最終話 ハローベイビー誰かがお前を愛してる
鉄鋼戦車を撃破したカツミは何とか葛城の目の前までやって来たが、さらなる試練が待ち受けていた。
「ミサイルだと…ッ!?」
葛城が押したスイッチ、それこそが彼が鍵と呼んだミサイルの起動スイッチだったのだ。
しかし、これで何をしようというのか?
見た所ミサイルは大型とはいえ一発だけ、これだけでは建物を跡形もなく吹き飛ばす事は出来るがただそれだけだ。
「てめぇ、そいつをどこに飛ばすつもりだ!!戦争を始めたいってのはどういう事だ!!」
とカツミは怒号混じりに葛城へ叫び散らすと、ついに彼の真意が明らかになる。
彼は静かにその口を開いて、彼の戦争がしたいという夢についての説明を始めた。
「俺の夢は…この世でくすぶっている戦士たちをもう一度戦わせたかった、ただそれだけさ。今まで馬鹿みたいな都市伝説を流したり、適当にそれっぽい奴を追わせたのも、皆の提案あってこその事…」
「何…?」
「皆…私を含めて戦争が終わった後の兵士は悲惨だ、君もそうだったように…。ろくな仕事も見つからず、裏社会に身を投じても大して戦えず、腐っていく人間を救いたかったのさ。そして、俺がこのミサイルで海外の原子力発電所を破壊する、それが全ての狼煙になるのだ」
彼の夢とは、兵士のために適当な国の原子力発電所へミサイルを撃ち、再び各国に緊張状態にさせるという途方もない物だった。
再び国同士で憎しみ合えば再び職にあぶれたサイボーグ等の兵士を戦場に送り出すことで彼等を救おうというのだ。
「人間は愚かだ、自分達の生活が脅かされれば真っ先に武器を取る。そしてそこから戦いの火は拡がっていく…そしてその戦場で活躍するのは俺の考案した新型強化兵士達だ、鉄の血を流す彼等が前の大戦以上にどでかい戦いにしてくれるはずさ…」
「そんなバカな…!人間はそこまで愚かじゃない!それに、昔のように理由もわからず戦うはずがない!!」
「やるさ、国がやらなくても兵士がやる!それに原発を攻撃されたとなれば、話は別だろう?」
彼は会話を続ける中、自然な動きでポケットに手を入れて中身を取り出し、これ見よがしにリモコン型の端末を見せ付けてくる。
恐らくそれがミサイルの発射スイッチなのだろう、彼はそれを高くかがけると、また口を開いた。
「戦争が始まったら俺が各国の研究機関に液体金属のデータとその他諸々、配信で得た戦闘データを流してやる。そうなったら、今度はお互いが滅びるまで戦ってくれるかもねぇ」
そして彼はついにスイッチに指を置き、いよいよミサイルを本格的に起動しようとしたその時、カツミが吠えた。
「ざけんな…ッ!さっきから知った風に言いやがって…そりゃ戦いたい兵士もいるだろうが、皆が皆戦いたい訳じゃねぇ!!何が救いたいだ、結局自分のエゴを押し付けてるだけじゃねぇか!!」
「エゴ…?だが、俺以外に誰が戦士を救う?」
「人間はそこまでバカじゃねぇ、必ず誰かが救いの手を差し伸べてくれる…俺がそうだったようにな!」
カツミは自身が三又によって救われた経験があったからこそ、こんな事が言えるのだった。
もちろん必ずしも救いの手が差し伸べられる事はないかもしれない、今までの敵もどうしようもない悪党ばかりではあったが、例外もあった。
タチアナのような人間だっているのに、何も知らずに救うと言い放った葛城に彼は腹がたった。
「…まぁいい、どうせこのミサイルが飛べば例え嫌々でも戦うしか無いんだ。止められるものなら止めてみろ」
何処か呆れたように言い放つと、ついに彼は起動スイッチを押してしまった。
その瞬間ミサイルに火が点き、アナウンスが流れ出す。
『ミサイル起動シークエンス発動、十秒後に発射されます』
「くっ…!!」
「いくら君でもそんなズタボロではどうしようもないだろう、さぁどうする?」
恐らくカツミにはもう止められる力はないと踏んだのだろう、彼は挑発するようにカツミにどうするか言い放つ。
しかし、彼は甘かった…カツミは考えるよりも先に動くタイプだと。
「うおおおおッ─!!」
何と彼は叫びながらミサイルへ向かって走り、何とその外装にしがみついたのだ。
そんな中、ミサイルはついにカウントダウンを終えいよいよ飛び立とうとしていた。
「何をする気だい…!!まさか、破壊するつもりか!?そんな状態じゃ…」
「お前はそこから見てやがれ!!」
そしてついにミサイルは発射され空を舞った、カツミと共に。
すると、
「葛城譲二!!貴様何をした!!」
葛城は振り返ると、そこには機動隊と刑事、そして光明寺がゾロゾロとやって来ていた。
恐らく屋上のミサイルや戦車との戦いで大急ぎでやって来たのだろう。
光明寺はその体に包帯を巻いたまま、痛みを押して駆け付けていた。
「貴様、あのミサイルは…!カツミはどうした!」
「…カツミくんならあのミサイルと共に飛んだよ」
「何ィ…!!」
光明寺が葛城に詰め寄ろうとした瞬間だった。
遠くの空で花火のように何かが爆発する音がした。
その音の方向へ顔を向けると、爆風と爆炎が空で拡がっていた…
「か、カツミィーッ!!」
こうして、事件は幕を閉じた。
一人の犠牲によって…
───────────────────────
それから二ヶ月、葛城の逮捕を皮切りに彼に資金や技術等を提供していたコンツェルンの関連企業、知っていながら己の利益のために黙っていた大幡重工社長や会長等が次々と逮捕され、事件はいよいよ完全に集結しようとしていた。
一方、ミサイルを撃ったという事実は諸外国に衝撃を与えたが、未然に防がれた事により大事にはならず、これまでの出来事は忘れ去られようとしていた…
「もう二ヶ月か…」
公安、特に光明寺はミサイルと共に自爆したカツミの行方を必死に探ったが、未だに手がかりを掴めないままだった。
「…あの嵐のような男がそう簡単にくたばるはずもない、か」
光明寺はデスクに座り、仕事をしている中で昼休憩になるのに気付く。
彼はひとまず、仕事に一段落付けるため警視庁近くのコンビニに行こうと考えた。
色々な事を考えながら、コンビニへ向かい適当な食事を買って会計を済ませようとした時だった。
「いらっしゃいま…あっ」
「ん…?あっ!」
彼はレジに立つ男がこちらを見て変な声を出すので、何かと思って顔を見る。
そこには、見知った顔が立っていた。
「…よう、久しぶりだな」
こうして、事件は完全に解決する。
二人の再会を祝して。
ブラックV スティーブンオオツカ @blue997
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