夜、融ける

静寂

夜が好き。星が綺麗に見えるから。

僕は何にもない人間だ。友達も少ないし、勉強も運動も中の下。努力が報われないのか、それとも努力の仕方が悪いのかはわからないが、何をやってもうまくいかない。それなのに、僕の周りの同級生たちは毎日を楽しそうに過ごしている。周りの人間に劣等感を抱いて生きている人間が、そんな輪の中で笑って過ごせるわけもなく、僕の周囲と人々との距離は自然と開いていった。そんな僕の唯一の楽しみは、夜の学校に忍び込んで星を見ることだ。昼間は騒がしいこの場所も、夜には静寂に包まれる。今の時期は耳を澄ませると、鈴虫の声が聴こえる。誰の目も気にしなくていいこの時間のこの場所が好きだった。

「ずっとここに入れたらいいのにな。」

校庭で空を見上げながら、ふとそんなことを思った。

今目の前に浮かんでいるのはデネブ。その隣にペガ、下にアルタイル。アンタレス…最近覚えたばかりのそれらの名前を呟きながら指差す。

そんな時、一つの光が流れた。流れ星だ。

思わず飛び起き、星に願った。

「夜とひとつになれますように。」

その星が描いた軌道の先で、きら、と音が聞こえた気がした。音のした方を振り返ると、どうやら学校のプールの方から聞こえたようだ。

瞬間、風が僕の背を押した。気がついた時には、僕は校庭を飛び出してプールへ駆け出していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜、融ける @Sorano_hibiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ