異世界転生を利用し、影から世界を支配する王様の話
彬兄
クラス召喚に対抗する方法
クロマーク王国では、重要な決定は往々にして王城の謁見控え室にて行われる。
クロマーク国王ウラカーター5世は、本日の謁見希望者とその背景について密偵より報告を受けていた。
「最初はクルタ聖王国からの使者との面会予定じゃったか。」
王の問いに密偵は答える。
「はっ。どうもかの国では先月に勇者召喚を行ったようで。それもクラス召喚を。
半年前より大神殿の内部に大規模な教練設備を建設していましたので、それとなく見晴らせておりましたが、大規模な儀式魔法の行使の形跡が確認出来たとのこと」
「バンゾック帝国との戦争に行き詰まっておった故、そろそろやらかすだろうと思うておったが、案の定じゃったか。
それにしても、良く考えたものよな。平和な異世界で育った若造をまとめて召喚して、訓練施設で外界と遮断して自国の都合の良い思想を吹き込んだ決戦部隊を作り上げると……。対処は前例の通り行っているのであろうな?」
「はっ。ハズレスキルと評され捨てられた『くらすめいと』の一人を密かに追跡し、ダミー討伐依頼で誘導した善良なA級冒険者パーティーに保護させることに成功しております。ハズレスキルを覚醒させる手はずも万事抜かりなく」
「でかした。ふん、やつらも学習せんのう。クラス召喚を行って戦局を一時的に打開しても、中長期的には御しきれずにそれ以上の被害を出すことくらい、歴史を紐解けばわかりそうなものじゃが」
「クルタ聖王国のナーマ・グーサ大司教は、そうなる前に使い潰してしまえば良いと考えているようです」
「これだから狂信者どもは救いがたいのう。さしずめ、クルタ聖王国使者の目的は我が国の軍事的不干渉の取り付けか」
「おそらくはその通りかと。諜報部隊への指示はございますか?」
「ハズレスキル覚醒がなるまでは静観で良かろう。引き続き監視を続けよ。使者はわしの方で口約束で煙に巻いておく。表向きに我が国はたいした戦力を持たんし、やつらもそれ以上の期待はしておらぬじゃろうて。
しかし、そうなると近隣諸国へのとばっちりが気になるな。持て余して別の国にまで戦火を広げられるとさすがに面倒じゃ。早めに自滅させておかねばな。
そういえば、10年前に『社畜異世界人』の記憶をすり込んだド・イナーカ公国ゴクツブシー男爵家の6男はどうしておる?」
「は、行商人の護衛に手のものを潜り込ませて魔術教本を渡しておりましたが、無事に解読したようです。独自に辺境魔物狩りを始めており、近くの街で異世界技術を応用したと思われる道具類の流通も確認いたしました。
さらに、無能なゴクツブシー男爵一家に業を煮やして、近々出奔を企てている様子。予定通り、公国上層部には特賓対応すれば産業振興間違いなしとの噂を流しております」
「うむ、そこまでお膳立てしてやれば公国の貴族共が身内の令嬢を送り込んで取り込もうとするはずじゃ。今のうちにかの国の近辺にある古代遺跡を洗い出して、叙爵の口実になりそうな難易度のものを見繕っておけ。時期を見て攻略情報をギルドに流すとしよう。
この『ナイセイチート転生』でド・イナーカ公国の新規開拓が進めば、クルタとバンゾックの戦で出た難民の受け入れ口にもなろう」
「はっ、仰せの通りに」
「他に報告はあるかの?」
「『追放した仲間にざまぁされて破滅したパーティー』の報告が2件ございますが、お時間が……」
「またか……。今月に入ってもう7件じゃぞ。レアスキル覚醒のために傲慢パーティーに放り込んで虐げておく必要があるというのはわかるが、せめて追放の時期くらいはなんとかコントロールできぬものかのう」
「おそれながら、これも女神の気まぐれなれば……」
「致し方なし、か。よい。その報告は謁見のあと受け取ろう。今のうちに報告書にまとめておいてくれ。下がって良いぞ」
こうして、今日もクロマーク王国は影から世界のパワーバランスを操り続けるのであった。
異世界転生を利用し、影から世界を支配する王様の話 彬兄 @akiraani
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