうだろう。
彼に依存気味のリコはそんな未来をぐるぐる考えては沈んでいく。
彼女の不安は憂鬱な朝を飲み込んで視界を黒い遮光カーテンが蝕んでいく。
「…とりあえず学校行こうよ」
静かに息をする彼女はピクリともしない。
今日は行かないのかな。
じゃあ家の中で何するの?
今日も退屈すら感じない世界で既に化石になった思い出を引っ張り出して灰色のため息を吐くのかな。
いつまでこんな生活を続けるつもりだろう。
彼女の心が健康になる未来は来るのだろうか。
不安で眠れない日々は終わるのだろうか。
絶望的な未来しか見えないな…
…なら私が前を向かせてあげないと!
とりあえず優しく話しかけてみる。
「そんなことしてないで早く学校行こうよ」
まぁ無視されるよね。
でももう少し話しかけてみよう。
「今日の給食はカレーだって。」
「明日の体育は雨だからバスケだよ!」
「週末遊びに行くんでしょ?新しい服買おうよ」
「もうすぐ彼氏の誕生日だよ!何買ってあげる?」
「来年は自動車免許取りに行こうね!」
「卒業旅行どこ行く?私は北海道が良いな〜」
「ねぇ今度は…」
リコの元気を取り戻す為に彼女が楽しみにしていることを並べて話しかけていると、急に彼女は私を見下ろして叫ぶ。
「もううるさい!!ほっといてよ!リコ!」
「あ…」
リコが蹴った椅子は部屋の真ん中で倒れた。
憂鬱 蓮司 @lactic_acid_bacteria
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます